第11話 波乱の学院生活幕開けの予感

 王立魔法学院入学試験が終わったその日の夜、レイは試験の結果をソフィリアに話した。


 てっきり魔法学院という名であるから、単純な魔法師としての力量さえあれば合格できるのかと思っていたソフィリアは、レイからそうでなかったことを聞くと驚いていた。


 そして、一週間後────


 学院に合格者の名前が張り出されるので、レイはどぎまぎしながら見に行く。

 すると────


「あはは……流石に特待生の枠には入れなかったか……」


 レイは苦笑いを浮かべて合格者一覧の表を見上げている。

 確かにレイの名前は書かれているが、受験成績上位十名の特待生は青色の文字で書かれる。

 レイの名前は普通に黒色だ。


(まあ……家は格安で手に入ったし、学費ぐらいなら何とかなる……か?)


 レイは心の中でソフィリアに謝りつつ、校舎の一角の制服や教材の受け渡し場所に向かい、入学にあたって必要なものを受け取り、それをどこへか仕舞い込む。

 こうやって固有空間にモノを片付けられるのは魔法師の特権だ。


「さて……帰って入学の準備しますか……」


 レイは誰へともなくそう呟いて、とぼとぼと帰路につくのだった────



 □■□■□■



 アスタレシア王立魔法学院『示現じげんの塔』。

 巨大な校舎の中でも一際目立つ、一面白亜の壁でそびえ立つ圧倒的な高さを誇る塔。

 その内部には、魔法学院の生徒会室が置かれている。


 そして、これはそんな生徒会室での一風景────


「どうしたんですかケルト会長……いつになくニヤついてますけど? 気持ち悪いですね?」


「うっ……エリスちゃん……今日も相変わらず辛辣!」


 小麦色の長髪をロングポニーテールに結んだ少女──エリスの言葉に、会長席に座っていたケルトが目尻に涙を浮かべてツッコミを入れる。しかし、どこか嬉しそうだ。


 ケルトは金髪碧眼、長身痩躯の美青年で、特徴的なアシンメトリーな前髪で右目が隠れている。

 そして、どこか陽気で快活とした印象を漂わせている。


 そんなケルトは手に一枚の資料を持っており、それを見て改めて興味深そうに笑う。


「いやね、今年はなかなか面白そうな生徒が入ってきたなと思ってさぁ~」


「会長が本心でそう言うなんて珍しいですね」


「そんなことないよぉ~? ボクはこの学院の生徒の皆を大切に思ってるからねっ!」


「どうでしょう……いつも他の生徒と話すとき、顔は笑っていますが心の中で退屈そうにしてません?」


「え、えぇ……そんなことはないと、思うよぉ……?」


 ケルトの視線がそれはもうわかりやすくおよいでいる。

 エリスはそんなケルトの手の資料を覗き込む。


「この生徒ですか? 別に特待生なワケでもないですし……って、魔力容量キャパシティが致命的なまでに小さいですね……?

 なるほど、どうしてこんな生徒が入学できたのか不思議……ということで興味を持ってるんですね?」


「ち、違うよ……僕にそんな下衆な趣味はないよ……」


 これには流石のケルトもしょんぼりする。

 しかし、ならなぜ興味を持っているのかとエリスが一層不可解な顔をする。


「ここ、見てみて」


「はい? ああ、懐かしいですね。人形をぶっ壊す試験ですね」


「そんな可愛い顔して発言が相変わらず過激……」


「確か私は当時四十秒ちょっとで殲滅。会長は──」


「──三十秒だね。でもほら、この子の成績は……」


「なっ……ッ!?」


 エリスが驚愕のあまり目を見開く。

 そんなエリスの反応を、でしょでしょ!? と共感を得たい子供のような顔で見るケルト。


「じ……十七秒…………ッ!?」


「えっへへ!」


「いや、何で貴方が得意気なんですか……って、冷静にツッコんでる場合じゃないですよ! 何ですかこの成績は……ッ!?」


 エリスはケルトの手からその生徒の資料を引ったくると、隅々まで目を通す。


「筆記試験の結果も類を見ないほど独特……暗記すれば良いだけの歴史は壊滅で、数学と物理は平均。なのに一番難しい魔法理論基礎を満点……」


「ねっ!? ねっ!? 凄いで──」


「──ちょっと黙ってください!

 えと……さっき見た通り魔力容量キャパシティは酷い有り様……にも拘らず、この秒数で二十体のガラクタを全滅……!? はっ!? 杖を使わずに魔法行使!?

 か、会長! コレはいったいどう言うことですかッ!?」


 完全に冷静さを失っているエリスに、ケルトは「まあまあ、落ち着いて」と宥める。


「気になるよね~? 是非とも会ってみたいなっ!」


 ケルトは楽しそうにそう言って、椅子から立ち上がる。

 そして、窓の外を眺める。

 学院の校舎が上から一望でき、その先に広がるルビリアの古風でお洒落な街並みも見渡せる。


「どんな子だろうね……レイ君──」

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