第26話 ハッピー村
俺たちは木々の間を華麗に飛び回るハーピーのマリアを必死に追いかけていた。
かなりのスピードで見失わないように追いかけるので精いっぱいだ。
「お、おい! もう少しゆっくり飛んでくれないか!?」
「えぇ!? 人間って遅いんだなぁ」
「な、なにを!?」
小ばかにしてくる顔でこちらを振り向くマリアに対抗し、俺は更にスピードを上げた。
ここで俺が風の守護神に選ばれてたら、きっとヘイストとか使って移動速度上昇とかあるんだろうなぁ。
俺はヘイストを自分に付与するつもりで
すると先ほどまでの足の疲れ、心臓の高鳴りが瞬時にひいていき、まるで走る前のような状態に戻った。
「あ、あれ!? これ実質ヘイストじゃね!?」
俺は新しい発見をした。
それもそうだ、傷を治すということは体の状態を元に戻すということなのだから。
体の回復力を大幅に促進させるということは、体調も良くなるに決まっている。
「おっしゃ! ヨミヤおっさき~!」
「ちょ、ちょっとズルいですよ! 私にも
「お! やるじゃん! じゃ、もっと飛ばしちゃうよ~!」
すると先ほどの二倍くらいの速度でマリアは
「いや、それは無理だわ!!」
いくら体調を戻したからと言って足が速くなるわけではない。
俺が大声でツッコむと、向こうからマリアが戻ってきた。
▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼
「はぁ、やっとついたな」
「遠かったですねぇ」
「二人ともお疲れさん! ここがハーピーの村、ハッピー村だよ!」
え? 今なんて? ハーピーのハッピー村? めちゃめちゃややこしい名前してるじゃん。
俺は心の中でツッコみながらも、ハッピー村の様子を目の当たりにした。
高い木が生い茂る中、地面より遥かに高いところにある枝に家がたくさんある。その枝がいくつも繋がって、まるで道のようになっていた。
きっと地上に住む外敵から身を守るための行動だろう。
例えるならツリーハウスのようなものが、この周辺にたくさんあった。
その他には地上にバリケードや、さっき俺が引っかかった音をたてるトラップも張り巡らされている。
ここに住むハーピーたちは、俺たちの事を不思議そうな目で見ていた。
「村はこの上だから、君たちは飛べないよね? あたしが上まで連れてってあげるよ」
一応ライトシールドを足場にしていけば上まで行けんことはないが、ここは甘えておくことにした。
マリアは俺を抱きかかえると、強靭な足を地面にめり込ませながら上へと大ジャンプした。
「う、うおおおお! はええ!」
「驚いた?」
あっという間に高さ十メートルほど上の枝にたどり着いてしまった。
なんていう速さだ。確かに小さな虫も人間サイズにすればとんでもないパワーになると本で読んだことがある。きっと鳥も同じなのだろう。
「もう一人の女の子も連れてこないとね」
マリアはそう言って下を見たが、そこにヨミヤの姿は無かった。
「いえ、その心配はありませんよ」
ヨミヤは枝の影からひょっこりと姿を現した。
なんて便利なスキルなんだろう。影があるところを伝って木の上までやってきていた。
「うわ~すごいね! あ、今更だけど君たちの名前は何ていうの? もう知ってると思うけど、あたしはマリアだよ!」
そういえば俺たちの名前はまだ名乗っていなかったな。
マリアの名前は護衛達から聞いていたが、名乗るのを完全に忘れていた。
「俺はアマギ・ライネス。こっちは俺のパーティのヨミヤ・アナスタシアだ」
「よろしくお願いいたします」
「よろしくね! でもあたしたち鳥頭だからすぐ忘れちゃうんだけどね! まずは村長のところに案内しよっかな。え~っと……どっちだっけ」
「そこも忘れてんの!?」
「あはは、冗談冗談」
俺はマリアのペースに乗せられながら、後ろを着いていくことになった。
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「ここが村長の家だよ!」
俺たちは枝の道を何本も渡り歩き、一番大きな木の家にたどり着いた。
中に入ると、部屋の奥に赤い羽根をしたハーピーが藁の上に座っているのが見えた。
「ジェフリー村長! お客さん連れてきたよ!」
ゆっくりとこちらを振り向くハーピーは、かなりの老体のようだ。
今にも死にそうな様子で俺たちの事を見ている。
「お、おぉ。……誰じゃ?」
「ちょっととぼけないでよー! マリアだよ!」
「おぉ、マリモじゃな。よく帰った」
おいおい全員鳥頭とかいうんじゃないだろうな。こんな様子で村として機能しているのか?
俺は幸先が不安になりながらも、二人の会話に耳を傾けた。
「今日はトラップに引っ掛かったヤツがいて、いつも通りオークの襲撃かと思って攻撃したんだ。じゃあ人間でね、この村に用があるから連れてきてあげたの」
「おぉそうか。皆に怪我はなかったかの?」
「うん! 反撃されちゃったけど、このアマギって人が治してくれたよ」
このタイミングで紹介された俺は、軽く会釈をした。
「それは世話かけたのぉ。ママギじゃったか? 失礼を許してほしい」
「アマギです。いえ、大丈夫ですよ」
「おぉ、アサギじゃったか。すまんすまん」
俺は訂正することを辞めた。
この村ではあまり名前は意味がなさそうだ。そう感じた俺は名前を間違えられながらも、話を続けていった。
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