第7話 忌避

 米霧香奈よねぎりかなは母親と二人暮らしだった。

 5歳の頃、母親が連れてくる男が嫌だった。

 男は母親がいない時、いつも香奈の嫌がることをさせた。

 あの時も男はパンツ1枚になり、香奈にスカートをたくし上げるように要求した。

 男のたるんだ腹の中には、嫌なものがいっぱい詰まっているに違いなかった

   もういやだー

香奈は心の底から叫ぶ、すると香奈に生暖なまあたたかいものがかかった。

 見ると男の腹は横一文字よこいちもんじに裂け、赤黒いきたないものが出ていた。

 香奈は何が起こったのか分からず、血まみれになったまま泣き続けた。

 母親は返ってくると、まず男の身を案じた。

 香奈は泣きながら思う、私が一番じゃなの?

 警察は母親同席の上、香奈から話を聞くが、香奈には何も分からなかった。


 7歳の時、母親が男を連れてくる、母親は男と再婚を考えていた。

 男はまず香奈を見る、あの男のような目で、それから笑顔になり

   「香奈ちゃんだね、よろしく。」

と言う、香奈はうなづいただけだった。

 母親は、ちゃんと挨拶あいさつをしなさいと香奈をしかったが、男がかばう

   「知らない人で緊張しただけだよね、これから仲良くなろうね。」

香奈は嫌だった。

 男は香奈に優しかった、でも、時々あの男のような目で見ることに香奈には耐えがたかった。

 母親と男は仲良く、3人で出かければ家族のようであった。

 ある日、男と香奈の二人で遊びに出掛けることになった。

 母親の作った弁当を広場で食べると香奈はそのまま眠ってしまった。

 香奈は腹の上を何かがいまわる感じで目を覚ました、すると男は左手を香奈の服の中に入れながら、シーッと静かにするように言った。

 男の左手は腹から胸へとまさぐるように動く、香奈はいやだ、いやだーと男の左腕の肩口をにらみつけた。

 すると男の左腕は肩口からスッパリと切り落とされた、そして香奈はその場から逃げ出した。

 男は警察に香奈にやられたと主張したが、錯乱さくらんしていると思われ、相手にされなかった。

 しかし、母親は違った

   「あんたのせいよ、いつもいつも私の幸せをダメにするんだわ。」

と香奈を責めた、しかし香奈は知っていた、いつも香奈は母親の一番ではないことを・・・


 香奈は、子供のいない東海市に住む、叔父おじ叔母おば夫婦に預けられることになった。

 直ぐに香奈は叔母に打ち解けたが、叔父とはなかなか打ち解けずにいた。

 香奈の経験は、男を忌避きひさせていた。

 それでも香奈は、叔父と叔母を中学生になるころには、お義父さん、お義母さんと呼ぶようになっていた。

 香奈は、叔父叔母夫婦の養子となった、夫婦の姓も米霧だつたので、名前は米霧香奈のままである。

 そして、中学2年の時、叔父は香奈にスマホを買い与えた。


 夜の町中に雨でもないのに黄色いカッパを着た少女が立っている。

 その少女に中年の男性が声をかける

   「待った?本当にカッパ着ているんだ。」

   「私、カッパが好きなの。」

少女が答えると男は顔をのぞき込む

   「本当に若いんだ、かわいいね、いくつ。」

   「本当の年言ったら、子供だって逃げちゃわない?」

   「おじさん、若いほど好きだから大丈夫だよ。」

   「15よ」

   「いいよ、いいよ、叔父さんお小遣いはずんじゃおっかな。」

二人はラブホテルに入って行く、部屋に入ると突然、男の腹は横一文字よこいちもんじに切られ、男は痛みに悶絶もんぜつする。

 少女はカッパのポケットから使い捨てのゴム手袋を出し、手にはめながら言う

   「カッパはお前らの汚い血が着かないから好きなんだよ。」

男が絶命すると財布とスマホを抜き取り、ホテルを後にする。

 少女は少し離れた路地裏へ行き、財布から札を抜き取る、すると手に持っている財布とスマホは粉々に刻まれていく。

 そして、カッパとゴム手袋を脱ぐと同じく手に持っているだけで粉々に刻まれてしまう。

 少女は何もなかったように立ち去って行く。


 沙夜さやは風呂に入りながら、空気中の水分で物を感知する練習をする。

 しかし長湯ながゆがたたりのぼせてしまう。

翌朝、竜弥たつや

   「おはよう、今日の俺の下顎骨かがくこつ(下あごの骨)はどうだい。」

   「おはよう、素敵よ。」

竜弥は沙夜が元気がないことに気づく。

   「どうしたの、調子悪そうだけど、沙夜。」

   「風呂でのぼせたの、だるいわ。」

