第5話 沙夜
竜弥は結局、沙夜につられる感じで理系を選んでいた。
しかも竜弥の席の後ろは沙夜の席である、竜弥はこれに教師の
沙夜が竜弥の後頭部をつつく、竜弥が振り返ると沙夜は嬉しそうに
「また、前の席ね、よろしく。」
「こちらこそよろしく。」
竜弥も挨拶をする。
すると教室に少年が入って来る。
そして、沙夜を見つけると近づき、沙夜の前の席の竜弥に話しかける
「君が
「僕がそうです。」
竜弥が返事をすると
「君のうわさは聞いているよ、沙夜と仲いいんだって?」
「何か用事ですか。」
「あなたに呼び捨てされる覚えはないわ。」
竜弥と沙夜がそれぞれ言う。
「失礼した。俺は2年4組の
夜、俺のこと忘れちゃった?去年、水族館や映画一緒に行ったんだけど。」
「覚えていない。」
沙夜は断言する
「仕方ないか、あんなにたくさんと一度に付き合ったんだ、あの時、君を理解
できなかったけど、今は理解できるよ。」
伸の言葉に、竜弥が割り込む。
「伸、用事は何ですか?」
「ああ、君と友達になりたいんだ、君は沙夜を理解しているだろ。だから、俺
のことも理解できるよ。」
「僕は理解できるできないで友達を決めたりしない。」
竜弥は反論する。
「君はそれでいいんだ。俺は
「それはどういう意味?」
竜弥が質問するが、そこへ沙夜が割り込む
「その両手の手袋なに?」
「これは春休みにけがをしてね。」
伸は手袋を外すと手には包帯が巻かれている
「そろそろ教室に帰るよ。」
と話も途中に教室を出て行った。
その夜、沙夜は、去年使っていたスケジュール帳を引っ張り出し見ている、鏑木伸のことを思い出すためである。
確かにあった、水族館を映画に行っている。
ちょうど、男子からの誘いが多く忙しかった頃だ。
しかし、記憶にある鏑木伸は、おとなしく、どちらかと言えば内向的で
自分から初対面の人に積極的に話しかけていく性格ではなかった。
それに話を途中で折ってしまったが私たちと似た者同士てどういう意味なのか
沙夜は鏑木伸に
伸は、度々教室を訪れては、他愛のない話をしていく、竜弥は、彼と舟戸姉妹が似た者同士ということが気になるのか、何度も伸に尋ねるがはぐらかされている。
4月下旬、伸がいつものように教室に入ってきた時、たまたま沙夜が席を外していた。
伸はこの時を待ってたように
「俺が舟戸姉妹に似ている理由知りたいんだろう。」
「ああ、知りたい。」
竜弥は答える
「なら、次の休み一緒に出掛けよう、朝9時、向かいに行くから自転車で出か
けよう、沙夜には内緒だ。」
「分かった。」
二人は沙夜に秘密にして約束する。
次の休み、つまりゴールデンウイークの初日、伸は約束通り、竜弥を迎えに来た
「どこへ行くんだい?」
竜弥が聞くと
「
伸が答えると竜弥はまたあそこかと思いながら
「あそこは危ないよ、悪い奴がうろついているから」
と言うと伸は
「だから行くんじゃないか、出発するよ。」
自転車をこぎ始めながら言う、竜弥は仕方なくついて行く。
倉庫街の入り口に自転車を置き、二人は歩いて倉庫街に入って行く、伸は目的地があるわけでなく、ただぶらついているようだ。
2、3時間経った頃、竜弥は後ろから声をかけられる
「おい、お前、この前のガキじゃないか。」
竜弥が振り返ると沙姫と沙夜と3人で来た時、絡んできた3人組がいた
「女はどうした、呼び出せよ、それともふられたか?」
3人は沙姫と沙夜が気に入ったようだ、竜弥が嫌な連中にあったと思い、黙っていると伸が3人組の前に出る
「こいつでいいか。」
伸が言うとまた一番体格のいい青年が前に出て
「ガキ、今何言った。」
とすごむ、しかし彼は
「臭いて言ったんだ、匂うぞ。」
と言う
「なめるな!」
青年は叫びながら殴りかかる。
伸が左手のひらを青年に向けると、こぶしを振るう右腕が折れ曲がる、次に片足が折れ曲がる、青年は地面に転がりながら
「ううーーーいでー」
激痛にうめく、他の二人は何が起こっているか分からずに固まっている。
伸は残りの二人の足を折り、うめき声は3つになる
「伸、何をしているんだ。」
竜弥が声をかける
「君が知りたかったことさ。」
伸は、はめていた手袋を外しながら言う、両手の甲には模様があった。
竜弥は沙夜から
伸は、地面を転がって居るうちの一人に右手のひらを向けると炎の激流が噴き出し一瞬で丸焦げにする
