第22話 四年ぶりの再会
マナを身に纏い、大幅に身体能力と肉体強度が向上しているレイは、アリシアを横抱きに抱えていることをものともせず、路地裏を疾走する。
横目に過ぎ去る景色を見ながら、壁を駆け上がって、見晴らしの良い建物の屋根の上に出る。
「レイ……?」
アリシアが心配そうにレイを見る。
「ちょっとヤバイな……完全に追い込まれた……」
「わ、私を置いて行って!? レイ一人なら──」
「──んなこと出来るわけないだろ。バカかお前は?」
「ば、バカって何よ!? 私は貴方を心配して──」
と、アリシアの言葉はそこで途絶えた。
レイが一時止めていた足を一気に進めたのだ。
そして、その場所に半瞬遅れて刃で刻まれたような跡が出来る。
どこからか『風候』系統の黒魔法が飛んできたのだ。
「誰だ……!?」
風の刃が飛んできた方向に視線を向けると、離れた屋根に立っている長いローブを着込んだ人が、こちらに杖を向けていた。
そして、続けざまに風の刃が飛来する。
レイはその機動を見切りながら、屋根を駆けて回避していく。
しかし、人を抱えた状態で戦うという慣れない状況にあるレイは、不覚にも足場を踏み外してしまう。
「きゃあッ!?」
「アリスっ……!」
レイは咄嗟にアリシアを強く抱き寄せ、自分をクッションにして路地裏の細道に落ちる。
生身であったら骨の数本は逝っていた──いや、普通に死んでしまっていたかもしれないが、肉体強度が高まっている今は、結構痛いと感じるくらいで済んだ。
「ちょ、ちょっとレイ!? 大丈夫!?」
レイの身体の上に乗る状態となっていたアリシアは咄嗟に降りて、レイの顔を覗き込む。
「だ、大丈夫だ……って、いや泣くなよ……」
レイがどこか呆れたように視線を向ける。
その言葉を聞いて、アリシアははっとしたように、潤んでいた自分の目許を手で拭う。
「誰も泣いてない!」
「いやぁ……アリスの貴重な一面が見れたな」
「っ……!? あとで貴方の記憶が消えるまで、頭を鈍器か何かで殴ってあげるわ……!」
「あ、あはは……」
アリシアの睨みは結構迫力満点なので、レイもそれには苦笑いを浮かべざるを得ない。
しかし、そんな悠長なことをしている間に、一本道であるこの場所の前後を、それぞれ二人ずつの魔法師が抑えていた。
先ほど風の刃を放ってきていた魔法師もその中の一人だ。
レイとアリシアはすぐに立ち上がり、警戒体制に入る。
レイは出来るだけアリシアを自分の近くに置き、アリシアはせめて自分の身は自分で守ろうと杖をその手に出現させる。
そんなとき────
「素晴らしい……素晴らしいぞレイ!」
「……ッ!?」
レイはその声の主を見て目を見開いた。
声を聞くのも、姿を見るのも四年ぶりか。
このアスタレシア王国で魔法の名門とされる家の一つ──ベリオール家現当主にして、レイを家から追い出し、山に捨てた張本人────
────バルサ・ベリオール。
「お……お父様……」
「え、お父様って……レイ……!?」
アリシアがレイの呟きに驚愕する。
そして、レイが前に──魔法競技祭の中で言っていたことを思い出していた。
(レイの父親、バルサ・ベリオール……我が国で名門とされる家の一つね……。でも、どうして勘当したはずのレイの前に現れたのかしら……いや、それよりも──)
アリシアは鋭くバルサを睨み付けていた。
どんな理由があろうと、自分の子供であるはずのレイを追放したバルサに憤りを感じているのだ。
「レイ、魔法競技祭での戦いぶりを見せてもらった! よく……よくここまで成長したな!」
バルサは大きく両手を広げながら、ゆっくりとレイの方へ近付いていく。
「レイ、昔のことは水に流さないか? 今のお前なら、充分我が家の跡取りとしてやっていける! それどころか、ベリオール家の立場も今よりもっと上がる!」
「何を、言って……?」
レイの頭の中は真っ白になっていた。
自分を勘当した父親が目の前にいて、怒りも感じる。しかし、その父親が今帰ってこいと言っている。
「その前にバルサ様、この魔法師らによる襲撃は何のおつもりですか?」
完全に固まってしまっているレイの代わりとばかりに、アリシアがレイの前に躍り出る。
「ああ、これはこれは王女殿下! どうか我らの無礼を許していただきたい。どうしてもそこの
「
「いえ、それには深い事情がございまして……」
「黙りなさいッ! 強くなったからって再び息子呼ばわりですか!? それも家の保身のために!」
「あ、アリシア様! け、決してそのようなことは……レイのことを思ってですね……」
「よくもまぁそんなことをペラペラとっ……!? 私の怒りも限界です! この状況を父上に報告して、ベリオール家の処分を決めさせていただきます!」
アリシアはそう言ってレイの手を取り、バルサと反対方向に歩き出す。
しかし、その行く手を二人の魔法師が阻む。
「どきなさいッ!」
そんなアリシアの命令を無視し、道を塞ぐ魔法師。
すると、背中側から冷たい声が聞こえてきた。
「はぁ……仕方ない。お前ら、王女殿下を眠らせろ」
バルサの命令で、魔法師が手に持った杖をアリシアに向ける。
アリシアは対抗すべく杖を向けようとするが、別の魔法師にその手を捕まれ、身動きを封じられる。
「っ……! 無礼な! この手を離しなさいッ!」
「あ、アリス──ッ!?」
レイはアリシアの危険に正気を取り戻す。
そして、すぐさまアリシアの手を掴んでいる魔法師を制圧しようと構えるが────
「動くなレイ!」
「お、お父様!? アリスは王女ですよ!? こんなこと許されるわけがない!」
「ならば、お前の返答次第で決めようではないか、レイ?」
バルサはニヤリと口角を上げてみせる。
「ベリオール家に戻ってこいレイ。そうすれば王女殿下に心からの謝罪をしよう。だが、もし断れば──」
バルサは顎をクイッと持ち上げて連れの魔法師に指示を出す。
すると、魔法師がアリシアの喉元に杖の先端を突き付ける。
「ここで王女殿下は死ぬ。
問題はない……良いことにここには人目もないし、証拠も全て隠蔽する。王女殿下は謎の死を遂げた……それだけだ」
「っ……!?」
レイは憎悪に満ちた眼差しでバルサを睨み付ける。
ありったけの殺意を込めた覇気を放つが、バルサの手元には今、アリシアの命がある。
優位はバルサだ。
「さあ、どうするレイ──」
「俺は…………」
「答えはノーです」
と、そんな声が空から降り掛かってくると同時、落ちてきた何かがアリシアを拘束していた魔法師を一蹴する。
「そ、ソフィー!」
腰から生える一対の白い翼をはためかせ、純銀を溶かし込んだかのような美しい長髪を振り撒きながら、ソフィリアは続けざまにアリシアの喉元に杖を向けていた魔法師も制圧する。
制圧された二人の魔法師は、それぞれ地面と建物の壁に半身をめり込ませた状態で昏倒していた……いや、生きているかどうかも怪しいレベルだ。
「まったく……レイの帰りが平均時間より三十五分も遅いから見に来てみれば……」
「れ、レイ……この人? は?」
アリシアは人であるかどうかの疑問も含みながら、ソフィリアが何者であるかを尋ねる。
レイはふっと笑みを見せて答える。
「ソフィリア……俺の天使様だよ」
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