第6話 魔術師

 しんの件の後、竜弥たつや沙夜さやの関係は大きく変わろうとしている。

 学校生活では、相変わらず、骨の朝の挨拶位だが、毎週日曜日、沙夜は古馬ふるま家へ来るようになる。

 沙夜は、竜弥の知らないところで母古馬千鶴子ふるまちづこと連絡を取り、料理を教えてもらうことにしたのである。

 母は快諾かいだくし、毎週日曜日の昼食を沙夜と一緒に作ることにする。

 沙夜は、父竜一りゅういちに送り迎えしてもらうため、双方の両親の付き合いも形成されつつある。

 竜弥は外堀そとぼりを埋められている気がしているが、毎週日曜日の昼食が豪華になるのと沙夜と一緒に食べられるということで満足していた。


 6月中旬、鏑木伸かぶらぎしん捜索願そうさくねがいが警察にだされた。

 2年生の間では、すでに伸のことは噂になっている。

 1か月も学校へ来ていないのである。

 竜弥は2年4組の担任に呼ばれる。

   「鏑木は、君とよく話していたそうだね、彼は何か言っていなかったかい。」

質問に対して、竜弥は

   「彼が教室に来て、ゲームの話とかしていただけです。」

と答えると4組の担任は

   「彼の行きそうなところは知らないか?」

   「僕は友達でないので知りません。」

竜弥はそう言い切る。


 その頃、東海とうかい警察署でも警察官が2名、行方不明になっていた。

 章氏健二しょうしけんじの捜査で、健二たちがたまり場にしていた空き倉庫の持ち主が3月から逢儀京司おうぎきょうじに代わっていることが分かったのだ。

 これまで逢儀京司について何も分かっていなかった。

 が、ここにきて初めて手がかりが出て来た。

 青木刑事自身倉庫に向かいたかったが手を離せず、他の警察官2名が聞き込みに行くことになった。

 だが、彼らは戻ってくることはなかった。

 当然、人手をり出し、空き倉庫へ向かったが、誰も倉庫にたどり着けなかった。

 何度もかよった場所にかかわらず。

 青木刑事は、逢儀京司に倉庫を売った前の持ち主を聴取する。

 しかし、まだ3か月前のことなのに前の持ち主は逢儀京司について記憶が曖昧あいまいであった

 また、逢儀京司が売買契約書に記載した住所は存在していなかった。


 青木刑事は舟戸ふなど姉妹を呼び出す

   「刑事さん、お久しぶりです、今日はどうしたのですか?」

沙姫さきが言うと青木はたずねる

   「良い知らせと悪い知らせ、どちらから聞きたい。」

沙夜が

   「良い方から」

と言う

   「ここだけの話だが、逢儀京司の情報が一つ見つかった、章氏健二のいた倉庫

    の今の持ち主が逢儀京司だ、」

   「次に悪い知らせだが、倉庫に向かった警察官2名が行方不明で捜索に行った

    者たちが誰も倉庫にたどり着けずにいる。」

青木は説明し

   「逢儀京司は得体の知れない相手だ近づくなよ。」

と付け加える。

 沙姫は言う

   「刑事さんは私たちに力を貸して欲しいのではないの?」

   「いや、貸してくれるのは知恵だけでいい、危険なところに君たちを行かせら

    れない。」

青木は答える、沙夜は断言する

   「認識を阻害するじんのようなものを張っているに違いない、私たちなら水を操

    って探り出し破壊できる。」

   「そうね私たちならできるわね。」

沙姫も賛同する。

   「なら、その陣と言うやつの処理だけ手伝ってくれないか、後は警察で確保す

    る。」

青木は言うが、沙姫は

   「警官隊でどうにかなると思ってないでしょ。」

   「それどころか軍隊を使っても勝てないかも。」

本音をつく

   「君たちなら勝てるのかい?」

青木の問いかけに、沙姫と沙夜は首を振る

   「ただ、同じ土俵に立てるのは私たちだけです。」

沙姫は言い切る。

   「なら、この話は無しだ。」

青木は、姉妹に手を出さないように言い含めて立ち去った。


 その夜、沙夜が沙姫の部屋に入って来る

   「このまま放っておくの、沙姫。」

   「命がけになるわ、沙夜。」

   「このまま見過ごすのは違うと思うの。」

   「なら、作戦を立てましょ。」

二人は、少しでも勝率を上げるために逢儀への対抗策たいこうさくを練る。


 次の日、沙夜は竜弥に話しかける

   「次の日曜日の午後空いてる?」

竜弥は警戒しながら

   「空いてるけど、何をするの?」

そんなに警戒しないで竜弥

   「じゃ何、沙夜。」

   「デートしましょ。」

竜弥は思いがけない言葉に、今デートって言ったよなー、デート?心の中で反芻はんすうする

   「嫌なの、竜弥。」

   「いえ、行かせてください、行きましょう。」

   「じゃ、昼食が終わったら、一緒にショッピングモールへ行きましょう。」

竜弥は沙夜とデートということに舞い上がり、沙夜の考えまで気が回らない。

 母はデートと聞いて喜んでくれ、軍資金に大枚を2枚もくれる。

 デートはなんと沙夜の父舟戸竜一の送迎付きである。

 竜一は上機嫌で

   「二人ともうまくやるんだぞ。」

   「竜弥君、積極的に行くんだ応援しているぞ。」

娘の父とは思えないことを言う。

 浜田町はまだちょうのショッピングモール着くと、竜弥は竜一に礼を言って車を降りる、竜弥は沙夜と中に入るが、沙夜に手をつないでほしいと頼まれる。

 竜弥に断る理由はない、手をつなぐと沙夜の手はやわらかくひんやりしている。

