第06話 意外な才能

 ソフィリアは薄々レイの才能に気が付いていた────


 レイは魔力容量キャパシティが小さく、魔法に対する意欲も低いからと家から追放されたと言う。


 しかし、外界のマナを直接使用するこの魔法は魔力を使用しないから、魔力容量キャパシティの大きさなど関係ない。

 強いて言うなら、神聖語には自身の体内で錬成された魔力を込めないといけないが、その量もたかが知れている。


 加えて魔法に対する意欲なら、自分を追放したベリオール侯爵家に後悔させてやるという切っ掛けがあり、今では魔法を学んでそれを習得していくことを楽しんでいる気さえする。


(レイを見捨てた愚かな人間よ……今もこのレイの姿を見て『魔法の才に恵まれていない』と言えますか?)


 ソフィリアは今現在レイと模擬戦をしながら、心の中で届くはずのない問い掛けを呟く。


「ソフィー? 何か上の空って感じだぞ?」


「あ、ごめんなさい! では次いきますよ!?」


 まあ、今はレイとの戦いに集中しなければと、ソフィリアは気持ちを切り替えてレイに向けて右手をかざす。

 そして────


「《風よ集え》」


 ソフィリアが神聖語でそう呟くと、かざした右手から砲弾のように圧縮された空気を放つ。

 木の二、三本なら容易に打ち砕く威力。


 いつものレイならここは射線をかわしてから反撃に転じる。

 そう考えて、ソフィリアは次はどうレイを追い込もうかと口角を吊り上げる。

 しかし、衝撃的なことが起こった────


「《右に曲がれ》ッ!」


「え……!?」


 レイがそう神聖語で叫ぶと、驚くべきことにソフィリアの放った風の砲弾がレイの右を逸れていった。


「れ、レイ……今のは……?」


「いやぁ……何かソフィーの魔法の支配が甘かったから、出来るかなーと思ってやってみたら出来たなんだけど……ソフィーの命令を受けたマナに、俺が命令を上書きしてみた」


(はい……?)


 堕天使ソフィリア、たかだか生まれて数十年の人間風情に驚かされる。


(確かにさっきはあまり集中出来ていなくて、マナの支配が少し甘かったのは事実……)


 だが、今レイのしたことは異常だ。


 いくら支配が甘かったとはいえ、問題なく魔法は発現した。つまり、魔法を構築しているマナはソフィリアの命令に従っていたのだ。

 それをレイは、上書きしたと言った。

 つまり、周囲のマナを掌握するにとどまらず、相手の魔法を掌握する域に至ったのだ。


 ソフィリアは目を丸くしながら宙からレイのもとに降り立ち、その両肩を掴む。


「れ、レイ……? 君は今どのくらいの範囲のマナを完璧に支配できますか? えっと……相手の魔法すらも掌握できる範囲で……」


 ソフィリアがそう尋ねると、レイはうーんとしばらく唸ってから答える。


「相手の魔法の支配具合にもよるけど……俺を中心に半径十メートルくらいの範囲なら、なんとか……?

 あ、もちろんいつものソフィーの完璧に支配された魔法は掌握できないよ? 今回はたまたま隙があったから……ソフィー?」


「あ、ああ……すみません。ちょっと……魔法の深淵を覗いていました……ハハハ……」


「はい?」


 ソフィリアはひとまず精神を落ち着かせて、レイの両肩に乗せていた手を離す。


「えっと、単刀直入に言いますと……普通そんなことは出来ません」


「そんなことってのは、相手の魔法を掌握するってやつ?」


「はい。正直私でも出来るかどうか微妙なところです……。

 前から何となく気が付いてはいましたが、君はマナとの親和性が非常に高い……だからこそ成し得る技と言ったところでしょうか。

 名付けるならば──【魔法略奪マジック・インターセプト】」


「【魔法略奪マジック・インターセプト】……」


 ソフィリアのその言葉を聞いて、レイは自分の新たな可能性を見付ける。


 本来──人間でないソフィリアは除くが──黒魔法は一つの属性しか扱えない。レイでいえば『電気』だ。

 しかし、この【魔法略奪マジック・インターセプト】をつかえば、相手の行使した黒魔法に介入、改変して命令を上書きすることで自分の魔法のように使えるかもしれない。


 つまりは、相手の撃った魔法に支配の隙があれば、その魔法を撃ち返せる……簡単に言ってしまえばこんなところだ。


「凄いですね……」


 ソフィリアがそう感嘆の声を漏らす。


 珍しくソフィリアが誉めてくれたため、レイはぱぁっと顔を明るくするが────


「凄い……私はここまで君を育てたんですね……!? たかが生まれて数十年……本気で魔法を学び始めて二、三年の人間をこの域にまで育て上げた私って……もしかしなくても天才ッ!? いや、それは元々知っていましたが、自分でも自分の才能が恐ろしい……!」


「おい、俺を誉めろよ……」


 そうだ、ソフィリアはこういう奴だ。何かを期待した自分が間違っていた……と、レイは苦笑いを浮かべつつ、残念そうに肩を落とすのだった────

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