第18話 敗北

 ミレィとふーみんがログアウトしたため、その場には私とクマの恰好のアバターが残るのみであった。


 師匠と同じ見た目であるのだが、違う所と言えば腰に日本刀を装備しているところと、声からして女性であるというところだ。


 名前の表示は『クマ子』だ。やはり『Bear師匠』ではない。


「アンタも災難だったな。もう少し慎重に友人を選ぶべきだったな」


 そう声を掛けられたが、私はその意味が分からず言葉を詰まらす。ミレイちゃんたちと行ったロールプレイバトルが幼稚だった、って事かな?

 そんな私の反応を見て、クマ子はやれやれと肩を竦めてため息をつく。


「……まぁ、アンタが気にしていないのならば、深く言及はしないよ」


 そう告げて、言葉を続ける。


「アンタ、今時間があるか?」


 問われて、少し考えた後「はい」と答える。


 お父さんが迎えに来るまでには、もう少し時間がある。初対面の相手であるのだが、見た目が師匠に近いという事もあり素直に頷いた。


「これからアタシの一戦やらないか? アンタの強さを知りたい」


 すると、クマ子はバトルをしないかと誘ってきた。


 どうしようか迷ったが、私もこのゲームでどこまで闘えるか知りたいと思っていたので、その誘いを承諾する。


「では、バトル申請するよ」


 告げてクマ子がメニュー画面を表示させてバトル申請を行う。私は、申請されたバトルを承認する。

 それと同時にバトルフィールドへ転送される。


 1vs1 Battle! Ready


 3…2…1…


 転送が完了すると、すぐにバトル開始までのカウントダウンが始まる。


 クマ子は、居合の態勢となり腰溜めに構える。それに合わせて、私も拳を構える。


 Fight!!


 闘いが始まる。


 パリッ!


 小さなスパークを残してクマ子が搔き消える。


 早いっ


「スキル【超過駆動オーバードライブ】!!」


 私はすぐさまスキルを発動させる。


 ガキィィィン!


 一瞬で間合いに入ったクマ子の抜刀術を、鉄甲で防御する。間一髪だ。


「ふん。さすがにこの程度ならば防がれるか……」


 冷静なクマ子の声。


「ならば、これならどうだ」


 複数の斬撃が閃光となって襲いかかってくる。


 ギン、ギン、ギギギィィィン!!!


 それを必死に鉄甲で防ぐ。


「くぅっ……」


 全てが紙一重だ。私の得意とする『流水の捌き』も速すぎる斬撃には効果が薄い。


 この人、私より――速い!


 なんとかギリギリで相手の攻撃を防御出来ているが、速すぎてこちらが攻撃する隙が無い。


 今まで自分より速い相手と闘ったことがなかった。これって相当に相性が悪い相手だ、と直感する。


 ドッ!


 足に鈍痛が走る。


「なっ」


 下段蹴り?!


 目の前にFirst Hit!!の文字が踊る。


「くっ」


 体勢が崩れる。


 そこに容赦なく斬撃が襲う。


 私はそれを後ろに転がるように避ける。


 ザン……


 しかし、切先が私の肩を切り裂き、体力が削られる。


「おい、お前の実力は、そんなもんなのか?」


 クマ子が刀を鞘に仕舞い、再度居合の出来る構えを取って呟く。


 くっ、挑発されているのは分かっている。けど、反論できない。このままでは攻撃すら出来ずに負けてしまう。


 ならばっ


 私は起き上がりざまに行動に移る。


 ドン!!


 蹴り込んだ地面が爆発したように爆ぜる。


 剛の歩法『烈脚』だ。


 反撃できないなら仕掛けるまでだ。私の出せる最大の速度で間合いを詰める。


「甘い!」


 クマ子が居合にて刀を振り抜く。それは私が刀の間合いに入るのと同時。完璧なタイミングでのカウンター。私の体は真横一文字に切り裂かれた――ように、相手は思った筈だ。


 間合いに入る直前に無音で駆ける静の歩法『幻歩』に切り替えて相手の背後に回り込む。


「むっ」


 クマ子が手応えがないことに気づいたようだ。


「奥義『水穿すいせん』!」


 出し惜しみせず、奥義を叩き込む。が、硬いものに防がれる手応え。

 クマ子は咄嗟に左腕の鉄甲にて防御したのだ。


 バキリ……


 クマ子の鉄甲に亀裂が走る。


「なにっ」


 驚愕の声。職業が拳闘士でないため固有スキル【武具不壊】の恩恵が無い。しかし、鉄甲は盾を装備できない職業のメインの防御手段となるため、相当に高い耐久性を持っている。それを一撃(厳密には瞬時同箇所連続攻撃だが)で、破壊されたのだ。クマ子の声に動揺の色が混じる。


 ここで畳みかける!


