第25話 謎の少女

 アスアレシア王立魔法学院生徒会。

 会長のケルト、副会長のエリスと他数名。そして、一年生にして生徒会役員となったレイで構成されている。


 ケルトやエリスは立場的にも生徒会の仕事でかなり忙しそうにしているが、レイを含めた他の生徒会役員はそうでもない。

 時々書類整理をしたり、ケルトから人手が欲しいと頼まれたときに生徒会室に出向く程度。

 あとは大規模イベント──最近で言ったら魔法競技際がそうなるのか──の前後の準備や後片付けくらい。


 レイも生徒会に入ってしばらく経つが、正直なところ生徒会役員である自覚はあまりない。

 時々その立場を忘れてしまっているほどだ。


 しかし、今日は違った────


「レイ君、そっちに行ったよ~!」


「了解です、会長」


 辺り一帯木が群をなして生えており、視界が悪い。

 そんな中、ケルトの声を受けてレイがある茂みの方へ視線を向ける。


 すると────


「ガルゥウウウッ!?」


 一匹の狼型の魔獣が飛び出てきて、レイに向かって鋭い牙と爪を見せつけてくる。


 レイは素早くその魔獣へ右手人差し指を向け────


「《雷線よ》──」


 神聖語でそう呟いた瞬間、向けた人差し指の先から青白い閃光が一直線に迸る。

 そして、飛び掛かってきた魔獣の額を正確無比に撃ち抜く。


「クゥン……ッ!?」


 一瞬にして命を刈り取られた魔獣は、力を失ってそのまま地面に崩れ落ちる。


「ふぅ……この辺りはその魔獣で最後のようですね」


 と、別のところからエリスが戻ってくる。


「ボクのところも終わったかなぁ~」


 ケルトも長い杖を肩に担いで、ニコニコしながら戻ってくる。


 レイは足元に転がる魔獣を見ながら、疲れたようにため息をこぼす。


「いや……まさか生徒会にこんな仕事があるとは思ってませんでしたよ……」


 ────ここは、魔法学院と修剣学院の間に位置する森。


 どちらの学院の授業でも時々使用される場所で、区域でどちらの学院が管理するか別れているのだが、こういった森には魔獣が生まれることがある。


 そのため、こうして生徒会の仕事の中には、魔獣の目撃報告が上がってきたらそれを駆除するというモノがある。


 今現在も他の区域では他の生徒会メンバーが駆除活動を行っているだろう。


「あはは! あれ、言ってなかったっけ?」


「会長……貴方という人は……」


 相変わらず陽気なケルトに、エリスが呆れたようにため息を溢す。

 レイはそんな二人を苦笑いで見ていた。


 だが、この区域の魔獣駆除は済んだ。

 あとは学院に建っているバカ高い示現の塔にある生徒会室に戻って、報告書をまとめるだけ────


「「「────ッ!?」」」


 レイ、ケルト、エリスは本能的に危険を感じ取り、その場から飛び下がる。


 すると、さっきまで三人が立っていた場所に、紅蓮の炎が勢い激しく駆け抜けた。

 地面は黒く焼け焦げ、辺りの木々も炭と化す。

 仕留めた魔獣も跡形なく消え去っていた。


 その光景を見た三人は一気に警戒体制に入る。


「ほう……今のをかわしたか。なら、これはどうじゃ?」


 どこからかそんな少女の声がした。

 そして同時、三人に向かって再び炎。

 全てを焼き尽くさんとばかりに燃え上がり、猛々しく迫ってくる。


「水魔改【アクア・ウォール】ッ!」


 エリスはそう叫んで杖を振るう。

 水魔【アクア・シールド】を改変して、消費魔力量を犠牲に水量と威力を高めた【アクア・ウォール】を展開する。


 三人の前の地面から凄まじい水量の水が噴き出し、大きな壁を形成。

 そこに、迫ってきた炎が激突する。


 バシュゥウウウ──ッ! と、一気に水の壁は白い蒸気都化し、一帯を包み込む。

 だが、そのかいあって炎は消滅。

 残った熱風のみが三人の身体の横を吹き抜ける。


 そして、既に反撃の準備に入っていたケルトは、長杖を大きく掲げ、頭上に大きな炎の塊を作り出していた。


「炎魔【フレア・バースト】ッ!」


 B級魔術──その圧倒的な破壊力を持った炎が、先ほど少女のような声がした方向へ飛んでいく。


「流石じゃな……学生でありながら強力なB級魔術を使いこなしておるわ──水魔【アクア・キャノン】」


 このとき、三人ともが驚愕した。


 先ほどの炎の攻撃はどう考えても『炎熱』の黒魔法。しかし、今水魔と言った。それも、B級の『水流』の黒魔法だ。


 人間は一つの系統の黒魔法しか使えない。それは絶対の原則。

 レイなら『電気』、ケルトなら『炎熱』、エリスなら『水流』といったように、万人に当てはまる。


 しかし────


 ケルトが放った炎の塊が、爆発的な水の勢いに飲み込まれた。

 そして、宙で爆発し、水蒸気を含んだ爆風が辺りの木々を薙ぎ倒す。


 身を屈めて何とかその場で持ちこたえた三人。

 そして、相手の正体を確認するべく、細めていた目を開いた。

 すると、木々がなくなって開けた視界の先に、一人の少女がポツンと立っていた。


 十歳前半と思われる小柄な少女。

 背中まで伸ばされた鮮やかな金髪は、陽光を浴びて眩しく輝いており、肌は圧倒的な白さを誇っている。

 幼さのある顔ではあるが実に楚々と整っており、大きな瞳は純度の高いルビーのように深紅。

 その容姿のどれもが、着ている黒のオーガンジーと実に似合っている。


「子供……!?」


 と、レイとケルトの心中を代弁するようにエリスが驚愕の音を漏らす。


 さっきの凄まじい威力の炎も、ケルトのB級魔法を同じくB級魔法で撃ち消したのも……全部この少女がやったことなのかと。


 少女はニヤリと広角を吊り上げて、片手を三人に向ける。

 そして────


「水魔【アクア・ジャベリン】」


 一本の大きな槍を形作った水が少女の傍らに出現し、ひゅいっと少女の手が払われると同時に発射される。


 まるで三人の疑問に答えるように、魔法を披露するように──しかし、こんな魔法が直撃すれば間違いなく死ぬ。


「《雷よ、先鋭なる刃となりて我が手に集え》──」


 レイはケルトとエリスに聞こえないように小さくそう呟き、右手に紫電の刃を纏わせる。

 そして、力強く地面を踏み込み────


「ふっ──ッ!」


 飛来した水の槍を両断する。


 そして、レイの中でこの少女が危険な存在だと認識される。


 ただちにマナを身に纏い、身体能力と肉体強度を高め、跳躍。

 一気に少女に肉薄し、上から叩き落とすような蹴りを放つ。


「やはり……貴様は面白いな?」


「なっ……!?」


 少女はレイの蹴りを、涼しい顔を浮かべて片手で受け止めたのだ。

 威力が伝導して、少女の足元の地面はベコリと沈むが、少女は平然としている。


「まあ、落ち着け三人とも。私は敵ではないわ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る