第4話 覚醒
あれから俺たちは三時間ほど歩き、
ちなみにヨミやは影のないところではダメージを受けるらしく、傘を差しながら歩いてきた。夜や屋内以外ではなかなかに面倒らしい。そう愚痴を零していた。
「さて、ここなら丁度いい腕試しになりそうだな。でも攻撃魔法かどうかもわからないし、ちょっと不安だな」
「いざとなったら私のシャドーシークで安全な場所まで逃げましょう」
彼女の使えるスキルは今のところ、自他の影を操る物のようだ。これなら安心して戦える……のか?
「おらぁ! 誰でもかかってこいやぁ!」
ユニークスキルを手に入れた俺は、とんでもなく強いスキルなんだろうなぁと浮かれていた。その証拠にいつもは最後尾から二番目の位置を歩いていた俺だが、先陣を切って歩いている。ヨミヤはそんな浮かれる俺を温かい目で見守っていた。
「一応気を付けてくださいね~」
そうだな、あまり気を緩めていても危ないかもしれない。そう気を引き締めたその時、奥の曲がり角から下級魔族の骸骨剣士がフラリと姿を現した。
「で、出たな! よし、行くぞ。
……ダンジョンに俺の声が響き渡った。しかし、なにもおこらなかった。
「あ、あれ?」
「アマギさん……?」
何もしてこないとわかった骸骨剣士は、ゆらゆらとこちらに近づいてきた。
「な、なんで何も起きないんだ!?」
「わかりませんが、何か条件が必要なのかもしれません。私はお先に失礼します」
そう言い残すと彼女はシャドウシークで影の中に隠れてしまった。
「ちょ、ちょっと! 置いていくなよ!」
俺は今来た道を全速力で戻った。後ろからカラカラと骨と剣が擦れる音を立てながら骸骨剣士が追いかけてくる。
「ウオオオオオン!」
「なんでこの骸骨こんなに足が速いんだ!? 骨はノロマってイメージだろうが!」
そう泣きべそをかきながら俺たちはダンジョンの外まで帰ってきた。
「あ~、大変な目にあったなぁ……って大変な目にあったのは俺だけか」
「そうですねぇ、何がいけなかったのでしょう……」
俺は少し意地悪な眼差しを向けるが、ヨミヤは知らんぷりしながらそう答えた。
当たりは薄暗くなってきており、日は沈みかけていた。俺たちはダンジョンの入り口で反省会中だ。火を起こし、簡単なスープを飲みながら何がいけなかったのかを話し合っていた。
「このスキル、思ってたけど攻撃スキルじゃなさそうだよな」
「名称が他と異なりますからね、パッシブスキルのような感じなのでしょうか」
「でも俺の体調はいつも通りだぞ」
ラジオ体操のような動きをしながら変化がないことを確かめる。
日も落ち、ヨミヤはようやく傘を畳んだ。
その後、休憩と相談を続けている間にあたりはすっかり暗くなってしまった。今夜は少し雲がかかっていて、あまり明るくなかった。俺はヨミヤの為にあまり強いフラッシュは使わずに、自分の視界だけ確保できる分のスキルを使っていた。
「あ~今日はここで野宿かなぁ」
「私は影の中で眠れるので、快適です」
「そうなの!? どこでも宿屋じゃん!」
なんてくだらない話をしていると雲が晴れ、満月が姿を現した。
――ユニークスキル
「「……え?」」
俺たちはほぼ同時に、そう呟いた。満月の光を浴びた瞬間、俺の周りを光が包み込み声が聞こえた。
「なんかスキル発動したんだけど!?」
「おめでとうございます! そのスキルは潜在スキルだったんですね」
潜在スキル、とある条件下において発動する最上級スキルだ。このスキルの発動条件は満月の光を浴びることだったらしい。
「よっしゃぁ! なんか攻撃魔法っぽいやつも手に入ったし、もっかいダンジョン行こうぜ!」
「はい!」
夜中にも関わらず、俺たちは一睡もすることなく再びダンジョンへと足を踏み入れた。
さっきの骸骨剣士だろうか、同じ場所にまたそいつがいた。俺のことを見つけるとすぐにこちらに向かってきた。
「よし、まずはライトニングブレード!」
そう叫ぶと腰の短剣に光が宿った。剣を抜くと、短剣にもかかわらず長い光が剣の先から一直線に伸びていた。長さで言うと刀くらいありそうだ。
「す、すげぇ…」
ヨミヤは信用していなかったのか、シャドウシークで壁から頭だけ出してこちらの様子を伺っていた。
感動していると骸骨剣士がもうすぐ近くまで来ていた。俺はその光の剣を骸骨剣士目掛けて力強く振り下ろした。
「どりゃぁぁぁぁぁ!」
ガシャァァァン!
まるでバターを切ったのかというような手応えの中、激しい音をたて骸骨剣士はバラバラとなり一撃で砕け散った。魂ごと浄化したようにも見える。アンデット族には一層威力が高まるようだ。
「うおおお!俺でも敵を倒せた~!」
「やりましたね! これでもう一人前の勇者ですよ!」
「これもヨミヤのおかげだ~!」
初めての魔物討伐に俺はヨミヤと両手でハイタッチをする。彼女もそれなりに喜んでくれているようだ。
「よっしゃ! これで堂々とギルドに行けるぜ。 ヨミヤも来るだろう?」
「は、はい。 アマギさんと一緒なら……」
少し照れたような様子でそう答える。頬を赤らめるその姿は、まるで夜空に輝くベテルギウスのようだった。
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