第3話 ヨミヤとの出会い

翌朝、初めての夜勤にクタクタの体を無理やり動かしながら俺は街を歩いていた。



「さて……追い出されてギルドにも行きづらいしなぁ。今日からどこに泊まろう」


 ギルドには魔王討伐をする為の多くの勇者がいる。そこにはそれぞれの属性守護神に選ばれた者が集まる。もちろん俺のいたパーティもだ。一人で行って笑われるのも癪なのでひとまず避けることにした。


 そんな風に今後のことを考えながら朝食に何を食べようか市場をうろついていた。手ごろな値段のアップルパイを、昨日稼いだ給料が入った薄い封筒から100ゴールドを取り出し購入し、市場から少し離れた花壇の近くにあるベンチに座り込み食事を始めた。



「あぁ美味い……! 労働のあとの飯はこんなに美味いのかぁ!」


 ダンジョンや狩りでの途中に食べる食事とはまた違った美味しさがあった。安全な場所で安全なご飯。まずいわけがない。


 そんな風に感動しながら黙々と食べていると、あたりが少し暗くなったような気がした。



「あ、あれ……? 空は晴れてるのに、なんで……」


 そう呟いたその時、後ろから声がかかった。



「昨夜ぶりです、アマギさん」


 後ろを振り向くと、ブラックホールのような暗闇がそこにはあった。真ん中に向かっていくにつれて、闇が一層暗くなっている。そのど真ん中に一人の女性がいた。彼女は夜空のように綺麗な色のマントで口元を隠していた。



「な、なんだこれ!?」


「驚かれるのも無理はありません。私は影の属性守護神に選ばれたヨミヤ・アナスタシアと申します。昨夜は私を照らしていただきありがとうござました」


 髪は肩にかかるくらいの長さで、色は深夜の空のような透き通った紫色をしていた。瞳は皆既月食のような赤色をしている。髪には星型の髪留めをつけていた。


「あ、あぁ昨日の……あなたも勇者だったんですね」


「はい。ですが勇者ギルドには登録していません。私の属性は、光がないとあまり活躍できませんから……」


 なるほど。光あるところに影ありってことね。たしかにこの属性だとあまり勇者パーティからは歓迎されないかも。



「そっか。だから僕の後ろから現れたんだね」


 アップルパイの美味しさに感動して、光が体から漏れていたらしい。その光が影を作っていたんだろう、彼女はそこから出てきているようだ。



「あの、昨夜の酒場の様子を伺っていました。まるでダンジョンの途中で勇者パーティ一行から、あなたの属性は必要ないと言われたような顔をしていたので」


「そこまでわかっちゃうなんて、君エスパータイプ? 影じゃなくて念の属性じゃないのかな」


「いえ、あの様子を見ていれば大体わかりますよ」


 なんかそこまで言われちゃうと恥ずかしいな。そんなに醜態晒してた……?



「そっか……。で、俺に何か用があってきたんだろ?」


「はい。もしよければあなたと勇者パーティを組みたいと思って声をかけさせていただきました」


「え、お、俺と? 俺の魔法あんまり使い物にならないよ?」


 そう謙遜するが、謙遜でもなんでもなく本当に使い物にならない。



「一度組めばわかると思います。是非一度パーティ登録をしてみませんか」


 ヨミヤは意味ありげにそう言った。まぁ、これからどうしようもないし組むだけ組んでみるか。

俺はパーティ登録用の紙をポケットから取り出し記入を始めた。あの時破り捨てなくてよかったぁ。




 【パーティ登録、光属性アマギ及び影属性ヨミヤのパーティ登録を認可します】





 ――ステータス――

アマギ・アレックス

筋力:30

知力:200

魔力:200


スキル:フラッシュ


―――――――――


――ステータス――

ヨミヤ・アナスタシア

筋力:10

知力:350

魔力:350


スキル:シャドウシーク・シャドウバインド

―――――――――



ーー相乗効果、アマギはユニークスキル「月光環げっこうかん」を取得しました。


「ユニークスキル…?聞いた事がないスキルだな」


「やっぱり……光と影がパーティを組むことで、光属性守護神の本当の力が目覚める、と古書に記されていました」


 ヨミヤは予想通りと言わんばかりにふんすっと鼻息を荒らげふんぞり返っている。


 しかし、このスキル一体どんなものなんだろう。



「この月光環っていうスキルに、何か心当たりは無いのか?」


「古書によれば、特定の属性が共になることで発動する伝説のスキル、とありました。炎や水にはこの様なユニークスキルは無いらしいです。」


「ってことは、俺ら今最強なのか!?」


「それはわかりませんが、試してみる価値はありそうですね!」


夜宮は出会って一番の笑顔を振りまいた。その笑顔は影属性とは思えないほど輝かしく、太陽のようだった。これも光の俺とパーティを組んだからなんだろうか。



その可愛い笑顔を瞼にやきつけつつ、俺たちはこのスキルを試せる場所へと向かった。



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