竜弥はクスッと笑って

   「君でも失敗するんだね。」

   「竜弥のせいよ、私を見ててくれないんだから。」

竜弥は、ドキッとして聞く

   「そ、それって一緒に風呂に入れということ?」

沙夜は自分が言ったことに気づき

   「ばか」

と顔を真っ赤にする。

 沙姫さきと沙夜は、逢儀京司おうぎきょうじとの再戦に備えて自分たちの能力の可能性を探り、力を高めようとしている。


 沙姫と沙夜は、たまたま二人揃って帰宅する、路地に入ると車から男が3人降りてくる

   「君たちだね北校の美人姉妹は」

   「本当にきれいだわ。」

   「俺たちと今から遊びに行かない。」

二人に声をかける、沙姫は

   「あなたたち鏡持ってないの。」

   「一生、山の中にこもっていた方がいい。」

沙夜も容赦ようしゃない。

 そこに香奈が自転車で通りかかり、二人が絡まれているのに気づく。

 男たちは

   「ふざけるな!」

   「世の中ってもんを教えてやる」

とすごむ、沙夜はいきなり男たちの一人に金的を蹴り上げ、うずくまるところを顔面に膝げりを入れる、男は苦悶くもんし転げまわる。

 沙姫は素早く男たちの一人に左側に踏み込むと左足を男の左足首の後ろにかけ、低い姿勢のまま左手で男の胸に掌底打しょうていうちすると男は後頭部から倒れ昏倒こんとうする。

 予想外の展開に残った男は、ナイフを取り出し

   「刺されたくなかったら、言うことを聞け。」

と脅し文句を言うが既に脅しになっていなかった、沙姫と沙夜は黙って構える。

 男は、右手にナイフを持ち二人に突きつける、突然、男の右腕前腕が大きく裂け、血が噴き出す

   「わあああぁーーー」

男はナイフを落とし、叫ぶ、そして、転げ回っていた男と二人で、昏倒した男を車に積み込むと、車に乗り込み走り去っていく

   「大丈夫ですか。」

香奈が二人に駆け寄る。

 沙姫が聞く

   「今のあなたが?」

   「はい、内緒にしてください、お願いします。」

香奈がお願いする、沙姫は

   「命の恩人のお願いだもの、もちろん内緒にするわ、私は3年4組舟戸ふなど沙姫

    こちらは2年3組舟戸沙夜、よろしくね。」

沙姫と沙夜は頭を下げる、香奈は、二人が高校で有名人だったので当然知っていたが、とんでもない姉妹と言うイメージを持っていた

   「2年4組米霧香奈です、よろしく、お願いします。」

これが舟戸姉妹と米霧香奈の出会いとなった。

 その夜、沙夜が沙姫の部屋に入って来る

   「あれなんだと思う、沙姫。」

   「見当もつかないわ、沙夜。」

   「かまいたちみたいなものかも。」

   「それならあなた気づくでしょ、沙夜。」

   「まだ、空間の把握できていないわ、沙姫。」

香奈の力について答えは出ない。


 夜の県道沿いに雨でもないのに青いカッパを着た少女が立っている。

 赤いスポーツカーが少女の前に止まる、すると少女は車に乗り込む。

 車は中年の男性が運転している

   「本当にカッパ着ているんだ、顔を見たいな。」

少女はカッパのフードを取る

   「わー君かわいいねー、それに若いなー」

少女の顔を見た男は上機嫌になる、少女は

   「海が見たいな。」

と言うと、男は車を南へ走らせる。

 車は海岸に面した空き地に車を止める。

 そして、男は少女におおいかぶさって来る、少女は聞く

   「ホテル行かないの?」

   「もう我慢できない、ここでしょう。」

男は言うと苦しみだす。

 少女が男を押しのけると

   「あんたの汚い血が着いちゃったじゃないのどうしてくれるの。」

男の腹は横一文字に切られていた。

 少女の青いカッパには赤い血がべったりついていた。

 そしてカッパのポケットから使い捨てゴム手袋を取り出し両手にはめる。

 男はしばらく痙攣けいれんしていたが死を迎える。

 すると少女は、財布とスマホを抜き取り、車から降りる。

 そして、海岸へ行くと財布から札を抜き取り、手に持つ財布とスマホを粉々に切り裂く。

 次にカッパと手袋を脱ぐと手に持ち粉々に切り裂く。

 夜明けが近いことを知らせる薄明かりが少女の顔をはっきりとさせていく米霧香奈の顔を・・・

彼女は何か汚らしい物でも触れたような不機嫌ふきげんな顔をしていた。








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