第29話 ハッピー村の迎撃

 俺たちは進軍してくる二百近くのオークと、それを束ねる超巨大オークの進軍に度肝を抜かれていた。

 マリアや他のハーピーたちも、そのデカすぎるオークを見て腰を抜かす者もいる。


 こんなデカい奴どうすりゃいいんだ……。こんなところで詠唱魔法を使ったとしたら村に被害が及ぶ可能性もあるし、何か別の方法を考えないと……。



「マリア! あのデカイやつは放っといていい! とにかく小さいほうの数を減らしてくれ!」


「わ、わかった! デカいやつ任せていいんだよね!?」


 デカブツの距離はおよそ百メートル。

 進軍のスピードはかなり遅い。ハーピーたちも、のろまなオークであれば何とか有利な空中戦でこちらに分がありそうだ。遅いながらも確実に一匹一匹仕留めてくれている。


 今の現状を見るに、小型はハーピーに任せても問題ないだろう。俺はあのデカブツをどうにかしないといけない。


「ヘヴンズレイ!」



――ピシュゥゥゥン!


 俺はひとまず光線を大オーク目掛けて放った。

 その光線は体を貫通するものの、傷口が黒い炎に包まれて完治してしまう。


 俺がどうするべきか悩んでいた時、大オークは巨大な斧をゆっくりと上に持ち上げ、こちらへと放り投げてきた。

 その斧は空中にいたマリアへと一直線に飛んでいく。



「危ない!」



 俺の魔法でも恐らくあのデカブツは止められない。

 ラスターバーンでもある程度物理攻撃は止められるが、あれはあまりにもデカすぎる。



「ここは私が!」


 ヨミヤが瞬時に影の中に入り、マリアの近くの木から頭を出す。


「マリア! こっちよ!」


「う、うん!」


 マリアの手を引き間一髪のところで二人が影の中へと入った。

 マリアの居た場所は巨大な斧が轟音を立てて通り過ぎ、数本の木をなぎ倒した。



――ズシャァァァァン!!



「おいおい破壊力がけた違いすぎるだろ……」


 なぎ倒されていく木をみて俺は絶句した。

 だがこれで大オークの武器は無くなった。

 今のうちに何か決定打を見つけ出さないと……。


 俺は小オークと戦うハーピーたちの援護をしながら、色々考えた。

 だが、これといっていい解決策が思い浮かばなかった。




「いやあんなふっとい首どうやって切ればいいんだ!? あーーーなんも思いつかねぇ!」


 樹齢三百年くらいの大木のような首をやすやすと斬れる方法なんて思いつくもんか。

 俺のエンチャント付与でも両断するには長さが足りない。



「……そうだ! 何も本体を切らなくてもいいんじゃ!?」


 俺は考えに考えた結果、一つの方法を思いついた。

 もう大オークは村の五十メートルくらいまで迫っている。

 ヨミヤに早く伝えなければ。



「ヨミヤ! こっちへ来てくれ!」


「なんでしょうか!」


「そういえば俺たち時間がある時、家でスキル習得について話してただろ。俺がフラッシュで大オークの影を作るから、その影をヨミヤのシャドウウェポンで切ってやったらどうだ!?」


「その発想はありませんでした! それならば可能性がありそうですね!」


 ヨミヤは新しいスキル、シャドウウェポンを取得していた。


 それはヨミヤの持っている傘に影の力を注入し、大きな鎌へと変化させるものだ。

 シャドウウェポンで変化させた武器は、相手の影を攻撃することができるようになる。

 飛んでいる相手の影を攻撃したりして一方的に攻撃することが可能になるらしい。


 ヨミヤは持っている傘に影の力を注入すると、みるみる形を変え鎌へと変化していった。

 刃の部分は月食のような色で、なんとも恐ろしい見た目をしている。



「お前が持つと死神みたいだな」


「乙女に対してやめてください」


「はは、すまん。ヨミヤ行くぞ!」


 俺たちが作戦会議をしている間に大オークはバリケードを粉砕し、村への侵入を開始していた。



「フラッシュ!!」


 暗い森の中が真昼間のような明るさになる。

 光が出来たということは影も出来ることになる。大オークの後ろにはかなり長く伸びた影が出来上がった。

 このスキルを戦闘で使うのは久々だ。でも今は昔と違う。

 このスキルでヨミヤの力が発揮されるのだ。俺たちの相性は抜群だぜ。



「やぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 ヨミヤはシャドウシークであっという間に大オークの後ろへと移動し、俺のフラッシュによって長く伸びた大オークの影の首部分をスパンと切り落とした。



『グゴォォォォォォ……』


――ドシィィィィィィン!



 ゆっくりと倒れる大オークはとてつもない風を起こしながら倒れた。

 その風に周りのオークたちも吹き飛ばされる。


 陰であれば質量は関係ない。ただ紙をハサミで切るようにチョキンとすればいいだけだ。

 もしこのオークに知性が備わっていたのなら、こんなに簡単にはいかなかっただろうな。



「よっしゃ! 作戦通り!」


「アマギやるじゃん! ヨミヤちゃんもすごーい! 天才だね!」


 あとは残っている小オークのみだ。

 俺たちはハーピーたちに加勢することにした。



――スパンスパンスパン!



 俺のフラッシュは影が出来やすいようにオークに対して45度の角度に設置しておき、太陽のように輝かせてある。

 それを利用しヨミヤは鎌で次々と小オークの影を切り裂いていく。


 俺もそれに続き、光エンチャントを施した短剣で小オークの首を薙ぎ払っていく。




「おぉ、あの二人とんでもないコンビネーションじゃ」


「ほんとにね! あたしたちの出番ないんじゃないってくらいだよ!」


 村長とマリアが俺たちの動きを見て関心している。


 もう少しで小オークも全滅させられそうだ。

 俺は清浄の光リカバリーで自身の体調をコントロールしながら、手を止めることなく小オークを薙ぎ払っていった。



  ▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼



「はぁ、はぁ。こんなもんか」


「とても疲れました……数が多すぎましたね」


 俺たちはオークの死体の山の上に立っていた。

 ハーピーたちの協力もあって、全てのオークを討伐することが出来た。


 俺は指輪を掲げ、 吸収ドレインで大量のオークたちの死体を吸収する。

 黄色いオーラが指輪に吸い込まれていき、俺は防御耐性Lv10を取得することが出来た。



「おっつかれー! アマギ、ヨミヤ! 本当に強いんだねー!」


 上からマリアが青い羽を羽ばたかせながら降りてきた。

 なかなかに疲労している様子で、羽が逆立っている。


「マリアたちも凄い活躍だったよ! あと怪我しているものはいるか。もしいるなら全員を一か所に集めてくれ」


 俺がそう言うと、マリアは他のハーピーたちに声をかけて回り、村長の家へとケガ人が運び込まれた。

 俺はそれを一人ずつ清浄の光リカバリーで治していき、一旦落ち着くことが出来た。



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