第三章 竜人編

第31話 再出発

 オルネ村に帰ってから数時間、俺たちは夜の宴を楽しんでいた。

 マリアはあっという間にこの村の人たちと仲良くなったようで、皆に囲まれながらハーピー族とはどんな生活をしていたのかなどを聞いている。この様子ならば俺たちが居なくても安心できる。


 確かに、魔族の生態などあまり聞けるものではないからな。かなり珍しいだろう。

 ハーピーに関しては敵対している魔物じゃなかったからすんなりと同盟を組めたものの、その他の魔族はこうも簡単には行かないだろう。


 そんな様子を俺とヨミヤは少し離れたテーブルで飲み物を飲みながら見ていた。



「俺たちは明日の早朝、竜人の街へ行く予定だ。あまり夜更かししても明日に響くから、ちょっと早いけどそろそろもう寝ようか」


「わかりました。もう少し楽しみたかったですが、仕方ないですね」


 ヨミヤは楽しそうにはしゃぐマリアの方を見て、名残惜しそうにしていた。


「……なら、もう少し楽しんでおいたらどうだ。次いつここに戻ってこれるかもわからない。マリアやヨアともしばらく会えないわけだしな」


 ヨミヤにとってここは故郷だ。名残惜しいのも無理はない。


「……それでは、お言葉に甘えさせていただきます。アマギさんはゆっくりお休みになってくださいね」


「あぁ。また明日の朝会おう」


 そう言って俺はログハウスへ、ヨミヤはマリアたちの方へと歩いていった。

 マリアは嬉しそうにヨミヤを受け入れると、俺の方をチラリと見てこちらに飛んできた。




「アマギー! もう寝ちゃうの? もっと遊ぼうよ!」


「俺もそうしたいのは山々なんだが、明日の朝アカトルムに行くことになってな。少しでも休もうと思って」


「そっかぁ……じゃあ仕方ないね……もっとアマギとも遊びたかったなぁ」


 可愛らしく青い羽をこすり合わせて拗ねるマリアを見て、不覚にも俺はちょっと照れてしまった。

 女の子を悲しませるなんて、男じゃないな! 明日の事は明日の俺が何とかする。今日は遊んじまうか!



「……悪かった。せっかくマリアが村に来てくれたんだもんな。今日くらいは付き合うよ」


「やったー!! ヨミヤちゃん! アマギがまだ遊んでくれるって!」


「アマギさん、私のお誘いには乗らなかったのに、マリアさんのお誘いには乗るんですね」


 ヨミヤは少し拗ねた様子でそっぽを向いてしまった。

 俺はいつ誘われていたのだろうか……。乙女心というものは分からない。


 勢いよくヨミヤの方へと飛んでいったマリアの風圧で焚火の火が一瞬ににして消えてしまった。



「あー! 火消えちゃった……ごめんね」


「はは、マリアはドジだな」


 俺はフラッシュとライトシールドを組み合わせて薪に光を一点に集め、再び火をつけた。

 そして俺たちは日が昇るまでマリアたちと遊び続けてしまった。



  ▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼



「おいもう日が昇ってるじゃねぇか! やばいって、全然寝てないよ!」


「少しハメを外し過ぎましたか……不覚です」


 日が昇りはじめ、鳥たちが鳴きはじめる時間になっていた。


 遊んでいる時は全く眠くなかったのだが、今になって少し眠くなってきてしまった。

 だが、早朝に出発すると決めていたんだ。なんとしても行かなければ。あまりもたもたしていたらアレクや憤怒の魔王がいつアヴェロン王国を襲ってもおかしくないんだ。



「ヨミヤ、このまま行けるか?」


「……はい。頑張りましょう」


「もう行っちゃうの? 頑張ってね!」


 マリアは元気に空中で一回転してみせた。

 なんて元気なんだろう。一晩中遊び続けたというのに全く疲れを感じていない様子だ。


「あぁ。行ってくるよ。マリアも、村を頼んだよ」


「任せて! なんかあったらハッピー村から皆を連れてくるから!」


「はは、頼もしいな」


 マリアはそう言ってくれている。村の事は気にせずとも良さそうだ。

 俺とヨミヤは疲れた体に鞭を打ちながら、アヴェロン王国の南にあるアカトルムを目指し、村を出発した。



  ▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼



 俺たちは草原を歩き、アヴェロン王国の南へ向かっている。

 今は王国に近づきたくないので、ある程度離れたところに転移し、そこから歩いている。



「竜人の街ってどんなんだろうな。ハーピーたちみたいに敵対してないといいんだけど」


「どうでしょう。かなりの戦闘民族と言ってましたからねぇ。一筋縄ではいかなそうな気もします」


 そう、怖いのが戦闘民族というところだ。

 俺たち人間を見るや否や、襲ってくる可能性もある。アカトルムの領地に入ったら気を抜かないようにしよう。



 村を出発してから数時間が経ち、日は沈みかけていた。

 一睡もしていない俺たちは日が沈む前に、目の前に広がる岩山地帯に入る手前のところで野宿することにした。地図によるとこの岩山地帯の奥か、そのどこかにアカトルムがあるらしい。


 俺たちの体調でこの地帯に入るのはあまりにも危険だ。



「ヨミヤ、そこの木の下で野宿しよう」

「野宿ですかぁ。気を付けてくださいね~」

「あ、お前! また影の中で眠る気だろう!」

「乙女をそんな硬い所で寝かせないでください」


 確かに木の下は芝生も少なく、お世辞にも寝心地がいいとは言えないだろう。

 木も岩山地帯には全く生えてはおらず、この木がこの辺りで最後の木だ。



「じゃあ交代で見張りをしながら、寝よう。まずはヨミヤから寝てていいぞ」

「本当ですか? ではお先に失礼しますね」


 そう言って影の中へと消えていったヨミヤは姿を消してしまった。

 正直影の中に入られては、一人ぼっちで少々心寂しい。


 だけどヨミヤをこんな硬い所で寝かすのも悪いしな、我慢我慢。


 二時間ずつの交代制で寝ることにしたので、時間になるまで俺はあたりを警戒することにした。





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