第11話 獄炎の炎柱神アグヌ

 俺たちはあれから、雑魚モンスターを倒しながら奥へ奥へと進んでいった。小一時間ほど歩き、敵がいない空間にたどり着き休憩を挟んでいた。


「はぁ、結構深くまで続いてるんだなぁ」


「あ、暑すぎてしんどいです……」


 涼しい所が一切なく、その暑さにダレる二人だった。



 雑魚モンスターを討伐し、ステータスを確認するとそれなりに上がっていた。炎耐性も順調に成長しており、多少ではあるが俺は暑さを感じにくくなっていた。


「そうだ、ラスターバーンで俺たちの周りを囲ったら熱を遮断できないかな」


「も、もうなんでもいいので何とかしてください……」


 あまりの暑さに話が理解できていないのか、適当な返事を返された。

 俺も暑さをなんとかしたかったので、とりあえずは魔法を発動した。


――ギュゥゥゥゥン……


 俺たちの半径1メートルほどを光の幕が包み込む。するとどうだろう、溶岩の熱を反射させ中の温度は下がっていった。


「す、涼しい! 涼しいです!」


 ようやく笑顔が戻ったヨミヤだった。実際のところ涼しくはないのだが、溶岩からダイレクトに熱を感じない分かなりマシになっていた。


「本当だ! 魔法だけじゃなく熱も反射できるんだなぁ」


 俺たちはラスターバーンの中で休息をとり、再び奥へと足を進めた。




  ▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼



 かなり奥へ進んだだろうか、俺たちは厳重そうな大きな鉄の扉の前にやってきた。扉には幾何学模様が刻まれている。


「なんだろうこの扉、これ以外に進む道は無いな」


「怪しい気配を感じます。もしかすると強力なモンスターが潜んでいるかもしれません」



 ヨミヤの言う通り、この扉は今までと違い魔力が含まれているようだった。この先には恐らく、ユニークモンスターが潜んでいるのだろう。



「ヨミヤ、入る準備はいいか」


「はい、私はいつでも」


 気合を入れなおした俺たちは、その魔力が含まれている扉を二人で押し開けた。

 土を掻き分けギギギと音を立てながら開く扉はかなりの重量だった。


 中に入ると今までの暑さが嘘のように消えた。



「す、涼しいです! 冷蔵庫の中の様ですね!」


「あ、あぁ。でもなぜここだけ溶岩がないんだ……?」


 今までの景色と打って変わり、溶岩が無くそこにはただだだっ広い空間があった。円形に広がる空間には、四隅に灯篭のような物があり、火はついていない。

 奥が見えない暗闇の中へと足を進め、少し進むと後ろで大きな物音がした。



――ガシャァァンン……



「と、扉が!」


「閉じ込められたのか!?」


 後ろにあった大きな扉は、魔力によって閉じてしまった。

 あたりを警戒し、見えない目を必死に慣らしていると、壁の奥からゴゴゴゴという音が聞こえてきた。

 すると同時に、壁のいたるところから溶岩が噴き出し、広い円形の地面の周りを溶岩が川のように一周ぐるっと覆ってしまった。灯篭もそれに合わせて火が灯る。


 「また溶岩ですかぁ!? もう暑いのは勘弁してください~」


 弱音を吐くヨミヤだったが、溶岩の明かりによって照らされた空間を見て持っていた傘を強く握りしめた。



――『我の名は獄炎の炎柱神・アグヌ。久しぶりの人間だ。ここへ何をしに来た』



 巨大な声が部屋全体に響き渡る。アグヌは赤いT字型の仮面をつけており、仮面の上には三日月の形をした造形物がついている。太い腕の先には鋭い鉄のような爪がついており、右手には三日月の形をした鉄製の杖を持っていた。


「俺は光属性守護神に選ばれたアマギ。となりの影属性守護神のヨミヤと冒険をしている。お前は一体何者なんだ」



『我はこの獄炎のダンジョンを仕切る者。ここに足を踏み入れたが最後、我の魔法で消し炭にしてくれる』


――ゴオオォォォ


 そう喋り終えると唸りながら左手に炎の球を作り出しヨミヤの方に放ってきた。



「危ない!」


 

 すかさずラスターバーンを唱えヨミヤの周りに光の膜を覆った。炎の球はは膜に弾かれ、そのまま溶岩の中へと姿を消した。



『ほう、最初の一撃をかわすか。ほとんどの冒険者はこの一撃で沈むのだが、お前たちはやりがいがありそうだ』


 そう言うと先ほどよりも大きな火の玉を作り出し、こちらへと放ってきたがそれもラスターバーンの膜に弾かれた。



「ヘブンズレイ!」


 指先の魔法陣から光のレーザーが放たれ、アグヌをお面を捉えた。しかしレーザーはお面を貫通することは無く、吸収されてしまった。



『フフフ、その程度では我には効かぬ。プロミネンスフレア!』


――ゴアアァァァァァ!



 右手の魔法の杖をこちらに向け、轟音を立てながら太い炎の熱線をこちらへと放ってきた。ラスターバーンを再び発動し、なんとか熱線を明後日の方向へ曲げることができたが今までのような余裕は無かった。


 ヨミヤも傘からシャドウボールを放ち応戦するが、アグヌの炎の球によって相殺されていた。



「アマギさん、どうしましょう!」


「俺に作戦がある! ミラージュフェイク!」


 俺は幻影魔法を唱えた。これは対象の周囲の光を操作して光の屈折を利用し、体をぼやけさせたり分身したように見せかけるものだ。



『小賢しい。まとめて焼き払ってくれるわ』


――ズドドドドド


 アグヌは杖を頭の上に掲げると、その杖から無数の火の粉があたりに散らばりはじめた。



「ヨミヤ! 今時間を稼いでいる間に俺が魔法をアグヌの鎧のつなぎ目に連続で撃ち込む! そこにもう一度シャドウボールを撃ってくれ!」


「わかりました!」


 俺はアグヌがこちらを見失い全体攻撃をしている間に中級詠唱魔法を唱え、アグヌに向かって放った。



「ライトクロス!」


 十字の形をした光の欠片をアグヌの右肩の鎧のつなぎ目部分に連続で撃ち込む。するとアグヌの杖を持つ右手が少し揺らいだ。


「いまだ!」


「はい!」


 俺の合図に合わせ、ヨミヤは俺が魔法を撃った部分にシャドウボールを叩きこむ。つなぎ目に見事命中した。すると光で熱されていた関節部分が闇色に染まり、状態異常に陥っていた。



『アグヌ:右肩関節 部分損傷状態』



「よし、これで止めだ! ヴァルキュリーアロー!」


 巨大な光の弓が俺の手に現れ、そこから放たれた鋭い巨大な光の矢はアグヌの右肩部分を貫いた。



――グウウアァァアア……



 苦しそうな悲鳴を上げるアグヌ。



「いまだ! シャドウバインドで動きを拘束してくれ!」


 弱ったアグヌはシャドウバインドにかかり、身動きを制限された。その間に俺はホワイト・グランドクロスの詠唱を終わらせ、発動した。



 アグヌをすっぽりと覆うほどの巨大な魔法陣から十字架が現れ、アグヌを粉砕した。



――そんな馬鹿な……



「やりましたね!」


「あぁ、ナイスコンビネーションだったな!」



 こうして俺たちは獄炎のダンジョンの主、獄炎の炎柱神アグヌを討伐することに成功した。


 


 

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