「人殺しはやめろ!逢儀にあやつられているのか?」
竜弥が止めようとすると伸は
「彼を知っているのなら話が早い、彼が力を俺に授けた、力を使うのはは俺の
意思だ。」
残りの二人を焼き殺しながら言う。
「これのどこが沙夜たちと似ているんだ。」
竜弥は
「舟戸姉妹が水を操ること知らないの?」
と尋ねる、竜弥が答える
「いや、知っている。」
「なら、分かっているんだろ、二人が人を殺しているって、俺と同じさ。」
竜弥は反論する
「沙夜たちが人を殺したのを見たことないよ。」
「見ていないだけだろ、感じているんじゃないのか、二人は人殺しだって、俺
は現実の世界で力を使って戦うプレーヤーさ。」
「あの二人だって力を振るう、自分たちの
もう十分だとばかりに、竜弥は伸の言葉を
「僕は、君が殺したところを見ている、警察に話せば君はおしまいだ。」
「好きにするといい、俺はプレーヤーだ、ゲームの中では警察はNPCに過ぎ
ない何もできないよ。」
「帰る。」
付き合いきれないと竜弥は背を向けて帰り始める、伸は
「今日のことは、ぜひ沙夜に伝えてくれ。」
と声をかける。
竜弥は家に帰ると沙夜に電話をかける
「電話なんて珍しいね、竜弥。」
「今日、伸と朝尻の倉庫街へ行ったんだ。」
「そこで彼は3人殺した。」
「左手で手足を折り曲げ、右手で炎を出して焼き殺したんだ。」
「それで自分は沙夜たちと同じだって、プレーヤだって。」
「落ち着いて、竜弥、明日、沙姫と竜弥の家に行くからそこで話しましょ。」
竜弥は沙夜に
「じゃ、昼の2時に行くね。」
と電話が切れる。
しばらくして竜弥は正気に戻る。
明日、沙夜と沙姫先輩が来る、僕の部屋に・・・まずい
大急ぎで部屋の片づけを始める。
竜弥も正常な男子である女の子に見せられないものを隠す。
部屋の物音に母がうるさいと文句を言いに来るが、舟戸姉妹が来ると分かると嬉しそうに戻っていく。
沙夜は沙姫の部屋に入る
「逢儀の新しい駒がたぶん分かったわ、沙姫。」
「たぶんなの、沙夜。」
「ええ、さっき竜弥から電話があったわ、彼の前で3人殺したそうよ。」
「どのように殺したの?」
「手足を折り曲げて、焼き殺したそうよ。」
「2つ力を使っているわ、沙夜。」
「竜弥、混乱していたわ、明日彼の家で話を聞くことにしたわ、沙姫。」
その後、沙夜は沙姫に鏑木伸について知っていることを話した。
翌日午後2時、舟戸姉妹は時間通りに古馬家へ来る。
竜弥と母が出迎える、沙夜が
「お久しぶりです、古馬君にいつもお世話になっています。」
続いて沙姫が
「沙夜の姉の舟戸沙姫です、よろしくお願いします。」
母は上機嫌で
「狭い所ですがおあがりください。」
と返す、竜弥は
「こんにちは、僕の部屋2階ですから。」
と二人を促す。
竜弥の部屋に入ると、まず沙姫が
「昨日は大変でしたね、落ち着きましたか。」
竜弥は死人が出たことを気にしてないような物言いを感じつつ
「はい。」
と答えると沙姫は言う
「昨日起きたこと、順を追って話してください。」
竜弥は倉庫街に入ったところから話始めた。
伸は竜弥を連れて2、3時間倉庫街をぶらぶらしていたこと
以前、沙姫と沙夜と竜弥に絡んだ3人組に再び絡まれたこと
彼が3人組を挑発したこと
彼は左手のひらを向けて腕や足を折り曲げたこと
彼は右手のひらから炎を噴き出し人を焼いたこと
両手の甲には模様があったこと
彼の力は、逢儀が授けたこと
彼自身のことをプレーヤと言い、ゲーム感覚で人を殺したこと
沙姫と沙夜が水を操る力があることを知っていること
と説明すると、ドアがノックされ母がコーヒーとケーキを運んできた。
休憩を入れることになり3人でケーキを食べていると沙夜がぼそっと言った
「説明が足りない。」
竜弥は伸が沙姫と沙夜が人を殺していると言ったことをわざとはぐらかせていた。
しかし、沙姫と沙夜の目はそれを許さないといっている。
竜弥は話を始める
「伸は沙姫先輩と沙夜が人を殺していると言ってました。」
「プレーヤの自分と同じで、悦楽のために力を使っているとも・・・」
沙姫が聞く
「私たちが人を殺していたらどうする?」
「分かりません、考えたくもない。」
竜弥が答える
「今は、それでいいと思う。」
沙夜が続ける。
竜弥は思う、どうして否定してくれないんだ、殺しているから、伸の言う通りだから、だったら僕はどうする、どうしたらいい