 二人はウインドウショッピングを楽しんだ後、フードコートで飲み物を飲む。

 竜弥がアイスコーヒーのブラック、沙夜はホットコーヒーのブラックである。

 竜弥は何気なにげに聞く

   「どうして急にデート決めたの?」

   「うん、気まぐれよ、それと来週の日曜日いけないから、叔母おばさまに伝えてお

    いて。」

楽しい時間は早く過ぎていく、竜弥は、沙夜が熱心に見ていたのキーホルダーをプレゼントする。

 竜一が迎えに来る

   「デートはどうだった?」

   「はい、楽しかったです。」

   「どこまでいったんだい。」

   「というと?」

   「例えばキスとか」

二人は、赤くなる、そして竜弥は

   「手をつなぎました。」

と答え、沙夜はうつむく

   「まだまだ先は長そうだね。」

竜一は少しがっかりする。


 その夜、沙姫が沙夜の部屋に入って来る

   「どうでした、沙夜。」

   「ウインドウショッピングして手をつなぎました、沙姫。」

   「それは良かったですね。」

   「はい。」

沙姫は沙夜の持っているキーホルダーを見て

   「それは?」

   「竜弥に買ってもらいました。」

   「ならば大事にしないと」

   「はい。」

一方、竜弥の母千鶴子は、息子が軍資金をほとんど使わずに帰ってきたことをなげく。


 翌週の日曜日、沙姫と沙夜は、逢儀京司の倉庫の近くと思われる消火栓の水を利用する。

 コントロールされた水が地面を這って四方へ広がっていく、残りの水は頭上に塊となっている。

 しばらくすると這って行った水が何かに触れる、二人はそこに這っていた水を集中させ、一気に破壊する。

 すると目の前に健二を捕まえた倉庫が姿を現す。

 二人は、這わせていた水を倉庫内へ侵入させるとともに頭上の水の塊を倉庫の窓から突入させる。

 一瞬、水は逢儀を捕らえるが、直ぐに反応が無くなる。

 沙姫と沙夜はチャンスを逃したことにしぶい顔になるが、直ぐ次の行動へ移る。

 二人が倉庫の中に入ると炎の円柱の中に逢儀京司がいた

   「我が学びへようこそ、とはいっても君たちに破壊されてしまったがね。」

   「今日は決着をつけに来たわ。」

沙姫が言う

   「決着とは怖いことを言う、私は探求たんきゅうを続けているにすぎないのだが。」

まだ、消火栓からの水は外から供給されている。

 二人は水が十分あるうちに決着をつけるつもりである。

 沙夜が逢儀に向けて水の刃を飛ばすが炎の円柱に触れると蒸発してしまう。

 水の刃は、コントロールされているため普通の炎では、蒸発したりしない。

 今度は沙姫が水を矢を打ち込む、円柱の表面で小さな水蒸気爆発が起きるが、中にいる逢儀に何の影響もない。

 逢儀は

   「こちらからもいこう」

と右手のひらから火球を飛ばす、二人は避け、後方の水に火球は着水すると水蒸気爆発が起き、二人を跳ね飛ばす。

 二人は床に水が溜まっているため、致命傷を免れるが、壁に穴が開き、コントロールされていない床の水が流れ出て行く。

 二人は、逢儀の火球の熱量がこれまでのものと比較にならないくらい大きいと知る。

 沙姫と沙夜は、目で合図を送りあい、次の作戦へ移る、二人の頭上には、水の塊が2つ浮いている。

 逢儀は、沙姫と沙夜に火球を打ち続ける、二人はぎりぎりでかわしていく、触れるだけでも致命傷である。

 外れた火球は建物を支える鉄鋼の柱をあめのように溶かしていく、逢儀が気づいた時には、既に建物の屋根を支え切れず、倉庫は悲鳴を上げ始める。

 二人はとどめとばかりに残った鋼鉄の柱を水の刀で切断する。

 逢儀は、道ずれにする気かと思うが、二人は沙夜のコントロールする水の塊を空洞くうどうのある球体にして中に入りシェルターにする。

 さらに、沙姫のコントロールする水の塊を逢儀の炎の円柱の中に流し込み、二人は外に退避たいひする。

 逢儀は

   「今回は引き分けか。」

と独り言を言い、退避しようとするが右足が動かない、水は全て蒸発させたはずが、右足首まで水が鋼鉄のように固まり床に固定している。

 逢儀が

   「やられたな、私の負けだ。」

と言うと、倉庫の屋根は崩壊ほうかいし、建物は完全につぶれてしまう。


 しばらくして、消防と警察が来て、黄色いテープを張り倉庫の周囲を封鎖ふうさする。

 沙姫と沙夜は、少し離れた路地で座り込んでいた

   「やはり、お前たちか、ボロボロだな。」

二人を目ざとく見つけた青木刑事が声をかける

   「さっきまで、死と隣り合わせだったんですよ。」

沙姫が答える

   「で、逢儀京司を仕留めたのか?」

   「建物の中でつぶれているはずです、調べればわかります。」

   「もう少し離れた方がいいぞ。」

と言って、青木は立ち去る。


 倉庫の倒壊は、警察により調査されたが原因は不明のままだった。

 また、遺体等は発見されず無人だったとされた。


 沙姫と沙夜は、捜査の結果に逢儀京司が生き延びたことを知る

   「あの状態でどうやって逃れたのかしら、沙夜。」

   「あれは私たちの想像を超えているわ、沙姫。」

   「もう、同じ手は通用しないわね。」

   「私たちの水をコントロールする力を上げるしかないわ。」

二人は魔導士の再来に備えるしかなかった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る