第19話  再来

 俺はあれから宴を楽しみ、作ったばかりの埃一つないログハウスで一夜明かした。

 開けていた小窓から顔を出し、初めてこの村に来たとは違う新鮮で綺麗な空気で肺を満たすと、そこには既に起きていた村人とヨミヤたちがせわしなく動いていた。


「あ、おはようございますアマギさん」


 そうヨミヤが俺に言うと、他の村人も気づいたのか順々に挨拶をした。

 俺はそれに答えると、皆が何をしていたのか気になり外へと出た。



「これは一体何をしているんですか?」


 ヨアに話しかけつつ周りを見渡すと、村人たちは完成したログハウスに登ったり新しく木を切ったり、金属を加工したりと忙しくしていた。



「アマギさんが作ってくれたこのログハウスでも十分なんですけど、あれからこのログハウスをもっと豪華にしようと、皆で作業していたんですよ。こんなにやる気のある村人たちを見たのは久々ですよ」


 確かに俺が作ったログハウスよりも、一部に金属が使われていたり花で飾られていたりと少し色鮮やかになっていた。


「そうなんですか、言ってくれたら俺も手伝ったのに」


「いえいえ、これ以上アマギさんの手を煩わせなくても出来るってところをお見せしないと」


 そうにこやかに言うヨアだったが、確かに俺がいなくても村が発展していけるようにしておかないとまた襲われた時に対処できなくなってしまう。そう思ったアマギは皆の活躍を見守ることにした。





 あれからまた一日経過し、それなりにログハウスの装飾が完成してきていた。


「いやぁ茶色一色のログハウスより格段にいいなぁ!」


「とても綺麗になりましたよね!」


 手を合わせながら村を見るヨミヤと俺は、色鮮やかな装飾が行われた村の景色を一望していた。



――ドカァァァァァン!



 すると村の入り口の方から土煙があがり、爆発音が鳴ると同時に村人の悲鳴があたりに響き渡った。


「な、なんだ!?」


「また敵襲ですか!?」


 一日の作業で疲労困憊の村人たちはそれでも、それぞれ武器を取り臨戦態勢に入った。



『おらぁ! ここにいるんだろアマギ! 出てこい!』



 入り口から聞き覚えのある声がした。アレク・オーレンだ。


「あいつ、また来やがったのか……」


「本当にしつこいやつですね……!」



――ボカァァァン!



 俺がなかなか姿を現さないでいると、再び火柱が入り口で上がり村の看板を焼きつかせた。



「さっさと出てこいクソ野郎!」



 そう叫ぶアレクをこのまま放っておけば、せっかく村人が作り上げた建物を壊されかねない。

 俺は急いで村の入口へと走った。



「またかアレク! 今度は何の用だ!」


「街でお前がこの村に向かったって情報を手に入れてなぁ、遊びに来てやったぜ」


 いつもの赤い鎧に身を包み、剣を肩に担ぎながら俺にそう言うアレク。横にはヒュウガも居た。

 誰もアレクが来ることを歓迎していなかったが、なにやらいつもと様子が違うことに俺は気が付いた。

 風属性サリアと土属性ゴレンが居ないのだ。


 

「いつもの二人はどうした」


「あぁあの女とデカブツか? サリアは俺のやる事にいちいちケチ着けてきやがるからパーティから除名してやったぜ。ゴレンは単純に街に置いてきた。あいつがいると前みたいに止められかねんからな」


 アレクは仲間の事を何とも思っていないのか、あっさりと切り捨てていたようだ。

 横にいるヒュウガはアレクに肩入れしているようだった。

 だがそれ以上に、雰囲気が前とは違っていた。



「お前、誰と契約をした」



 重い口調でそう言う俺は、二人の異質な雰囲気を感じ取っていた。

 アレクとヒュウガは黒いオーラを身に纏い、いかにも力を手に入れましたといった様子で堂々と立っていた。


「あ、気づいちゃった~? さっすがアマギく~ん。実は俺、力を手に入れちゃったわけよ」


「今の俺たちは前とは違う。アマギ、あまり舐めるなよ」


 アレクとヒュウガは何と契約したかは言わなかった。しかし、強大な何かから力を分け与えてもらっていることだけは確かだ。


「また俺に何かしに来たのか。懲りないな! また返り討ちにするぞ!」


「出来るもんならやってみろよ! 今まで俺らの後ろでピカピカやってたお前が、俺らの事を下に見てんじゃねぇぞ!暗黒ブラッディ炎柱ファイアストーム!」



――ゴアアァァァァァッ!



 アレクは剣を持つ手とは逆の左手で、ドラゴンが吐くような火柱を放ってきた。

 しかし、前の火柱とは違い所々に黒い炎が入っている。

 赤と黒の炎の柱が俺に向かって真っすぐ飛んできた。


(くそっ! ここでラスターバーンを張っても村に炎が飛び散ってしまうかもしれない……どうすれば!)


 そう、アレクは入り口の方から村の方へと火柱を放っていた。

 俺がラスターバーンで反射したとしても、火の粉が村へと飛び散ってしまうかもしれない。

 木造が多いこの村に引火すれば、たちまち炎は周りの森へと移っていくだろう。

 俺はそう考えると、反射させずに解決する方法を思いついた。


「アマギさん!」


 ヨミヤが後ろで叫ぶ中、俺は背中にラスターバーンの膜をパラボラ状に展開し、真正面から暗黒火柱を受けた。

 背中で反射するのを確認すると、そのまま膜を前面へと展開していき、俺自身を膜の球体で覆い炎を外へと逃がさないようにした。


「あ、あっつ! これ普通の炎じゃないのか!?」


 俺は火耐性Lv10を持っている。炎の攻撃は効かないはずだった。

 しかし、今の俺にダメージを与えるということは、この炎は火属性だけではないということだった。


「うっひゃあいいねぇ! 効いてる効いてる! 俺の炎はどんな心地だ?」


 嬉しそうに顔を歪ませながら俺にそう問いかけるアレクは、より邪悪さが増していった。


「アレク! お前、闇属性の何かと契約しただろ!」


 俺はこの炎の正体を理解した。

 光属性の弱点は闇だ。俺にダメージを与えるということは、炎属性に加え闇属性が付与されている。


「お、ご名答。俺は魔王様と契約をしたんだ」


 (魔王様だと!?)



 この世には四体の魔王がいる。ついこの前一体目の魔王を見ることができたと思ったら、もう二体目が出てきたことに驚きを隠せなかった。

 俺と同盟を結んだからなのだろうか、対抗馬として出てきたのかもしれない。



「憤怒の魔王とやらが俺たちの元を突然訪ねて来てな。力を分け与えてくださったんだ」


 そう言うアレクは憤怒の魔王と契約を結んだと言った。

 つまり俺の会った魔王は性格からするに、楽観の魔王だということが推測できた。



「そんなものと契約を結んでどうする! バレたらギルドや王国を追放されるぞ!」


「大丈夫だって。この力は隠し通せる。便利な能力だよ。そして王国でやる事も済んだしな」


 不敵に笑う二人に、俺は嫌な予感がしていた。



「それで、どうする。今ここでやりあうつもりか」


「お前がやりたいならやってやってもいいぜ? 今度は邪魔するやつもいねぇ。全力で潰してやる」


 剣を構えるアレクと短剣を構えるヒュウガはもう臨戦態勢に入った。

 俺はどうやら、村を守りながらこいつら二人を相手にしなければならないらしい。


「アマギさん、私も加勢します」


 こうして俺とヨミヤは、元勇者パーティの二人とやり合うことになってしまった。


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