第12話 洋館とアレク

 俺は討伐したアグヌに向かって指輪を掲げた。すると今までよりもずっと赤い、溶岩のような色の粒子が俺の指輪の中に吸収されていった。


――炎耐性Lv10


「お、炎耐性がレベルマックスになったぞ!」


「おめでとうございます。レベル10になると、もしかしてもう暑くなったりするのですか?」


 ずっと暑そうにしているヨミヤをみて、早くダンジョンを出てやらないとなと思っていた俺だったが、言われてみればもう暑さを感じなくなっていた。



「あ、確かにもう暑くないな。レベルマックスになると環境による間接ダメージもないみたいだ」


「羨ましいです……。それよりも早くここを出ましょうよ」


「そうだな」


 俺たちは転移の魔法を使い、獄炎のダンジョンの入り口にまで戻ってきた。



「っひゃ~! お外涼し~!」


「やっぱり溶岩の近くじゃないだけマシだな~」


 夜風で汗を乾かしているヨミヤに賛同はしたが、耐性のついていた俺には違いがわからなかった。



「吸収の使い道もわかったし、ひとまずは街へ行って買い物を済ませてから洋館に帰ろうか。」


「そうですね、お腹も空きましたし汗がベトベトして気持ちが悪いです」


 食事のことなどすっかり忘れていたが、しばらく何も口にしていなかった。俺たちは早く美味しいものを食べたいと考えながら転移の魔法で街の近くへと戻った。






 夜の街はどこもかしこも賑わっていた。屋台で美味しいものを食べ歩いて軽い買い物を済ませた後、夜風を楽しみたかった俺たちは洋館まで歩いて帰ることにした。



 しばらくして洋館の近くまで来ると、家の前に人影が見えた。


「誰だ、あいつら……」


「四人組でしょうか……」


 茂みから聞き耳を立て様子を伺っていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。



「この洋館があの根暗女が住んでるとこなんか?」


「あぁ、あいつらがこっちの方角へ進んでいくのを見た」


「こ、こんなことやめましょうよ……」


「……」


 元勇者パーティの四人だった。アレクとヒュウガを筆頭に、洋館の前で何かしようとしているのか話あっていた。


(あいつら何してるんだこんなところで……)

(私の洋館に御用でしょうか……)



 バレないようにひそひそと話しながら何をするのか見ていると、ヒュウガが洋館のチャイムを鳴らした。しかし当然反応があるわけもなく、チャイムの音が響いただけだった。



「お、いないらしいぞ」


「丁度いいじゃねぇか! 俺の火柱でこの洋館を燃やしちまおうぜ! なんなら中にあの根暗女がいるならついでに燃やしちまおう」


「あわわわ……」


 すると首謀者二人は何を言うかと思えば、洋館を燃やすと言っていた。サリアは相変わらず自分の意見は言わず、ゴレンは無言でその場に立っていた。



(おい、あいつらヨミヤの家を燃やすつもりだぞ!)

(わ、私の洋館を……なぜ……)


 口元を手で押さえ涙目になりながらそう言った。これは黙ってみていられないと思った俺は、四人の元へと飛び出していった。



「おい! 今の言葉、聞き捨てならないぞ!」


 腰の短剣をアレクに向けつつ俺はそう言った。


「お!? 誰かと思いきやアマギじゃねぇか。お前最近えらく調子のってるよなぁ。多分お前が力を手に入れたのも、そこの根暗女のせいだろ」


「だからなんだ! 俺たちは力を合わせて戦ってる。全てが彼女のせいなんてことはない!」


「はっ、どうだか。その根暗女がいなけりゃお前は何もできないんだろう?」


 軽蔑するような表情でアレクは俺を見たが、俺の心は揺さぶられなかった。



「そんなことはない! 彼女はきっかけに過ぎない。俺は合う人とパーティを組んでいるだけだ」


「ならお前の力、見せてみろよ!」


 そう言うや否やアレクは俺に向かって火柱を放った。


 俺は瞬時にラスターバーンで光の膜で覆うと、火柱は膜に当たり真上へと軌道をそらした。



「チッ、めんどくせぇスキルを持ってやがる」


「やめろ! どうしてこんなことをするんだ!」


「そりゃあもちろん、お前が気にくわねぇからだよ!」


 俺の言葉に耳を傾けず、今度は腰の長剣を抜き俺に飛びかかってきた。その様子を元勇者パーティの三人とヨミヤは見守っている。


 俺はライトニングブレードで短剣に光属性を付与しつつ、アレクに立ち向かった。


「お前、剣まで使えるようなっちまったのか! 憎たらしいやつだ! お前は光だけバラまいてればいいんだよ!」


――バジィィィン!


 俺の光の剣とアレクの炎の剣が激しくぶつかり合う。



「どうして、どうしてそこまで俺のことを気に掛ける! お前たちはお前たちで自由にやればいいじゃないか!」


「うるせぇ! お前は俺より下でいなくちゃならねぇんだよ!」


 聞く耳を持たず俺に剣を振り続けるアレクだったが、光のエンチャント付与をした俺の剣にアレクの剣は全く歯が立たなかった。


「けっ、うぜぇなその剣。ならこれでどうだ」


 剣の勝負で勝てないと分かったアレクは、にやりと笑い右手をヨミヤの方へ向け、巨大な火柱を放った。


「危ない!」


 咄嗟に俺は鍔迫り合いを抜け、ヨミヤの方へと走った。何とか間に合った俺はヨミヤを突き飛ばし、アレクの火柱を直で受けることとなった。


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