第28話 闇オーク
俺たちはあれから丸三日、平和なハッピー村で滞在していた。
どれくらいの頻度で攻めてくるのかはわからない。
俺は暇を持て余していたので、この村のバリケードを強化することにした。
「アマギ凄いじゃん! 便利なスキルだね~」
「はは、ありがとう。それにしても、どのくらいの頻度で攻めてくるの?」
俺は生活スキルの『サバイバルリスト』『木こりの目利き』『構造力学術』の三つを駆使しながら、村の周りにバリケードを作りながら、マリアと話していた。
ヨミヤは別の場所で何かしているようだ。きっとジェフリーの長話にでも付き合わされているのだろう。
「う~ん、なんか最近攻めてこないね~。前までは二日に一回くらい来てた気がするんだけど……」
「なんか不吉だね」
俺はまた嫌な予感がした。
もしかすると俺が同盟を結ぼうとしているのがアレクや憤怒の魔王にバレているのかもしれない。
だがマイナスなことばかり考えていても仕方がない、あまり気にしないようにしよう。攻められないのであればそれは幸運なことじゃないか。
俺たちはバリケードを張り巡らせ終え、家へと戻った。
そして再び夜がやってきた。
▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼
――ガチャリ
「おぉヨミヤおかえり。今日は何してたんだ?」
「はぁ、疲れました……。村長の長話に一日付き合わされてしまいました」
やはりそうか。村長と言えば長話が鉄則だからな。俺にやることがあってよかった。
俺は疲れベッドに横たわるヨミヤを見ながら、しみじみとそう感じた。
「それにしても平和だね。これまでは二日に一回攻めて来てたらしいよ。なんか嫌な予感がするんだけど、大丈夫かな」
「普段と違うと緊張するものですからね。このままなにもないことを祈りましょう」
そうだ。このまま何もなければ問題はない。
でもそうなると、同盟の件はどうなってしまうのだろうか。
俺たちは撃退し、その対価として同盟を結ぶこととなるはずだ。攻めてきてほしいような、ほしくないような微妙な気持ちになったまま、俺はベッドへと身を委ねた。
▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼
――カラカラカラカラカラァ!
――敵襲! 敵襲!
俺たちがベッドに入ってから何時間たっただろう。
寝静まったハッピー村に突如、大きなトラップ音が響き渡り、見張りのハーピーが声を荒げる。
ようやく来やがったかオークども、サクッと返り討ちにしてやる。
「ヨミヤ! 行くぞ!」
「はい!」
夜であればヨミヤの力も十分に生かせる。森は常にどこかしらに影があるから日中でもある程度自由に動けるが、夜なら好都合だ。
「アマギ! オークが攻めてきたよ! やっつけちゃってよ!」
俺たちが家から出ると、マリアがちょうど家の前に到着したところだった。
「おう! 任せとけ! で、敵はどのくらいいるんだ」
「それが、なんかオークの様子が変なんだよ! なんか黒いオーラを纏ってて、気持ち悪いよ!」
黒いオーラ? 俺の嫌な気持ちだったものが確信へと変わっていく。
俺たちが攻めてきたオークの元へ向かうと、アレクがオルネ村を襲ってきたときに纏っていたオーラと似たようなものがオークを包んでいた。
数は百――二百はいるだろう。とんでもない数のオークが音トラップを鳴らせながらこちらへと進軍しているのが見える。
「おいおいまじかよ……ここにも憤怒の魔王の手が来てるのか!?」
「私たちの作戦がバレてるのかもしれません。本人が攻めてこないということは、これも彼の言うおもちゃというやつでしょう。完全に遊ばれてますね」
そうだ。憤怒の魔王・ドレイク・ヴァインツィアール自らが来ればこんな村あっという間に支配できるだろう。自分で来ないということは、遊ばれているということだ。
「アマギ! ほんとに大丈夫なの!?」
ちょっと数が多すぎるな……こんなところで詠唱魔法を使ったら村にも被害が及びそうだ。まずは結界魔法で様子見するとよう。
「マリア! みんなに伝えてくれ。俺はまずオークが村に到達する前に、結界魔法であいつらの動きを止める! その後弓で数を減らしてくれ!」
「わかった! 伝えてくるね!」
マリアは凄い速さで前にいる迎撃部隊に伝えに行った。
よし、じゃあ俺も始めるとしよう。
「プリズン・プリズム!」
二百以上のオークの周りに七色に輝くドームが出現する。
それに入ったオークたちは様々な状態異常にかかり、その場で慌てふためくもの、恐れ自害するもの、混乱して身内同士争うものなどいろいろな現象が起こり始める。
それを見たマリアや迎撃部隊は弓を放ち、さらに数を減らす。
だが、矢が当たったオークたちは一度倒れはするものの、傷口に黒い炎が覆ったかと思うと矢を燃やし傷口が塞がってしまった。
「おいなんだあいつら!? ゾンビかよ!」
「やっかいですね……首を切るか、修復できないくらいの攻撃を当てなければ倒せそうにありませんね」
混乱によって首を斬られたオークたちは起き上がることはなかった。
つまり、確実に倒せる一撃をぶち込まないと倒せないということだ。
「矢だと威力が低すぎるか……マリアァ! あいつらに矢は効かない! 首を切れるものや心臓を貫けるもので戦え!」
俺の声はマリアに届き、迎撃部隊は弓でアシスト、前衛部隊は長剣で戦うことになった。
――ガシャァァァン!
俺たちが新しい迎撃スタイルに変えた途端、プリズン・プリズムが鋭い音を立てて破壊された。
中にいたオークたちは正気を取り戻し、再びこちらへと進軍してくる。
その一番奥には、結界を破壊したであろうとんでもなく大きいオークが居た。
「な、なんだあれ!? デカすぎんだろ! あんなのいんの!?」
「ちょっと気持ち悪いですね……」
「ア、アマギー! 何あれ! あんなのみたことないよ!」
ハッピー村は地上十メートルほどの高さにある。
それの半分ほどの大きさのオークは、高さ五メートルに匹敵する。
とてつもなく大きい斧を片手に持つそれは、振り上げればこの村の高さにも匹敵するだろう。
「やばいなこれ……どうしよう」
俺は憤怒の魔王の力が加わった二百のオークに加え、巨大なオークも同時に相手をすることになってしまった。
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