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【覚醒から14日目()】


食堂まで戻ってきた。

貯蔵庫の食料は全滅しても、調味料が生き延びている可能性はある。


一筋の光明に縋りついたところ、岩の如く固まった“塩”を見つけた。

布切れに包んで慎重に擦り、粉末へ戻したのちに苔へまぶせば、思ゐ切って面頬めんぼうを上げて食してみる。


藻の舌触りがする塩としか感想は浮かばないが、このまま終わるつもりはない。


何せ今佇む場所は食堂そのもの。

必ず水源があるだろうと周囲を探れば、水泡が表面を占める溜め池を発見した。

恐らく地下水を汲み上げているのだろうが、明らかに飲料には適していない。


念の為に厨房で煮沸し、苔を5分ほど塩茹でにしてみた。





――恐ろしく不味くなった。


咀嚼する度に伝わる独特の粘り気から察するに、どうやら毒が放り込まれていたらしい。

思ゑば副長が食堂で指示を出していた記憶はあるが、彼の“狡猾さ”を鑑みるに、食用の素材は全て駄目にされているだろう。


もっとも毒でも死ねない身。

悪くなった食材を頬張り、腹を壊すか試すのもまた一興。




【覚醒から15日目()】


食堂を拠点に、邪教徒の個室へ食料漁りに出かけた。

連中の信仰心が如何程のものであれ、必ずや備蓄の1つや2つは寝室に隠してあるはず。

火打石もまた発見できれば、壁を殴って火を起こす悪循環からも脱出できるだろう。



だがいくら探しても目的の物は見つからず、諦めて貯蔵庫にあった“食材”を机に並べていく。

どれもが干からび、埃にまみれ、原型も留めていない物を食したいとは思ゑない。


それでも一通り頬張れば酷い胸焼けに襲われ、貯蔵庫ごと焼いて残りを始末した。




【覚醒から16日目()】


礼拝堂へ戻ってきた。

危うく目的を見失う所だったが、今追うべきは食料ではなく邪教徒。

食料探しそのものは空振りに終わったものの、全くの手ぶらというわけでもない。


調味料を探す傍ら、戸棚より砥石を調達できた。

これで錆びた愛刀も手入れできようが、最初の一研ぎで刃が欠けてしまった。


武器の整備は後回しにするも、邪教徒の痕跡はいまだ無し。

説教逃れに避難した書庫へ赴くが、蜘蛛の巣に塗れている事を除けば、こちらの景色にも変化は無かった。

生前も座した机に腰掛け、食した燻製と麺麭ぱんの味を思ゐ出しながら、苔を千切っては頬張っていく。


その間も蜘蛛の巣を凝視するが、8本足の主は見当たらない。

生食にするか。

それとも炙るか。


幾らか発見できる事に期待したが、残念である。




【覚醒から17日目()】


無事に死に場所へ戻る事は出来たが、どこにも邪教徒の骸は見当たらなかった。

もはや溶けて消えたとしか思ゑないものの、妖しげな術を用いる彼らならば、服ごと消滅していても不思議ではないのだろうか。


何はともあれ入り口に戻ったからには、当初の“いずれ来たる探検者”に発見されるべく――あるいは邪教徒の残党に対処できるよう、準備する事にする。



苔も最後の一切れとなり、塩胡椒をまぶして頬張ったが、調味料の味しかしない。

血眼になって食材をもっと探すべきだったか。




【覚醒から18日目()】


持ち場、及び周辺環境に変化なし。

引き続き見張りにあたる。




【覚醒から19日目()】


持ち場、及び周辺環境に変化なし。

引き続き見張りにあたる。




【覚醒から20日目()】


持ち場、及び周辺環境に変化あり。


階下を走る小さな影の捕獲に成功し、稚拙な抵抗に構わず頬張れば、異常なまでの不味さを覚えた。

せめて塩をかけるべきだったろうが、甲虫ゆえに食感は悪くない。

何かと漬け合わせるか、豪快に調理すれば本来の味も誤魔化せるだろう。



引き続き見張りにあたる。

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