「はぁぁぁぁぁぁっ!!」


 拳の連打を叩き込む。が、その全てを刀で防がれる。


 速度で相手の防御を抜けない。


 だが今度は逆に相手が防戦一方になり、反撃できない状態に陥っている。


「チィッ!」


 痺れを切らせた下段蹴りを放つ。だが、それは先ほど見ている。

 跳びあがりその蹴りを躱すと共に、身体を捻り回し蹴りを放つ。


 ドッ!!


 よし。クリーンヒット!


 肩口に蹴りが入り、相手を吹き飛ばす。

 カウンターと判定されたため、大きなダメージが入ったが、距離が出来て攻撃の手が止まる。


「ふぅ……」


 私とクマ子は同時に息を吐き出す。


 体力は互いに8割。ほぼ互角だ。


「なかなか、やるな。だが、今までの攻防でアンタの実力は把握した」


 クマ子はゆっくりと刀を鞘に戻す。


「では、アタシもスキルを解禁するとしよう。

 断言する。ここからアンタは何も出来ずに敗北する」


 そう言葉を続けて、重心を落とす。


 『敗北』その言葉は『勝ち』の味を知ってしまった私からすると、もう味わいたくないにがい言葉だ。


「負けません!」


 グッと拳に力を込める。


「スキル発動【空間転移テレポート】」


 その言葉とともにクマ子が消える。


 ズシュッ!!


 背中に鋭い痛みが走る。


「なっ!」


 背後からの斬撃。まったく動きが見えなかった。いや違う。スキルと言っていた。瞬間移動するスキルがあるのだ。反応できずにまともに攻撃を食らってしまった。


「くっ!」


 裏拳を放ち反撃するが、バックステップで躱される。

 距離を取られた――そう思った瞬間


 ズシュッ!


 またしても斬撃が脇を抉る。


 な、なにが起きたの?


 切られた部位を押さえて相手を見ると、発動したスキルである【二段跳躍】の文字が踊っていた。


 二段跳躍? 背後に跳んだ後に、空中でもう一度前に跳んだっていうことなの?


 思考が追いつかない。


 その間にまたしても刀の一撃を受けてしまう。


「くっ」


 苦し紛れに蹴りを放つが空を切る。そして、カウンターで斬撃が襲う。


 必死に距離を取り攻撃を避けるが、畳み掛けるようにクマ子が【空間転移】を発動する。


 後ろっ!


 咄嗟に背後からの攻撃に反応し、攻撃を受け止める。


「スキル発動【雷音発破フラッシュバン】!」


 ズドン!!


 閃光と轟音。視界と聴力が奪われる。


 うあっ、ヤバい!


 五感を2つ奪われ、なす術が無くなる。必死に破壊不能である鉄甲で防御を固める。


 しかし、相手もそれが分かっていてそこを狙ってくることはない。


 ドスッ!


 腹部に激痛が走る。


 ガードの隙を縫って、腹部に刺突の一撃。体力が大幅に減少したのが分かる。だが――


致命の一撃クリティカルヒットじゃないのなら!」


 ぐっと腹筋を締め上げ、拳を構える。


「なっ」


 驚いた声をあげたのを聴こえない耳の代わりに、刀伝いに腹が感じとる。腹筋で刀が固定され、相手は攻撃不能。


 ぐっと足を踏み込み拳を繰り出す。視界は戻ってないけど、この距離ならば当たる筈だ。


「真陰熊流格闘術、奥義『崩穿華ほうせんか』!」


「スキル発動――」


 拳を繰り出すと同時にクマ子の声。


 手応えあり。インパクトの瞬間に気を爆発させる。


 クリーンヒット!


「やった、か?!」


 瞼を開く。ぼんやりと見えた視界には、粉々に砕けたが映った。


「え、これは――」


 混乱する私の言葉に応える声は後ろから聞こえた。


「さすがだ。私に奥の手のスキル【空蟬うつせみ】を使わせるとは」


 振り返った私が見たのは、拳を構える熊の姿。この構えはまさか


「トドメだ。スキル発動――」


 私が最後に見たのは、真陰熊流格闘術奥義の『崩穿華』であった。


「えっ」


 頭の中は混乱してるが、身に沁みついた格闘の経験からか反射的に防御態勢をとる。


 でも心の冷静な部分は理解していた。この技は防御不能なのだ。


 ドン!


 衝撃が突き抜ける。


 その一撃のダメージは破壊不能の鉄甲を貫通し、私の体力を0にしたのだった。



――こうして私は戦いに敗北したのであった。

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Brave Battle Online〜病弱で虚弱な私でも、仮想空間では最強を目指せるようです〜 洲雷 無月 @suraaikouka

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