第33話 竜人の街アカトルム

 ――ギィィン!


 俺たちの方にとてつもない脚力で突っ込んできた竜人の槍を、寸前のところで短剣を使い軌道を逸らす。

 とてつもない力だ。俺は接近戦闘はあまり得意ではない。相性が最悪だ。


「待て! 俺は争うつもりは無い! 話だけでも聞いてくれ!」



――ドシュン!



 再びこちらへと突っ込んでくる竜人はこれ以上何を言っても聞かなそうだ。ひとまず武力でねじ伏せるしかないな。


「もう、仕方ないなぁ! ライトニングブレード!」


 短剣にエンチャントを施し、長剣へと変化させる。

 その様子を見た竜人は少し目の色を変えたが、問答無用で突っ込んでくる。



――ギィィン! ガイィィン!



 足場が悪い中、俺と竜人の激しい一騎打ちが繰り広げらられる。

 竜人はとんでもない手数で俺を圧倒する。これはまずい、魔法を使う余地がない。

 間合いを取ればあっという間に詰められ、長い槍がさらにその間合いを詰める。


「くっそ! キリがないな! フラッシュ!」


 俺は一歩引いて間合いを取り、それ見て突進してくる竜人目掛けて渾身のフラッシュを放った。

 竜人は一瞬怯んだが、変わらず俺の方へと突進してくる。



「嘘だろ!? 目は見えてないはずだ! 感覚でここまで戦えるのか!?」


 竜人の戦闘能力に俺は驚かされっぱなしだ。これほどまでの戦闘狂っぷりを見ると、戦闘民族と言うのも頷ける。


 俺はヘブンズレイを簡易詠唱で数本周りの地面に撃ち、俺はそれに合わせて一歩引いた。

 音が複数個所から聞こえた竜人は、少し戸惑った様子でその場に立ち尽くす。



「ヨミヤ! 今だ!」


「わかりました!」


 ヨミヤは動きの止まった竜人をシャドウバインドで拘束することに成功し、俺は短剣のエンチャント付与を解除し、刃のない方で思い切り首を叩きつけた。



――ガンッ!



