第16話 大蛇ヴリトラ
頭に黄色い宝石のついた王冠を被り、深緑色の体をくねらせ猛毒を撒き散らしながらオルネ村に近づく大蛇。ポイズン・スネークを束ねるものだろうか、山積みになっている死体を見て怒り狂っているように見える。
「まずいな、怒り状態に入ってやがる」
「あまりにデカすぎます。これだと私のシャドウバインドも効くかどうか……」
ポイズン・スネークの死体を掻き分けオルネ村の近くに到着した大蛇は急に動きを止め、俺たちの事をジッと見つめてきた。
「アマギさん、気を付けてください」
「あぁ。でもなんだか様子が変だ」
睨みあいが続く中、急に頭の中に頭痛がするほどの声が聞こえ、思わず耳を塞いだ。
『我が名はヴリトラ。魔王様により力を分け与えられ、全てのポイズン・スネークを統括するもの。ところで、私の可愛い子供たちを殺してくれたのは誰だ』
俺たちの脳内に女性のような声でそう語りかける声は恐らく、この大蛇からのものだった。
「そこの蛇たちの事だったら、俺たちで間違いない」
俺はヨミヤの家の方を確認しつつ、ゆっくりと話した。
ヨアは家からニーアを連れ出し、避難しようとしている。もう少し時間を稼がなければ。
少し間を空け、二つに分かれた舌をチロチロと躍らせながら再び大蛇が話し出した。
『お前の様な小僧が一人で……フフフ、面白いことを言う』
「お前たちの目的はなんだ! なぜこの村を襲わせる」
『我の目的か……アナスタシア家の殲滅。これで十分かな?』
「殲滅……!? なぜヨミヤの家族を狙う!」
『それは我には分からない。魔王様のご命令だ』
アナスタシア家の殲滅。彼女たちは一体何者なんだろうかと考える間もなくヴリトラは猛毒を俺たちに向かって吐き出した。
『もうお喋りもいいだろう。お前の望み通り、家族が逃げるのを待ってやったぞ』
(こいつ、俺の思惑を見抜いてやがったのか)
ラスターバーンで猛毒を弾き返すとボトボトと音を立てながら周りに飛び散り、地面へと吸い込まれあたりを腐食させていった。
俺への猛毒が効かないことがわかると、ヴリトラは巨大な尻尾でバリケードをぶち壊しヤグラを猛毒で腐食させた。
ヤグラから逃げ遅れた一人が猛毒を被り、みるみる原型をなくしていった。
「やめろ! 村にこれ以上被害を出すな! ヨミヤはここで待ってろ!」
俺は指先からヘヴンズレイを撃ちながら短剣にライトニングブレードで光属性をエンチャントし、ヴリトラに駆け寄っていった。
――ズバァ! ズシャァ!
真っ直ぐとヴリトラの方へ飛んでいくレーザーはヴリトラの胸を貫き、エンチャント付与した短剣はヴリトラの肉に傷を負わせた。
『ウオオオ……小僧なかなかやりおる』
しかしダメージを与えた部分はすぐに回復し、傷跡がふさがってしまった。
ヴリトラは王冠の宝石から魔法陣を出現させ、あたり一帯に猛毒を撒き散らし始めた。
『もう子供たちを使ってジワジワといたぶるのはやめた。今日でこの村を終わらせてやる』
「くそ! まだ逃げ遅れた人がいる中であまり使いたくなかったけど、使うしかないか……ヨミヤ! 村の外まで離れてろ!」
「わ、わかりました! お気をつけて……」
ヨミヤは素早く村の外までシャドウシークで移動し、俺は新たに覚えていた結界魔法を発動させるため、広範囲に薄くラスターバーンを発動させその隙に村全体を覆う魔法陣を展開し始めた。
「プリズン・プリズム!」
魔法陣が村全体に広がると、ヴリトラごと光のドームが村全体を覆いつくした。ドームの中はキラキラと万華鏡のように七色に輝いている。このドームの中にいる生物は皆、光に関係する状態異常をランダムにかけることができるのだ。
『オ、オォォ……なんだここは……子供たち、生き返ったのかい?』
体をくねらせ暴れながらそう言うヴリトラは混乱の状態にかかっているようだ。
しかし、逃げ遅れた村人もドーム内に何人かいるため、村人も自失や盲目、眩暈などの状態異常にかかってしまっていた。
「な、なんだこれ!? 目が見えない! 助けてくれ!」
「も、もうお終いなんだ……いっそここで自害しようか……」
「待って! 早まらないで!」
落ちていたクワで首を切ろうとしている村人を制止し、ヴリトラが混乱状態に陥っている間に結界の外へと連れ出す。俺が村人を連れ出している間もヴリトラは子供たちの幻覚を見ているようだった。
「よし、これで全員結界の外へ運び出せたな。あとは、再生できないくらいに一気にダメージを与える魔法を浴びせてやるか」
俺はポイズン・スネークを一掃するときに使った上級天光系魔法セラスティアルレイの詠唱を始めた。
――ズシャァァァァァン!
あと少しで詠唱が終わるというところで、大蛇ヴリトラの上から何かが降ってきた。轟音と土煙をあげながら、ヴリトラの首がズルズルと滑り落ちる。首を真っ二つに両断されたようだった。
頭から巨大な王冠がずり落ち、ハマっていた黄色い宝石がカランと外れた。
「こ、今度はいったいなんなんだ……?」
目まぐるしい展開に脳をフル回転させながら、土煙が晴れていくのをジッと見守る。すると何やら人影のようなものが見えてきた。
「やぁやぁ、君なかなか強いんだね~」
落ちた宝石を拾い上げながらそう言う人影は、一人の女の子だった。
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