第8話 嫉妬

 2年4組に舟戸沙夜ふなどさやが入って来る、クラス内はどよめくと、次は静まり返る。

 沙夜は、米霧香奈よねぎりかなを見つけると香奈に近づき

   「おはよう、昨日はありがとうね、仲良くしましょうね。」

   「おはようございます、お願いします。」

 香奈が答えると沙夜は教室を出て行く。

 香奈の友達が集まる

   「香奈、大丈夫。」

   「何かされなかった。」

心配する友人たちに香奈は

   「だけよ、何もないわ。」

と答えると

   「あの、古馬ふるま君も最初はだけだって・・・」

   「香奈、行かないでー」

泣き出す友人もいる。

 香奈は苦笑いをするしかなかった。


 朝、沙夜が珍しく席を離れていたことに竜弥たつや

   「どこに行ってたの?」

   「心配してくれるの。」

   「いやちょっと気になって。」

   「そう、女友達ができたの。」

   「へえ、どんな子。」

   「竜弥は興味示さなくてもいいの。」

沙夜はむくれる。


 次の朝、沙夜は2年4組にやってきた。

 クラスは動揺どうようする。

 これには香奈は困ってしまう。

 3日目の朝、沙夜が挨拶に来ると香奈は明日から自分が2年3組へ行くと告げた。


 次の朝、香奈は約束通り2年3組へ行く、そして沙夜を見つけると

   「おはよう、約束通り来ましたわ。」

   「おはよう、やっぱり私が行った方がよくない。」

   「いいえ、私が行きます、行かせてください。」

すると前の席の男子が

   「この子が、沙夜の友達。」

香奈は男が急に話しかけてきてビクッとする

   「そうよ、2年4組の米霧香奈さん。」

沙姫は紹介をする

   「香奈、前の席にいるのは古馬竜弥ふるまたつやよ。」

香奈は、これが噂の古馬君かと納得する

   「竜弥、香奈は私の大事な友達だから手を出しちゃだめよ。」

沙夜は念を押す

   「沙夜、そんなことしないよ、君を怒らせたらどうなるかよく知っている

    よ。」

香奈は友達と言うより恋人同士みたいと思う。

 しかし、沙夜は自分のことを大事と言ってくれたと満足する。


 深夜、沙夜は庭に出ている、そして集中する夜露よつゆの降りる中、空気中の水分を利用して周囲の気配を探る。

 沙姫が庭に出てきたのが分かる、そして沙夜に近づく、沙夜は集中を解き、振り返る

   「どお、沙夜。」

   「このくらい湿度なら探知使えるようになったわ、沙姫。」

   「沙姫は右手のひらに水の球を作り出し水の刀を作り出す。」

   「私もこのくらいの湿度なら空気中の水分で刀を作り出せるようになったわ

    沙夜。」

   「このくらいの湿度が限界かしら、沙姫。」

   「そうね、では訓練を交代しましょう、沙夜が刀づくり、私が探知ね。」

この後、沙夜は再び風呂でのぼせるが竜弥には内緒だった。

 沙夜の日曜日ごとの古馬家での昼食づくりは欠かさず続いており、沙夜は一通りの料理を作れるようになっている。

 また、竜弥の母千鶴子ちづことの息もあっている。


 香奈の朝の挨拶は続いている、竜弥も沙夜に釘を刺されたためか急に話に入ってくることはない。

 香奈は竜弥が嫌いなわけではなかった、ただ男子に声をかけられるのが苦手なのである。

 教室では友人たちが香奈を守っていた。

 しかし、四六時中、彼女たちが守ってくれるわけではない、自転車置場で香奈に男子生徒が近づき声をかける

   「米霧さん、前から君のこと気になっていたんだ、付き合ってください。」

香奈は突然、声を掛けられ、動転し声が出ない、ただ後ずさる。

   「米霧?」

男子生徒は香奈に近づく

   こないで、こないで・・・

男子生徒がさらに近づこうとすると

   「何をしているの」

男子生徒が振り向くと沙夜がいる

   「邪魔しないでくれ、告白をしているんだ。」

沙夜は、香奈と男子生徒の間に入ると

   「おびえているの、分からないの。」

男子生徒を睨みつけると、彼はすごすごと立ち去る。

 沙夜は香奈に

   「大丈夫?」

声をかけると香奈は

   「怖かった。」

と沙夜に抱き着く。

 香奈は落ち着くと沙夜に説明を始める

   「私、子供の頃、男の人にひどい目にあって、母親からも捨てられて、叔父叔

    母夫婦に育てられたのです、それで、男の人が苦手なの。」

   「それ、香奈が悪いわけじゃない大人が悪い。」

沙夜は言う

   「悪い男はたくさんいる私も何度も絡まれた。」

   「でも、悪い奴だけじゃない、竜弥のようなのもいる、よく見ることが大

    事。」

香奈は思う、なんでそこで古馬君が出てくるの、私は一番になれないの?


