第32話 王都へ
レイは魔法イメージ処理器官を損傷し、一時は魔法師生命が絶たれたかに思われたが、ソフィリアがスピリチュアル・ボディになってレイに宿り、魔法イメージを代行処理することによって、問題は解決された。
そして、当然精神の中にソフィリアがいるという不思議な学院生活を送っていたレイ。
初めは慣れなかったが、今となってはほとんど問題はない。
強いて問題を上げるとするならば、授業中先生の教える魔法や、他の生徒が使う魔法について「そうではありません!」「はぁ、これだから人間は……」などとうるさいくらいだ。
そして、色々あってあっという間に感じられた一年が今、経とうとしていた。
四年生が学院を卒業し、学院は長期休暇期間に入る。
そして、レイは卒業したケルトとエリスと共に近衛魔法騎士団『執行室』に入隊することになる。
長期休暇を利用して王都に出向き、室長ルーナのもと、正式に入隊手続きを行わなくてはならないのだ。
ちなみに、空いた生徒会長と副会長の座には、元々生徒会メンバーだった三年生が就くことになった。
いざ、王都へ────
□■□■□■
「で、どうしてこうなった……」
ルビリアを出て王都に向かう途中、馬車に揺られながら、レイはそんなことを呟いた。
「良いじゃない。どうせレイも王都に用事があるんでしょ? そのついでに私の護衛をしてくれれば良いわ」
と、レイの対面に腰掛けるアリシアが肩をすくめさせながら答える。
「アリスは帰省……王城に戻るんだったよな? で……まさかその期間俺も……」
「安心して良いわ。ちゃんと貴方達の部屋は用意させるから。もちろん別々の部屋でね?」
『私は別にレイと同室でも構いませんけどね?』
と、レイの脳内でそんなソフィリアの声が聞こえる。
レイはその声を聞かなかったことにして、一度ため息を吐き出す。
「まあいいか……宿を取らなくて済むと考えれば……」
「あら、王城の宿賃は高いわよ? きちんと私を守りなさいね?」
「へいへい……」
そうして、レイとその精神に宿るソフィリア、アリシア、馬車を引くリーンは、三日間馬車に揺られ続けた────
□■□■□■
「昔何度か来たことあるけど……やっぱ、すげぇ都会……」
王都の一際大きな正門を潜り、そのまま馬車に乗って王城まで進んでいく。
レイは馬車の小窓から街並みを見渡しながら、その光景に圧倒されていた。
道はひび割れ一つなく美しい石畳で整備されており、歩道の脇には等間隔に装飾の凝られた街灯が並んでいる。
建物はどれも大きく、街並みに合うようにどれも統一されている。
道行く人は貴族はもちろん、平民のほとんどが上質な服を身に付けており、一目で裕福な暮らしをしているということが受け取れる。
しばらくして、王城の前まで馬車が来ると、レイは一旦アリシアと別れた。
レイはここから王城ではなく、近衛魔法騎士団本部に向かわなくてはならない。
「さて……本部どこだろ?」
『レイ……場所を教えられてなかったんですか?』
レイは、脳内でソフィリアの若干呆れ気味の声を聞く。
そして、まあどうせ目立つ建物だろうから適当に歩いてれば見付けられるだろうと思い、レイは王都の道を適当に歩き出す。
(いやぁ……建物がいちいちデカイ……)
ルビリアの古風な建築様式で統一された街並みも実に美しいが、王都はその華やかさが桁違いだ。
ほぇ……と感嘆の息を漏らし、辺りをキョロキョロしながら、しばらく歩いていたレイ。
すると────
「おい平民ッ! 私にぶつかり、加えて服を汚すとは……ただでは済まさんぞッ!?」
「も、申し訳ありませんッ!」
レイがいるところから馬車道を挟んだ歩道で、一人の男性が身体を震わせながら頭を深く下げている。
そして、そんな男性に怒りに満ちた視線を向ける少年は、身なりからして高い地位の貴族だと思われる。
貴族の少年はどこからともなく杖を出現させ、頭を下げている男性に向ける。
「私が直々に処罰してくれようッ!?」
「お、お許しをぉ……!」
レイは、それを見て止めに入った方が良さそうだと思い、馬車道を飛び越えるためにマナを纏って身体能力を上げようとするが────
「待ってください!」
突然、男性と杖を向ける貴族の少年の間に少女が割って入った。
日の光に照らされて、本当に燃えているかのように輝く
そして、温柔な性格であることを語る若干垂れ気味の赤い瞳は今、貴族の少年に向けられている。
「弱き者を力で従わせるのは、貴族の行いとしてあるまじきものだとは思いませんか!?」
「っ……!? 貴様、公爵家の長男である私に対してその口振り……今すぐ撤回して許しを乞うがいい! さもなくば、貴様もそこの平民もろとも処罰するッ!」
「撤回しかねます! どうかお考え直しください!」
「黙れッ!? 仕方ない、貴様にも罰を与える──」
貴族の少年は、赤髪の少女に杖の先端を突き付ける。
(やべっ……これはダメなやつッ!?)
レイは少年が本気で魔法を使うと確信し、すぐさま身体にマナを纏わせる。向上した身体能力──人間の限界を余裕で越えた脚力で地面を踏み、多くの馬車が行き交う馬車道を高く飛び越える。
「うわぁ!? な、何だ貴様ッ!?」
突然上から降りてきたレイに驚いた貴族の少年は、数歩後退りしてレイに杖を向ける。
「いやぁ……こんな大通りで魔法なんて使ったら危ないですよ?」
「平民の分際で指図するなッ!?」
『たかだか生まれて数十年の人間風情が……舐めた口を利いていますね?』
レイはそんなソフィリアの脳内の呟きに苦笑いしながらも、目の前の貴族の少年を落ち着かせようとする。
「ほら、服に汚れが付いたくらいどうってことないですよね? だって公爵家の長男様なんですから! それはもうお金も沢山持っているでしょうし、貴族として深ぁい器であらせられるでしょうから、こんなことで騒ぎ立てたりしませんよねぇ~?」
レイはあからさまにへりくだって、妙にニコニコしながら演技がましく喋る。
それを聞いた貴族の少年は、言葉を詰まらせてから視線を逸らし、「も、もちろんだ!」と言い張る。
そして、貴族の少年はコホンと一つ咳払いをしてからぶつかった男性と、赤髪の少女に不満げな視線を向ける。
「今回は許してやるが、次はないからなッ!? 精々気を付けろ!」
そう言い残して、貴族の少年は大股でどこかへ去っていった。
そして、男性もレイと赤髪の少女に何度も頭を下げてお礼を言ったあとこの場を立ち去る。
ポツンと残ったレイと赤髪の少女。
微妙な沈黙が二人の間に流れるのだった────
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