第05話 魔法だけで戦うのは愚か
マナ掌握をソフィリアに教えてもらったレイは、その日からひたすら同じことの繰り返しだった。
ソフィリアに自分の身体を動かしてもらってマナ掌握をしたときのあの感覚を思い出しながら、家の外に座り込み、延々とマナを認識する練習をする。
それと同時並行で、マナに命令をするための特殊言語──『神聖語』の学習も進める。
文法から発声法まで、人間の国のどの言語とも似ていない神聖語の学習に苦戦するレイだったが、マナ掌握の感覚を掴むよりかは簡単だと割りきって、ソフィリア指導のもと頑張っていった────
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「そ、ソフィー! 出来た……出来たかも!!」
と、そんなレイの言葉が聞けたのは、マナ掌握の訓練を始めて一年後──レイが十三歳になった頃だった。
ソフィリアが見積もった習得期間二年の半分で成し得たため、ソフィリアは初め嘘だと思って疑ったが、自分の身体をスピリチュアル・ボディーにしても、レイはその姿を認識できたため、レイは本当にマナ掌握の感覚を掴んだのだ。
そして、レイはスピリチュアル・ボディーになっているときのソフィリアの姿を見て──ガッカリした。
それはもう、しばらく立ち直れなくなるくらいにガッカリした。
ソフィリアが『私の
それが、いざ見てみるといつもと何ら変わらない姿だったのだ。
しかし、いつまでも落ち込んでいるわけにはいかない。
マナ掌握が出来て初めて、やっと魔法行使の特訓に入ることが出来るのだ────
「では、ここで初めて魔力の使い道が出てきます。マナに命令を出すとき、ただ神聖語を口に出せば良いわけではありません。口に出す神聖語に魔力を乗せるんです。
ただまあ、矮小な人間は黒魔法を一つの属性しか扱えないので可哀想ですね~」
と、全属性の黒魔法を使える堕天使ソフィリアはクスクスと笑いながら説明する。
レイはそんなソフィリアをジト目で睨みながら、早速やってみる。
何度かソフィリアに精神に入ってもらって魔法を使ったことがあるので、なんとなく神聖語に魔力を込める感覚はわかる。
一度呼吸を整え、レイは右手を目の前の木の幹に向ける。
「《雷よ》」
パチィ……と、右手から静電気のようなものが発生したが、とても魔法と呼べるようなものではない。
「あれぇ……?」
「ん~、神聖語にはきちんと魔力が乗っていましたから……まだ完全にマナを掌握しきれていないようですね」
「マジか……」
レイは残念そうに肩を落とすが、一度マナ掌握の感覚を掴んだレイが、完璧にマナ掌握しきれるようになるのにそう時間は掛からなかった。
その成長速度にはソフィリアも驚くところがあり、初めは自分の教え方が良いからだと思っていたが、どうやらレイは、人間にしてはマナとの親和性が高く、干渉しやすいらしい。
数ヵ月後にはもう完全に周囲のマナを掌握出来るようになり、魔法もある程度使えるようになった。
木の幹程度なら電撃で撃ち抜けるようになったのは、もうすぐレイが十四歳になろうとしていた頃だった────
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「戦闘を魔法だけに頼るのは愚か者のすることです!」
と、ある日ソフィリアはレイ十四歳に向かってそんなことを言い出した。
「いや……別に戦いは想定してないから良いんじゃない?」
「何を甘えたことを言っているんですか!? この世は弱肉強食……食うか食われるかですよ!?」
「どこの世紀末だよ!? 今別にこの国戦争をしてるわけでもないし、魔獣が
「最強の魔法師を目指すんでしょ!? なら必要です! さぁ、さぁ!」
「別に最強は目指してないっ……んあぁ、もう! わかった、わかったから押すな!?」
と、ソフィリアがレイの背中をぐいぐい押しやって家の外に出たところから、新しい特訓も始まった。
「やはり、古来より近接格闘戦は避けては通れません。
しかし、魔法が栄えた今、生身で肉弾戦を挑むのは愚の骨頂……そこで、マナをその身に宿らせることで身体能力の向上と、肉体の強度を高めます」
「人間の魔法で言う、白魔【フィジカル・アップ】みたいなもん?」
「まあ、そうですね。マナをまともに掌握できない愚か者どもがこの技術を真似したいがために生み出した魔法がその【フィジカル・アップ】とでも思ってくれたら良いです。
いやぁ、模造品を作って必死に背伸びする様は実に滑稽で可笑しいですね~」
「お、おう……」
その愚か者の一人であるレイの目の前で人間を思い切り馬鹿にするソフィリアだが、いつものことなのでレイは特にツッコんだりはしない。
「まあ、ともかく……魔力掌握を既に会得した君ならそう難しい技術ではありません。取り敢えず出来るようになったら、これから毎日私と手合わせです」
「すぅ…………」
このときレイは、自分の死を本気で覚悟するのだった────
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