 それから香奈は古馬竜弥のことが気になるようになる。

 沙夜と竜弥は毎朝笑顔で挨拶する。

 竜弥は沙夜を名前で呼ぶ、馴れ馴れしい。

 日常のちょっとしたことを楽しそうに話し合う、羨ましい。

 古馬竜弥は、一体何なの?

 沙夜にとって竜弥が一番なの、私は一番になれないの?

 あの場所に私は居たい、どうすればいい?

 古馬竜弥がいなければ、あれがいなければいい。

 香奈は短絡的たんらくてき考えに行きつく。


 沙夜が下校した後、自転車通学の竜弥は自転車置場へ行く、すると香奈が待っており

   「沙夜から言伝ことづて預かっているの、大事な話があるから今夜11時、七曲公園

    上で待つて、伝えたわよ。」

   「うん、ありがと。」

竜弥は答えながら呼び出しならスマホでいいのに、それも七曲公園上ななまがりこうえんうえなんてと去年の事件を思い出すが深く考えなかった。

 竜弥は外出の準備をした後、まだ、時間があったのでゲームを始める。

 そして、出発の時間を過ぎてしまう、慌ててスマホで沙夜に連絡を入れる

   七曲公園上、10分遅れる

沙夜はスマホを見て竜弥が誰かにおびきき出されたことを知る。

 電話を掛けるが竜弥は出ない、沙姫に事情を話し、七曲公園上へ急ぐ。

 香奈は10分前から公園で待ち構えていた、しかし、午後11時になっても竜弥は来ない、あの男は時間も守れないのかとイライラする。

 午後11時を10分ちょっと過ぎたころ、竜弥が息を切らして七曲公園上へやって来る。

 しかし、沙夜の姿は見えない、香奈がいるだけである

   「沙夜、怒って帰っちゃった?」

竜弥は香奈に尋ねる、彼女は彼の危機感の無さにも腹立たしかった

   「頭の中、お花でも詰まっているの?」

香奈が話かけ頭に狙いをつける。

 この時、沙夜は公園の間近まで来ており、空気中の水分で探知し、公園上に二人いることを知る。

   「竜弥ふせて!」

沙夜は感で叫ぶ、すると伏せた方の頭上で空間が突然裂けるのを感知する。

 沙姫は空気中の水分で作った水の刃を公園上に多数投げ込みけん制する。

 沙姫と沙夜が公園上に着くと竜弥は伏せており、香奈が右腕を押さえて立っている。

 香奈は沙姫と沙夜に向かって

   「あなたたち、もしかして。」

沙姫が言う

   「私たちも力使えるの、あなたの力とは違うけど。」

   「どうして、竜弥を襲ったの。」

沙夜が聞く

   「私はあなたの一番になりたいの、それにはあの男が邪魔じゃま!」

香奈は叫ぶと沙姫は彼女の前に進み出て、右手で張り倒す、そして言う

   「竜弥に何かあれば私は怒る、あなたに何かあれば同じように怒る。」

   「私に一番も二番もない。」

沙姫が

   「竜弥もう起きてもいいよ。」

と言うとやっと起き上がる、沙姫は思う黙っていたらいつまで伏せてたのかしら。

 沙夜と香奈の話は着いたようである。

 沙夜が竜弥に

   「竜弥、殺されそうになったけどどうする。」

   「無事だったからいいよ。」

竜弥は最近、修羅場慣れしているよなと思う。

 そして、座り込んでいる香奈のところへ行き、右手を差し出し

   「仲直り。」

と言う、答えは強烈なビンタである。

 沙夜は竜弥に

   「私以外の手、握ろうとするからよ。」

と冷たい目で見る。


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