第04話 常識外の魔法
ソフィリアがレイを最強の魔法師に育て上げると豪語したその日、取り敢えず拠点──住む家が必要だという話になったのだが、ソフィリアが下界の金銭など持っているわけもないし、レイも今では一文無しだ。
しかし、天使──いや、堕天使のソフィリアにはそんなものは必要なかった。
明らかに人間の使うモノとは異なる原理の魔法を行使し、そこにあった小屋をリフォーム……いや、もはや完全な別物になってしまった。
山にある資源を寄せ集め、一階にリビング、ダイニング、キッチン、浴室。二階に個室が四つほどある、二人で住むには少々立派すぎる家が完成したのだ。
顔も知らない誰かの小屋を勝手にこんな風にしてしまって……
レイはもはや呆れるしかなかった────
□■□■□■
────この日から早速魔法の特訓が始まった。
「まず、初めに言っておきますが、私の教える魔法は人間の使う魔法モドキとはワケが違います」
と、リビングのソファーに腰掛けるレイの目の前で授業を始めようとするソフィリアだが……
「あ、その前に一つ聞いて良い?」
「ん、どうしたんですか?」
「この俺の服とか、ソフィーの服とか……いつの間にどうやって手に入れたの?」
そう、家が完成したあと、ソフィリアはまず初めに風呂に入り、その後にレイも入浴をしたのだが、レイが上がったときには既に新しい服が用意されていた。
「ああ、君が入浴している間に近くの街へひとっ飛びして買ってきました」
「え、お金持ってないだろ?」
「それなら、柄の悪い人間を路地裏に呼び出して、お金を拝借しました。危うく襲われそうになったので、慰謝料ということで」
「いや、最初からそれが狙いだっただろ……」
それでも本当に元天使かと疑いたくなる気持ちを押さえ、レイは取り敢えず納得する。
そして、改めてソフィリアによる魔法講義が始まった────
□■□■□■
「良いですか? 本来魔法を使うのに
愚かな人間達は、外界に漂うマナを吸収し、それを体内で錬成し魔力に変換。その魔力を使って魔法を使いますね?」
レイは、時折ソフィリアが挟む人間見下し発言をスルーしつつ、その通りだと頷く。
「だから、元々どれだけの量の魔力を保存できるか──
「ソフィーの魔法はそうじゃないの?」
「はい。本来魔法とは、空間のマナを支配し、マナに命令することで超常現象を具現化するモノです。
いちいちマナを魔力という身体に馴染みやすいモノに変換して魔法を使うのは、単に人間が空間のマナを支配するのが苦手だからです」
(なるほど……)
と、レイは心の中で呟く。
ソフィリアの言っていることを簡単にまとめると、魔法は本来マナを直接使うものであるが、人間はそれが苦手だから、マナを扱いやすい魔力というものにわざわざ変化させていたということになる。
しかし、レイも人間……つまりはマナを直接使って魔法を発動させるのは厳しいということになるが…………
「ですから、何度か私が君の身体を使ってマナを支配するというのを実践します! それで、君自身の身体にその感覚を覚えさせるというところから始めましょう!」
────というわけで、家の外に出てきたレイとソフィリア。
「なあ、ソフィー? 俺の身体を使って何とやらって言ってたが、どうやってやんの?」
レイは至極当然な疑問を口にする。
そんなレイに、ソフィリアはふふんと得意気に鼻を鳴らして、説明するよりやったほうが早いと、早速実践し始めた。
ソフィリアの身体が一瞬輝いて、レイが目を細める。そして、再び目を開いたレイの視界の中からソフィリアの姿が消えていた。
レイがその不可解な現象に眉を潜めていると────
「ま、こんな感じで君の身体を使わせてもらいます」
と、レイが喋った。
正確には、レイの身体の支配権を奪い取ったソフィリアが喋っている。
(えぇッ!? 身体が勝手に動く……ッ!?)
そんなレイの心の声が聞こえるのか、ソフィリアはレイの身体でクスリと笑みを溢す。
「はい。私の身体を外界のマナと同質化──つまりはスピリチュアル・ボディーに変えたあと、君の精神に入り込み、君の身体を乗っ取ったワケです」
(な、何でもアリだな……)
レイはそんなことを簡単にやってのけるソフィリアに、戦慄すると共に驚嘆の念を抱いていた。
また同時に、自分もいずれこの技術を使えるようになれば、ソフィリアの身体に侵入し、お風呂に入ったり、少し身体を触ってみたりして……と色々と出来ることが増えそうだと考える。
そして、今レイがそう思っていることも、ソフィリアに筒抜けだ。
「残念ですが、人間が完全にスピリチュアル・ボディーになるのは不可能です。失敗してそこらのマナに溶け込んで二度と戻れなくなるのが落ちですよ?」
(…………はい)
レイは精神の中で赤面した。
そんな中、早速ソフィリアはレイの身体で周囲のマナの支配を始める。
すると、徐々に大気を満たすマナの存在を認識出来るようになり、さらにマナの流れが、動きが手に取るようにわかるようになってくる。
「この感覚……これが、マナを掌握している状態です。そして──」
ソフィリアは右手を前に出し、手の平に何かを乗せているかのようにする。
「《雷よ》」
そう聞き覚えのない不思議な響きを持つ言語で呟くと、手の平に小さく雷線が走り、パチパチと弾ける。
(おお! 凄い!!)
レイは精神の中で目を輝かせ、興奮気味にその光景を見る。
「この通りマナ掌握さえ出来れば、人間みたいに杖を使わずに魔法を行使できます。ただ、マナに命令するには特別な言語があるので、それはまあ、ぼちぼち勉強していきましょう」
そう言ってソフィリアは手の平に発生した電気を掻き消すように握り潰し、レイの身体の支配を止めて外に出てくる。
スピリチュアル・ボディーから元の肉体に戻ったことで、再びレイの目にその姿が映るようになる。
「まあ、マナ掌握がきちんと出来るようになったかどうかの判断基準は、スピリチュアル・ボディーになった私を目視することが出来るかどうかにしましょう」
「それ……どれくらいで出来るようになるんだ……?」
レイは自分の意思で自分の身体を動かせるという当たり前の喜びを噛み締めながら尋ねる。
すると、ソフィリアは「そうですねぇ……」と考え込むように唸ってから、指を二本立ててみせる。
「まあ、二年くらいで出来るようになれば上出来でしょう!」
それを聞いたレイはあからさまにガッカリとしてみせる。
「二年……めっちゃ長く感じる……」
そんなレイの様子を見たソフィリアは悪戯っぽい笑みを浮かべながら、レイの顔を覗き込む。
「そうやる気を落とさないでください? スピリチュアル・ボディーのときの私がどんな格好をしているか……気にならないんですか?」
「えっ……?」
「あーあ、ここで諦めたら君は一生私の
「あ、いや。一回はもう見てるから──」
「──それは忘れてくださいッ!」
ソフィリアは微かに頬を赤らめながら、レイの言葉を言い止める。
しかし、思春期真っ盛りの健全な男子であるレイのやる気を釣るには、充分な言葉だった。
(よし、やってやろうか……)
今はレイの精神に入っていないので、レイの心の声は聞こえないが、ソフィリアはレイにやる気が出たのをしっかりと感じ取ったのだった────
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