第25話 誤解

 俺たちは一晩をオルネ村で過ごし、ハーピーがいる森へと出発しようとしていた。


「それでは、どうかご無事で」


「はい、行ってきます。必ずいい成果を上げてきますので」


「父上もどうかご無事で」


 俺はヨアたちに挨拶を済ませると、未開の森の地へと足を進めた。


 この森は俺は来たことがない。ハーピーとやらも実際には見たことが無かった。

 ギルドにあった本の魔物図鑑で読んだことがあるくらいで、詳しくはない。



「ハーピーたち、どんな感じかなぁ。敵意とか無かったらいいんだけど」


「そうですね。敵意があったらシャギーみたいに力でねじ伏せるしかありませんね」


「おいおい……」


 なんだかヨミヤは魔物に対して当たりが強くないか? 村で言っていた魔物の村を回ればいいんじゃないかという言葉も、全て力で支配して回ってはどうですかという言葉にも聞こえてきた。


 俺は真顔で歩くヨミヤを横目で見ながら森を進んでいった。



  ▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼



 あれからかなり森を進んだ。

 もうどこから来たかもわからないほどに周りの景色はずっと同じだ。


 すると俺は一つの木の上に何かモサモサとしたものを見つけた。


「あ、なんだあれ!」


 鳥の巣……だろうか。木くずをいくつも束ねて作られたそれは鳥のものとは思えないほどに大きい。

 人間でもすっぽりと入ってしまいそうな大きさだ。


「鳥の巣にしては大きすぎますね。もしかすると、ハーピーのものかもしれません。様子を見てきます」


 ヨミヤは木の枝を軽々とジャンプして登り、あっという間に巣の元へと辿り着いた。



「おーい、なんかわかるかー?」


「恐らくハーピーのもので間違いないかと思いますわ! その証拠に、こんなものが!」


 ヨミヤは巣から青色の大きな羽を放り投げてきた。

 ゆらゆらと落ちてくるそれは、鳥の羽ではないことは確かだ。

 間違いなくハーピーのものだろう。


「おぉ! すごい綺麗だな。ということはハーピーの村に近づいてるってことか」


 俺はその羽をそっと床に置き、再び足を進めた。


 


 再び十分くらい歩くと、その巣がちらほらと増えてくるのが分かった。

 俺たちは確実に巣へと近づいている。


 そう思ったその時――



――カラカラカラカラァン!



「な、なんだこれ!」


 足に糸のようなものが引っかかり、それに連鎖しどこからともなく乾いた木がぶつかり合う音が森中に響き渡った。


「わ、罠かもしれません! 気を付けて!」


 俺たちが警戒態勢に入ると、二方向から弓矢が飛んできた。



「あ、あぶねぇ!」


 俺はその弓を短剣で弾き返した。

 しかし息をつく暇もないまま次々と弓矢が飛んでくるのがわかった。


「くそ! きりがねぇな! 光の守護神オラクルガーディアン!」


 数多の光球がポワポワと浮かびだす。

 俺はそれを飛んでくる矢を目掛けて一斉に放った。



――シュバババババ!



 光球が矢に当たると相殺され、共にはじけた。

 すると矢の攻撃が止まり、三本の木からそれぞれ青い人型の鳥のようなものが落ちていくのが見えた。


 光の守護神オラクルガーディアンは遠距離攻撃でも、攻撃を放った持ち主のところへ少しの間接ダメージが入るからだろう。



「と、止まりましたね……」


「あぁ。なんだったんだ……とりあえずあの落ちた人の所へ行ってみよう」


 俺たちは落ちた青い人型の鳥の所へと走っていった。

 そこには顔より下が鳥のような見た目をした人間がいた。

 これがハーピーというものだろうか。羽は青空のように青く、黄色い脚はとてもたくましい。

 



「あ、あのぉ~……すみません、攻撃するつもりは無かったんですが、仕方がなく……」


 俺の問いかけに返事は無かった。

 恐らくそれなりのダメージが入ってしまったのだろう。

 悪いことをしたと思った俺は、回復魔法を唱えることにした。


清浄の光リカバリー!」


 するとみるみる三匹の傷が治り、意識を取り戻した。



「あ、あれ。あたしたちオークにやられて……」


「オーク? 私たちは人間ですよ」


「あれ!? 人間なんですか!? すみません、反射的にオークかと思ってしまいました」


 なるほど、あれはオークが来たことを知らせる音トラップだったのか。

 知性の乏しいオークであれば、あの罠にも何回も引っかかるだろう。

 まぁ俺も引っかかったからもしかしてオークレベルの知性なのか……? 俺は考えるのをやめた。



「僕たちに敵意はないです。ただ、ハーピーの村に用事があって……」


「あ、そうなんですか? 私たちハーピーの村はこの奥にあります。間違えて襲っちゃったお詫びとして、おもてなししますよ。ろくなものないですけど。あっはっは!」


 明るい彼女はそう笑いながら言っていた。


 俺が反撃したことについてはもう何も思っていないらしい。

 もしかして、これが本当の鳥頭ってやつなのだろうか。


「じゃ、あたしはこの二人を村まで案内するね。警備は任せたよ」


「はい! マリア様!」


 ハーピー二人はびしっと敬礼すると、羽を羽ばたかせ再び持ち場へと戻っていった。



「じゃ、お二方こっちだよ! そんなに広くないから期待しないでね~」


 俺たちは飛び立つマリアとかいうハーピーの後ろを、走りながら着いていった。

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