第21話 憤怒の魔王

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 一方、シャギーが加勢に来たヨミヤ側では劣勢だった状況から優勢へと転じていた。


「やっほ~ヨミヤちゃん。苦戦してるんだって~?」


「ふ、不甲斐ないながら、少々相性が悪いです」


 私は前衛に出るというよりかは後ろから相手への嫌がらせ、サポートを得意としているので攻撃型の氷属性守護神ヒューガとは相性が悪かった。


「フフフ、相性が悪いのではない。僕が強いのさ!」


――ヒュオオアァァァア……


 ヒュウガが右手を前に出すと、その横から氷の槍が大気中の水分を凍らせながら形を作っていった。


「くらえ! その傘ごと貫通してあげるよ」



――パキィィィィン!



 放たれた氷槍アイシクルランスは傘を貫くことは無く、放たれた瞬間に砕け散った。


「な、なんだと!?」


「弱いよ少年~。そんなんじゃあたしお気に入りのヨミヤちゃんの元へは届けられないよ?」


 きゅるんと目を輝かせながらそう言うシャギーの顔に、ヒュウガはご立腹だった。


「なぜ! なぜお前のように強い奴があんな雑魚に肩入れをする!氷雨アイシクルレイン


 ヒュウガは数多の小さな氷の粒を頭上に発生させ、雨のように落下させながらシャギーに問いかけた。


「そりゃぁもちろんあたしのお気に入りってのもあるけど……あたしより強いからっしょ!」


 氷雨アイシクルレインを片手を薙ぎ払い、風圧で全て消し飛ばすとヒュウガは勝てないと分かったのか、膝をついてしまった。



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「ヒュウガァァァ!」


「ほら、よそ見してると危ないよ!」


 ヒュウガの心配をするアレクだったが、目を逸らした隙に光エンチャントを乗せた拳をアレクの右頬にぶち込んだ。


――ドシャァ!


「ぐあぁっ! 拳ってお前、舐めてるにもほどがあるだろ!」


「俺はお前たちが憎い! でも、それでも殺すわけにはいかないんだ!」


 そう叫ぶと、膝をついて立ち上がろうとしたアレクの上に一つの人影が出来た。



――ドシィィン!



 その人影はアレクの頭の上に足を着けながら降りてきた。

 背が高く、赤と黒をモチーフとした刺々しい鎧に身を包み、右手には赤と黒の炎の球をゆらゆらと燃やしていた。

 アレクの頭を足で踏みにじると、ゆっくりとした口調で話し始めた。



「ふむ……我の力を貸し与えたというのになんの成果も得られていないではないか」


 ぐりぐりとアレクの頭を足で踏み続けている。

 アレクは呻き声をあげながら必死にもがいていた。


「き、貴様は誰だ!」


「我か? 我は憤怒の魔王・ドレイク・ヴァインツィアールだ。憎しみと怒りのオーラの元に現れる」


 彼は四人の魔王のうちの一人、憤怒の魔王だった。

 楽観の魔王のシャギーに続き、二人目も出てきしまった。

 彼は憎しみと怒りのオーラの元に現れると言った。アレクの憎しみが限界点に達し、そこにドレイクが付け入り傘下にしたのだろう。


「おいドレイクじゃないか! ここはあたしの領域だぞ! 勝手に入ってくるんじゃねぇよ!」


 シャギーがドレイクにそう言った。

 魔王にはそれぞれの領域があり、それを侵すことは特例を除き許されてはいない。


「くっそ! この足をどけろ! 俺の邪魔すんじゃねぇ!」


「喚け小童。我の力を分け与えたにもかかわらずこのような結果など……我の顔に泥を塗るつもりか?」


「お前がケチるからだろ! もっと力を寄越せ!」


 アレクがドレイクに憎しみ口を叩くと、シャギーの言葉には耳を傾けずに足から憤怒の炎を発生させアレクの頭を焼いた。


――ゴオオオオォォォ


「ぐああぁぁぁあ!」


 呻くアレクを見てヒュウガがドレイクにやめるよう懇願する。


「ド、ドレイク様、それ以上は死んでしまいます! もう一度、もう一度僕たちにチャンスをください」


 片膝をつきながら忠誠を誓っているかのような姿勢でそう話すヒュウガは、完全に魔王サイドに堕ちているようだった。


「ふむ……ここでお前たちを始末してしまっても興ざめだな。もう少し様子を見てやる。散れ」


 ドレイクが二人を魔法陣で包み込むと、瞬く間に姿を消してしまった。

 転移魔法の類だろうかとそう考えているとドレイクが今度は俺に向かって話しかけてきた。



「邪魔したな。もっとお前達といい勝負が出来るかと期待していたんだが、期待外れだったようだ。次はもう少し遊べるようにおもちゃを用意しておく。それとシャギー、我は領地を侵略しに来たわけではない。使えぬおもちゃを片付けに来ただけだ」


 そう言い残すと、彼は上空へと飛び去って行った。





「な、なんだったんだ……」


「アレク達は完全に魔王サイドについてしまったようですね……魔王を討伐するための勇者パーティなのに、なぜこんなことに……」


 俺とヨミヤが話し合っていると、シャギーが俺たちの肩に手をまわしながらこう言った。


「まぁまぁいいじゃない! あたしらは同盟なんだからさ、協力しながらあいつらをやっつけちゃおうよ!」


 さすが楽観の魔王と言わざるを得ない解釈に、俺の気は緩んだ。



 そうだ、俺は今魔王と同盟を結んでいる。何も怖いことは無い。


「まぁそうだな。今は勝利の美酒に酔いしれることにしよう」

「そうですねアマギさん。立て続けに色々なことが起こって私も疲れてしまいました」



 ようやくオルネ村の全ての災難が去り、俺たちはしばらくこの村に留まることにしたのであった。




【あとがき】

お手数ですが、ページから離れる前に、少しお時間を頂けると嬉しいです。


これにてこの物語の第一章は完結となります。


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