 すると竜人はようやく大人しくなり、地面にひれ伏した。

 俺は竜人は言葉を話せないと思っていたのだが、ここでようやく口を開いてくれた。



「くそ、この私が負けるなど……」


 かすれた声でそう話す竜人は、悔しそうにしていた。

 ただ戦闘を楽しんでいただけなのだろうか。



「ようやく口を開いてくれてうれしいよ。僕はアマギ・ライネスと言います。武力行使して申し訳ないんだけど、僕たちはアカトルムに用があるんだ。何か知らないか?」


「フン。俺に勝った褒美だ、教えてやろう。俺はゴードンだ。アカトルムの門番をしている。不審な奴が来たら排除するように言われている」


「じゃあこの先にアカトルムがあるのか?」


「あぁそうだ。この街は強き者を歓迎する。お前たちが街に入ることを許可する」


 なるほど、竜人の街は戦闘力がものを言うらしい。

 強き者こそ正義とのことだな。



「それは助かる。是非案内してくれ」


「……その前に、この拘束を解いてくれ。動けぬというのは気持ちが悪い」


「そうだった。ヨミヤ、もういいぞ」


 ヨミヤはずっとシャドウバインドでゴードンを拘束していた。

 正直また暴れられても困るからな、でももうその心配はなさそうだ。



「ふぅ、ようやく自由の身になれた。じゃあこっちだ、ついてこい」


 ゴードンは坂を上り、頂上の方へと向かっていった。

 俺たちはその背中についていき頂上にたどり着くと、そこにはとてもでかい四角い形のコロッセオのような建造物があった。


 その四角い外壁の中のど真ん中に、円形のコロッセオがもう一つおさまっているのが見える。恐らく、真ん中の円形のコロッセオの周りに居住スペースなどがあるのだろう。



「うわぁでかいなぁ」


「そうですね、ハーピーたちの村とはまた違った様子ですね。かなり発展しているように見えます」


「はっはっは、そうだろう。俺たちは最強だからな。誰も攻めてくるヤツなんていないから発展させ放題さ」


 そう高らかに笑うゴードンは得意げに槍を振り回していた。

 確かにこれほどの戦闘力があれば誰も攻めるはずがないだろう。ましてや竜人一人でこの力なんだ。恐らくこの中にはこんな戦闘狂が何匹もいる。想像するだけで恐ろしい。



「ようゴードンおかえり、そいつらは一体なんだ。弱そうなやつらだ」


「こいつらは俺と戦って勝った。この街に用事があるらしいから連れてきた」


「お前に勝ったのか? こんなひ弱そうなやつらが?」


 入り口に立つもう一人の緑色の竜人が俺たちの方を見てそう言ってくる。

 竜人からしたら、俺たちはひ弱に見えるかもしれない。あんまり言うならお前もひれ伏さしてやろうか!

 ……でもここで喧嘩を売って中から大量に竜人が出てこられても困る。やめておこう。



「こいつら見た目によらずなかなかやるんだぜ。さぁ二人とも、入れよ」


 俺は手招きするゴードンに続いて入り口の鉄格子をくぐっていった。

 中に入ると、床は砂で埋め尽くされており、新しく建てたというよりかは既にあったコロッセオを無理やり四角に作り変えましたかのような外壁をしていた。あまり美しいものではなく、ボロボロに見える。


 建物はテントや石を積み上げられて出来たものが多く、建築技術などはあまり考えてなさそうな見た目だ。


 また基本的に街の竜人は皆緑色をしている。


 そして奥に見える円形のコロッセオには、大きな垂れ幕が五つかかっている。

 それぞれにNo1からNo5まで番号が振り分けられており、そこには強そうな竜人が名前と共に描かれていた。 



「すげぇなぁ……これが竜人の街かぁ」

「皆さん力に満ち溢れているように見えますね」


 その証拠に、買い物をしている竜人が赤い果物が一つ足りなかったといかいう理由で殴り合いを始めていた。そんなことでいちいち殴り合いまでしなくても……。



「はっはっは、そうだろう。この街は力こそが全てだからな。あそこにかかってる垂れ幕はこの街の竜人の中で強い順番に並べたものだ。定期的に真ん中のコロッセオで腕に自信がある奴が戦い、ランキングを決める。といっても、No3までは強すぎて不動だがな」


「そうなのかぁ。じゃあ村長とかはいないのか?」


「あぁいないね。そんな老いぼれ何の力もないだろう。俺らの村のリーダーはあそこのNo1のハーキースだな」


 そうNo1の垂れ幕を指差すゴードン。その表情は敬意に満ち溢れている。


 No1にはハーキースという男の竜人が描かれており、赤い尻尾で髪も赤く、 水色の豪華な双叉槍ふたまたやりを持っている。上裸で下は赤い布だ。足と手は赤と黒が混じったウロコで覆われており、如何にも強そうな見た目をしている。


 No2は女性の竜人クラレイというらしい。紫の尻尾が特徴でこちらも上裸に近い。薄い布でかろうじて局部は隠されているが、なんとも破廉恥だ。


 No3は子供じゃないのか? No1と同じ赤い系統の色をしているが、かなり体が小さい。マルコリーというらしい。



「どれくらい強いんだろうかねぇ。ゴードンですら結構強かったのに」


「そりゃありがてぇ。だが、俺とは全く比にならんぜ」


「不安ですねぇ。協力してくださるでしょうか」


「協力? 何かはわからんが、とりあえずハーキースの所へ連れて行ってやる」


 ゴードンは話が早く、No1の所へ連れて行ってくれるらしい。

 そこらへんは脳筋といったところだろうか。話が早く助かる。


 俺たちはゴードンの進む方向へと着いていき、街の入り口から一番離れた奥地の大きい建物に案内された。



 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

使えないと言われた光属性勇者は勇者パーティを追放されたが、影属性の美少女と出会い最強のSSSタッグになりました⁉勇者パーティに戻れと言われてももう遅い、ざまぁ!! @okarin777

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