第10話 吸収の力
俺はあの後ふかふかのベッドの上でこれでもか、というくらいぐっすり寝た。
日が昇り、鳥たちが歌を歌う中俺は気持ちよくベッドの布切れを退けた。窓を開け森の新鮮な空気を楽しんだ後、俺はヨミヤを探しに部屋を出た。
下の方からジュージューグツグツという音が聞こえたので、音のする方へ向かうとヨミヤがビンク色のかわいいエプロンをつけ、影の眷属とキッチンでせわしなく動いていた。
「あ、おはようございます。疲れは取れましたか?」
「あぁ、こんなに気持ちよく寝れたのは久しぶりだよ」
「それはよかったです。もうすぐ朝ごはんが出来上がりますのでお待ちくださいね」
そう言うとヨミヤは再び鍋の方へと視線を戻した。
ーーーーーーーー
「あー美味しかったぁ!」
「満足してもらえて嬉しいです」
お手製のシチューとサクサクのパンを食べ終えた俺たちは、今日行くダンジョンについて話し合った。
「今日行くダンジョンだけど、前よりも強い敵がいるところはどうかな? 俺もそれなりに強くなったし……」
「そうですね、前の骸骨剣士のような相手では物足りないかもしれませんね」
うんうん、とヨミヤは同調した。
「じゃあ、今日は獄炎のダンジョンに行ってみよう」
「かしこまりました! では、早速向かいましょう!」
そう意気込むヨミヤの横で、眷属が食べ終わった皿を片付け始めた。
獄炎のダンジョンへ向かうため洋館を後にした俺たちは、転移の魔法でほぼ近くまでやってきた。
「いつのまにこんな上級魔法を?」
「実は昨夜いろいろ試してたんだ。昨日も月が綺麗だったろう? また何か新しいスキルが派生しないか検証していたら手に入ったんだ」
瞬時に移動したい所へと行ける転移の魔法はとても便利だった。しかし知らない場所へは行けないようなので、昔勇者パーティにいた時に一度ここへ来ていて助かった。
「それでは、参りますか」
「おう!」
溶岩が辺りに流れる危険な地域、獄炎のダンジョン。中には炎属性モンスターを筆頭に、岩属性モンスターもちらほらいる。危険度でいえば星10個中4つといったところだ。
「相変わらず暑いですねぇ……」
流れる溶岩を見ながらヨミヤは手で顔を仰いでいたが、あまり効果はなさそうだった。
そこそこ進むと、炎をまとった獄炎スライムが現れた。スライムだからといって弱くはなく、通常の冒険者なら物理攻撃が出来ず全く歯が立たない相手だ。炎魔法と風魔法を撃ち込むと炎の勢いが増し、パワーアップするタイプだった。
「お、ちょうど良さそうな敵がいるじゃん。さっそく吸収の出番かな?」
「しかし、パッシブスキルなので使うことはできませんよ?」
「う~んそうだなぁ、じゃあとりあえず戦闘して確かめてみるか」
俺がそういうとヨミヤは持っている傘をスライムに向け、シャドウバインドでスライムの動きを拘束した。もう俺の指示無しでもそこそこ動けるようだった。
「ヘブンズレイ!」
唱えるとすぐさま俺の指先に小さな魔法陣が出現し、光のレーザーがスライム目掛けて射出される。射出された光は、シャドウバインドで拘束する必要がないほどの速度でレーザーはスライムを貫通し、弾け去った。
「よし!」
「やりましたね!」
あっさりとスライムを倒した俺は、パッシブスキルで魔力などが上がっていないか確かめていた。
「何か変わりはありませんか?」
「う~ん、特に変化は無いなぁ」
戦闘時に能力が上がるタイプではないのか、と指輪のついた手を目の前に掲げながらそう思ったその時だった。エメラルドの指輪が光り、獄炎スライムの死骸が輝きはじめたかと思いきや赤い粒子となってエメラルドの指輪の中に吸い込まれていった。
「な、なんだこれ!? 指輪の中に入っていったぞ!」
「なんだか幻想的ですねぇ」
全て吸い込み終わった指輪は、光を失ったかと思うと俺の体の周りをさきほどの赤い粒子が包み込む。
次にポケットが淡い赤色に光りだし、確認すると耐性欄に炎耐性Lv1が追加されていた。
「炎耐性レベル1……?」
「敵が炎属性だったからでしょうか。もしかすると、敵を倒した際相手の種類に合わせたスキルが獲得できるのでは」
「まじか! それめっちゃ強いじゃん!」
そう予想するヨミヤを前に、指輪を眺めながら俺は喜んだ。この指輪があれば狩りをする度に俺は強くなれるということだ。
「では検証のためにもう少し狩りをしてみましょうか」
「おう!」
そう提案してくれたヨミヤに賛同し、俺たちは獄炎のダンジョンを更に奥へと進んだ。
そこそこ進むと、全身が炎に包まれたフレイムというモンスターの群れがいた。
「ヘブンズレイ!」
指先の魔法陣から5つのレーザーが、フレイムたちを貫通した。俺は倒したフレイムたちに指輪を向け粒子を指輪へと吸わせた。ヨミヤも戦う準備をしていたが、特に出番はなかった。
――パッシブスキル 炎耐性Lv3
「すごいぞ! どんどん炎耐性が上がっていく!」
「いいですねぇ、私も選ばれし勇者だったらな~」
魔法用紙を見て喜ぶ俺を見て少し不貞腐れた様子でそういうヨミヤに、なんだか申し訳ないなと思った俺は
「よし、この調子だと一番奥まで行けそうだな。ヨミヤ、疲れてないか?」
「私は全く疲れていませんよ。ほとんど戦闘なさっているのはアマギさんじゃないですか」
そう笑いながら俺たちは足を進めた。楽しく笑いながら攻略するダンジョンはこれほど楽しいのか、と感動しながら最深部を目指した。
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