第21話 決着
「ああ、待たせたな──」
レイはそう言って、右手を眼前に突き出す。
手の平は真っ直ぐにゴーレムに向けられている。
「《力の奔流よ》──」
「いけぇえええええええええええッ!!」
「グウォオオオオオオオ──ッ!」
レイの神聖語と重なって、クロウとそのゴーレムの絶叫が響き渡る。
ゴーレムは唸りを上げてレイに突進しながら、大きく重たい拳を引き絞り、一気に放つ。
「──《道を成せ》ッ! 吹っ飛んでけ! 【オリジン・バースト】ッ!!」
レイの右手の前に集束し、圧縮されていたマナ。
レイが両手でその莫大なエネルギーを支えた瞬間、指向性を与えられ、迫っていたゴーレムの拳に向かって解き放たれる。
圧倒的エネルギーの奔流。
景色が白熱し、会場全員の視界を一瞬奪い去る。
そして、半瞬遅れて大気を揺らす轟音が響き渡り、やがて視界が晴れる。
巨大なゴーレムの右半身がごっそり消し飛んでおり、その遠く後ろにあった王を
砕け散ったような破片すら残っていない。
【オリジン・バースト】──その名の通り、対象物の
この競技場全体がその驚くべき光景に絶句する。
『え、えぇ……一組の石像の破壊……というより消失? を、確認しました……』
実況アナウンスも驚きを隠せない様子だ。
『よって、POK最終決戦……三組の勝利ぃいいいいいッ!!』
「「「「「うぉおおおおおおおッ!?!?」」」」」
静まり返っていた観客席に、どっと興奮と熱が戻ってくる。
そして、割れんばかりの歓声と拍手が競技場中に咲き誇る。
「勝ったか……」
「ちょ……レイッ!?」
この規模の魔法は人間の身体にはあまりにも反動が大きい。
レイが身体から力が抜けたようにその場に膝をつくので、アリシアは焦ったようにレイの傍に駆け寄る。
「あはは……ちょっと力が入らんわ……」
「まったく……やっぱり貴方、とんでもない奴ね」
そんな二人のもとへ、ニヤニヤと口角を吊り上げたクロウが歩いてくる。
「ククク……やっぱり俺の見立てに間違いはなかったぜぇ。レイ……お前は最高だなぁ!?」
「ど、どうも……?」
「今回は負けだ……俺の完敗だぁ。だが、次やるときは俺はもっと強くなる! ククク……ハハハハハッ!?」
((こ、コイツやべぇ……!?))
このとき、レイとアリシアの心中は見事なまでに一致していた。
そんな二人の視線を背に受けて、特待生第一位──クロウはフィールドから降りていった。
「アリス、悪い……俺めっちゃ疲れたわ……」
「はぁ……良いわ。貴方は休みなさい? あとは私がやっておくから」
「すまん、そう……す、る…………」
レイはゆっくりと目蓋を閉じた。
そして、その意識を深いところまで沈めていくのに、そう時間はかからなかった────
□■□■□■
────魔法競技祭は焼く一ヶ月の期間を経て幕を閉じた。
中でも注目を集めたのは一年生の部と四年生の部。
四年生の部は毎年かなり注目されるが、今年は特に盛り上がった。
四年生内での特待生第一位にして、王立魔法学院最強の魔法師と言われる生徒会長のケルト。
C級魔法はもう完璧と言って良いほどに使いこなし、最高五十個近くの魔法を
加えて、B級魔法もいくつか習得しており、高火力も出せる。
もう一流の魔法師と言っても過言ではない。
そして、一年生の部。
これは観客や教職員全員が口を揃えて言う。
────POKの一組対三組の試合は素晴らしかった。
前々から話題になっていたレイの実力は噂以上のもので、計測した
そして、一年生の特待生第一位のクロウの年齢離れした魔法技術にも目を剥くものがあると。
そういうわけで、今年の魔法競技祭は、類を見ないほどの盛り上がりを見せたのだった────
□■□■□■
次第に生徒からも魔法競技祭の熱が冷めつつある。
祭りが終わればすぐにいつも通りの日常が戻ってくる。
レイも学院での授業を終えると、帰路についていた────
「──でね、リーンったらね『もっと王女としての自覚を持ってください!』っていつもいつも……」
「いや、俺もリーンさんに同感なんだが……」
と、王都からこのルビリアに来るに当たって、侍女であり護衛でもある女性──リーンに対する愚痴を溢すアリシアと、それを呆れたような表情で聞くレイ。
魔法競技祭が終わって以降、アリシアはよくレイと行動を共にするようになり、帰るときも途中まで一緒だ。
ただまあ、それには少し事情があって、レイはリーンから個人的にアリシアの護衛──とまではいかないが、身の回りに気を付けて欲しいと頼まれているのだ。
(ま、身の回りに気を付けろって言っても、事件的な何かに遭遇することなんてそうそう──)
「──ッ!?」
口には出していないが前言撤回。
まるで何かのフラグを回収するかのように、こめかみをちりつくような危険信号を本能的に感じるレイ。
「ん、どうしたの?」
レイが急に立ち止まるので、アリシアが不思議そうに首を傾げる。
「……つけられてる」
レイはすぐにアリシアの右手を取ると、足早に歩いて行く。
心の準備もなく、不意に手を握られたアリシアは赤面するが、レイはそんな彼女の様子には気が付かない──いや、気を回す余裕がないのだ。
「ちょ……ちょっと、レイ?」
「ヤバイな……誘導されてる気しかしない……」
少なくとも一人ではない。
数人でレイを取り囲むように追って来ているが、かといって接近もしてこない。
どんどん
事態が悪い方向に進んでいるのはわかるが、どうすることも出来ない。
(仕方ない。多少強引に振り切る……!)
レイはそう決断し、足を止めるとアリシアに振り返る。
透き通るような緑色の瞳をぱちくりさせて、キョトンとするアリシア。
「アリス、先に謝っとく。あと、俺は変態じゃないぞ」
「はい? 何を言って──きゃあっ!?」
レイはアリシアの背中と脚の裏に腕を回し、横抱きに抱える。
アリシアは突然人気のない路地に連れてこられて、
「ホント……ムードも何もあったものじゃないわね……」
「え、何?」
「はぁ……何でもないわよ! ほら、よくわからないけど……貴方のすべきことをしなさいよ」
レイはそう言うアリシアの顔をしばらく驚いたように見詰めるが、すぐに「ああ!」と短く答えてこの状況に立ち向かうのだった────
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