第14話 生徒会への誘い!?
「行くよ、レイ君ッ!」
「正面から叩き潰すッ!」
ケルトは掲げた長杖の上に赤々と燃え盛る大きな火球──B級炎魔【フレア・バースト】を。
レイは突き上げた右手の上に電気エネルギーを集束させて生み出した大きな球を。
互いに推定される威力はほぼ同じ。
このまま二人が魔法をぶつけ合えば、この辺り一帯吹っ飛ぶのが目に見えている。
周囲で観戦している生徒達は戦々恐々とし始めて────
「こるぅらぁあああああああッ!? 中庭を消し飛ばす気かぁあああああああッ!?」
と、壮年の男性教師の怒声によって、ケルトとレイが魔法をぶつけ合う終焉の未来が訪れずに済むこととなった。
そしてこの場は解散となり、ケルトとレイ、それに付き添うエリスは職員室に呼び出しを喰らい、こっぴどく説教を受けることとなった────
□■□■□■
「いやぁ~怒られちゃったねっ!」
「どうして嬉しそうなんですか……」
職員室からの帰り、レイはケルトとエリスと共に廊下を歩いていた。
さっさと用事を片付けて帰宅するはずだったレイは、主に説教でかなり時間が掛かってしまった。
昼食を食べていないので、お腹がぺこぺこだ。
「んー、でもやっぱりボクの見立てに間違いはなかったよ!」
ケルトはそう言って足を止める。
一体何のことだと、レイは訝しげな顔を向ける。
「レイ君、君を生徒会に入れるよ!」
「え、嫌ですけど?」
「そ、即答ッ!?」
考える素振りも見せず断ったレイに、ケルトはどこか大袈裟に驚いてみせる。
そんなケルトへ、エリスが若干焦ったように言う。
「か、会長! 生徒会員は特待生というのが暗黙のルールです! この少年を入れるのはどうかと……」
「え~、良いじゃーん! エリスちゃんも見たでしょ、レイ君の戦い。そこらの特待生より絶対優秀だって!」
「そ、それはそうかもしれませんが……」
「それに、ボクはもうレイ君のことを気に入ってしまった! ボクが生徒会長である限り、生徒会のルールはボク。ボクが入れると言ったら入れるの!」
「いや、本人の意思は!?」
勝手に二人で盛り上がっているところ大変申し訳ないが、レイは生徒会なんてところに入るのは御免だ。
もう既に目立ちつつあるのに、そんなところに所属して余計に目立つのは避けたい。
「えぇッ!? 入ってくれないの!? ボクがこんなに気に入ってるのに!?」
「いや、それは別に俺が生徒会に入る理由にはなりませんしね!?」
「な、ならどうしたら入ってくれるんだい!?」
「うぅん……何か特典とかがあったらですかね……? 学費免除とか」
レイはいまだに入学試験で特待生の枠に入れなかったことを引きずっている。
魔法学院の学費は消して安くない。
そのお金を稼ぐのはソフィリアなのだ。
レイは四年も掛けて自分を鍛え上げてくれた恩人であるソフィリアにこれ以上負担を掛けることになって、実は心の中で申し訳なく思っていたのだ。
「うん、良いよ!」
「ですよね……流石にそんな特典がぁあああ~付くんですかッ!?」
当然そんな特典はないと言われると思っていたレイは、まさかのケルトの発言に驚きの色を隠せない。
「それで君が生徒会に入ってくれるならお安いご用さ! 我がホーエンハイム公爵家の財力を舐めないでくれよ?」
「いや、自腹かいッ!?」
レイは初めてケルトが公爵家の子息であることを知るが、別にへりくだったりはしない。
この王立魔法学院の生徒である限り、生まれもった地位に関わりなく、皆平等である──それがこの学院の規則であり、王の名の下に決められている。
「どうしてそこまでして……?」
「ボクはこの学院が大好きさ……でも、ボクは来年卒業してしまう。だから、この学院を任せられる人を今のうちから集めておきたいのさ!」
「えっと……もしそれが俺に生徒会長になれって意味ならやっぱり断りたいんですけど……」
「いやいや、それはこの先君自身が考えていってくれれば良い。ボクはただ、生徒会というこの学校の生徒を導く場所には、君のような人がいてほしいと思ったんだ」
「よくわかりませんが……」
レイはしばらく考え込むように黙る。
その返答を待つように、ケルトとエリスがレイの正面に立っている。
そして────
「まあ、会長が俺に何を求めているのかはやっぱりよくわかりませんが……俺は俺のために、学費免除のためなら生徒会に入りますよ」
「ほ、本当かい!?」
「はい」
「よかったよレイ君!
それでは改めて……ボクは生徒会長のケルト・ホーエンハイム。これからよろしく、レイ君!」
「こちらこそ」
そして、レイとケルトは、エリスが苦笑いを浮かべている前で固く握手を交わした。
□■□■□■
レイが中庭でケルトと模擬戦を行ったあと、生徒会役員として抜擢されたことは周知の事実となった。
特待生でもない……ましてや出で立ち不明のレイが生徒会役員。
当然のようにそのことをよく思わない生徒達もいた。
特に、家が高い爵位を持っている生徒達だ。
ただでさえヤバイ奴扱いされていたレイは、ケルトとの模擬戦でより一層ヤバイ奴認定され、おまけに妬みの的になり、所々で陰口を叩かれるようになった。
中でもレイに冷たく当たる生徒がおり────
「ちょっと貴方! 聞いているの!?」
「ん……あぁ、またアンタか……」
今机に突っ伏して居眠りをしていたレイを叩き起こす女子生徒が一人──アスタレシア王国第一王女にして、この学院を第三位の成績で合格した特待生のアリシア・フォン・アスタレシアだ。
「さっきの魔法理論Ⅰの貴方の授業態度……気に入らないわ!」
「いや……何でアンタに気に入られないといけないんだよ。ただでさえ既に変な人から気に入られてしまっているのに……」
もちろんレイの言う変な人とはこの学院の生徒会長ケルトのことだ。
「っ……わ、私に向かってその口の聞き方……ッ!?」
「この学院では身分は関係ないはずだ。それは王女であるアンタも同じ……何か問題があるのか?」
「そういうところが気に入らないって言っているの!」
「だから、別に気に入って欲しいなんか言ってないだろ?」
「何でこんなのが生徒会長に気に入られるわけ……ッ!? 意味わかんない……!」
「是非一度お前から会長に聞いてみて欲しいな、それは」
「っ……!? ほんっと、嫌い!!」
そう吐き捨てて、アリシアは身を翻して自分の席の方へと戻っていった。
レイはそんなアリシアの後ろ姿をため息混じりに見たあと、どこからともなく次の授業──歴史の教科書を取り出す。
(歴史は苦手だからなぁ……しっかり授業聞いとかないと……)
アリシアにあそこまで怒鳴られてケロッとしているレイの図太さもなかなかである────
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