第03話 最強の魔法師への道
互いに気持ちの整理をするのに多少の時間を要した。
そして、レイは一度小屋から外に出て、その間に天使は乾かされていた白い衣を取り敢えず着る。
「これは……どこかで新しい服を調達しなければなりませんね」
そう言いながら、天使が所々破けた衣を着て小屋から出てきた。
そして、小屋に背を預けて座り込んでいたレイの隣に腰を下ろす。
「え、えと……まずは先ほど変な誤解をしてしまって……その、何と言うか……少しは申し訳なく思ってたりもしないこともないです……」
コイツは謝罪の仕方も知らないのか……? と心の中で呆れるレイだったが、自分も勝手に脱がしてしまったことは事実。
「いや、俺も勝手に脱がしたんだ……ごめんな」
「そうですね、許して差し上げましょう」
(こ、コイツぅうううううッ!?)
レイが下手に出てやれば、天使は一気に付け上がる。
レイは思い切り文句を言ってやりたい気持ちを何とか押さえ込み、こめかみに青筋をピクつかせるにとどめる。
そして、ふぅーと一つ息を整えてから話を振る。
「あー……俺はレイ・ベリオー──いや、ただのレイだ。お前は?」
そう、レイは既に家を勘当された身。もうベリオールの名前は名乗れない。
「私はソフィリアです。見ての通り天使です!」
「お、おう……」
天使──ソフィリアはどうだ凄いだろと言わんばかりのドヤ顔で胸を張りながら名乗る。
しかし、天使であることはレイも既に察している。
一番聞きたいのは────
「んで、何で天界に住んでるはずの天使がこんなところに?」
「…………」
レイがそう聞くと、ソフィリアは黙り込んで僅かに顔を曇らせる。
その様子を見て、レイは流石にプライベートなことに踏み込みすぎたかなと思うが、ソフィリアは静かに答える。
「ちょっと問題を起こしてしまって……追放されました……」
(追放…………)
その言葉を聞いて、レイはソフィリアの姿に自分が重なって見えた。
それと同時に、脳裏に父の……いや、元父の『勘当だ』という一言が過る。
「俺と一緒だ……」
「え……?」
「俺もつい昨日、家を追い出されたんだよ。魔法の才に恵まれず、魔法に対する意欲も低い俺は要らないらしい……」
レイは考えないようにしていたことと再び向かい合い、胸が締め付けられているかのような痛みを錯覚する。
変える場所を失い、家族も失い、自分の生きる意味も見失い……もう、生きていても仕方がないような気さえしてくる。
しかし────
「私が君と一緒!? 何言ってるんですか!?」
「はい?」
「たかが生まれて数十年の人間風情が天使である私と同じ立場に立てるとでも? ふんっ、おこがましいにもほどがあります!」
ソフィリアはレイが落ち込んでいることなどお構いなしに、鼻で笑い飛ばしてくる。
流石にこの流れでそんなことを言われるとは思っていなかったレイは、流石に涙が出そうになる。
「私は天界に、私を追放したことを後悔させて差し上げます。そして、絶対に天界に帰ります!」
一体どういうプランがあってそんなことを口にするのか……
しかし、ソフィリアのその一言は、レイの中の何かを動かした。
「後悔、させる……」
自分を見捨てたベリオール家を、元父バルサを……でも、どうやって?
自分には魔法の才能はない。かといって、他に取り柄があるわけでもない。
やはり、後悔させるなんて不可能……
「ただ、その前に……」
ソフィリアはそう呟いて、少し恥ずかしそうにしながらレイから視線を外す。
「まだ治療してくれたお礼をしていませんから……借りを作ったままにしておくのは嫌なので……」
「……え?」
「だ、だからっ……その、何かないですか? 私にして欲しいこと……あ、もちろん変なコトは駄目です! 私に出きる範囲でなら願いを聞いてあげても構いません!」
相変わらず上から目線な物言い──しかし、今そんなことはレイには関係なかった。
一つの希望が目の前にあるからだ。
だから、その一言は自然とレイの口から突いて出た────
「俺に、魔法を教えて」
「ん、魔法……ですか?」
「俺も……後悔させてやりたいと思ったんだ。凄い魔法師になって、あのとき俺を勘当しなければよかったと……そういわせてやりたいんだ」
「へぇ~…………」
ソフィリアはそう言ってみせるレイに僅かな興味が芽生える。
その覚悟はいかなるものかとしばらくレイの黒い瞳を覗き込むが、真っ直ぐで強い光を灯している。
それに、何か願いを聞いてやると言ったのは自分自身だ。
「ふっ……良いでしょう! この私自ら、レイ……君を最強の魔法師にして差し上げます!」
「え、あ……ちょっと待って? 最強は別に目指してないかも……」
「何ですか? たかが生まれて数十年の人間ごときが私に口答えですか?」
「い、いやそういうわけじゃないが……」
「やるからにはとことんやります。さぁ、君を見捨てたその家に目にもの見せて差し上げましょう?」
レイは結構乗り気なソフィリアの姿をしばらく呆然と眺めたあと、なんだか可笑しくなって小さく笑う。
そして────
「よろしく、ソフィリア」
「特別にソフィーと呼ぶ権利を差し上げます」
「お、おう……ソフィー……?」
レイは苦笑いしながら、ソフィーは初めて出来た弟子のような感覚を覚え少し舞い上がり気味になりながら、互いに握手を交わした。
この日から、レイの魔法師道が始まる────
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