「話聞いている?」
沙夜の言葉に竜弥は我に返る
「えっ、ちょっと考え事していた。」
沙姫が感情を感じさせない目で見ていたが竜弥は気づいていない。
「伸の両手の甲の模様はどんなものだった?」
もう一度沙夜が言う。
「丸の中に模様があって、左右で模様が違っていた。」
と彼が答えるとさらに
「右手の炎は健二が使った炎と同じだった?」
「いや、威力が違う、炎は人を一瞬に丸焦げにするほど強力だった。」
質問は続いた
「左手は念力だったの?手のひらで狙わなくても折れ曲がったの?」
「念力かは分からない、でも手のひらで折り曲げるところを狙っていた。」
竜弥は質問に答える、次に沙姫が質問する
「鏑木伸の目的はなんだと思う。」
「それは私たちと戦うこと、竜弥を餌にしようとしてる。」
沙夜は言う、竜弥は
「彼はゲームをしようとしている沙姫先輩や沙夜と戦うのは間違いないのだけ
ど、それは敗者が死ぬゲームなんだ、そして僕を観客にしようとしてい
る。」
沙姫と沙夜は黙り込む、そこで話し合いは終了となる。
その夜、沙姫が沙夜の部屋に入ってくる。
「危険ね、あの子、沙夜。」
「ええ、伸は力が強い、対策がいるわ、沙姫。」
「違うわ、竜弥君のことよ。」
「どうして」
「本当は分かっているでしょ、沙夜。」
「竜弥は私たちの味方よ。」
「いずれ、私たちに向かってくるわよ、沙夜。」
「殺すつもり?沙姫。」
「殺すなら、私、沙姫と戦う。」
「不毛ね、彼のことはしばらく様子を見ましょう、沙夜。」
沙姫は話を切り上げ部屋を出て行く。
休み明け、教室に伸が入って来る
「やあ、この前のはどうだった。急に帰るから感想聞けなかったよ。」
「最悪だよ。」
竜弥が言い、沙夜が伸を睨む。
「沙夜にちゃんと話してくれたようだね、今日はここまでにするよ。」
と言って、伸は教室から出て行く。
それからも彼は度々教室に入った来ては話をしていく。
そのたびに沙夜は彼を睨みつける。
5月中旬、伸は話を切り出す
「そろそろゲームをしたいんだ、場所は竜弥君が決めてくれ。」
さらに沙夜に向かって
「時間は3日後の夜10時でどうだい。」
「分かった。」
沙夜は即答する、竜弥は考えた末
「
と言う。
北条公園は、東海北高校から北へ行ったところにあり、林に囲まれ周囲に民家がない、さらに公園内には池があった。
その場所に伸と沙夜は同意する。
3日後の夜10時、沙夜と沙姫はリュックサックを背負って北条公園へ来る。
既に竜弥と伸は到着している。
沙姫と沙夜はリュックサックから2リットル入りペットボトルのミネラルウォーターを2本取り出すとふたを開ける。
そうして、右手のひらの上に水の球体を作り出す。
伸は
「本当に操れるんだ。」
と感心する、そして
「それじゃ始めようか。」
と緊張感もなく言うと同時に公園の池から数十本の水の矢が伸にめけて飛来する。
彼は後退しかわそうとするが矢は彼に
その隙に水の盾を構えながら沙夜が伸に肉薄する、しかし、矢を処理した伸は、左手で盾を受けると盾は折れ曲がり、沙夜の上半身が
沙夜は姿勢を低くしながら右に飛びかわすと、沙夜の後方で木の幹が折れ木が倒れる。
沙姫は水の盾で炎の激流を防いでいたが、あまりにも高温のため完全に維持できず、盾の一部が気化し小さな水蒸気爆発が起きる、
その衝撃ではじかれ転んでしまう、そこを伸は左手で狙う、沙姫は転がってかろうじてかわす。
再び伸に池から水の矢が飛来するが、彼はすべての矢を折り曲げていく、沙姫と沙夜は左右に走り炎の激流の直撃を避ける。
伸は余裕で水の矢を処理する、沙姫と沙夜は、炎の激流を避けて近づけずにいる。
戦いは
しかし伸は気づいていない、彼が折り曲げ落とした水の矢がどうなっているかを・・・
沙姫と沙夜は、耐えながら走っていた、動けなくなれば水の盾でも炎を防ぎきれない。
あと少し・・・沙姫と沙夜は耐え続ける。
竜弥は
伸の足元は水の矢のためぬかるみ、水たまりもでき始めている。
それらの水は一か所に集まり始める彼の足へと、そして、上へと這い上がり始める。
伸が気づいた時は腰まで水が張り付き下半身の自由を失わせていた、さらに上半身へと這い上がり、両腕を上へ上げた状態で固定される。
彼は頭以外水に覆われた状態になる、沙姫と沙夜は息を切らせながら伸に近づく、沙姫がなんとか声に出す
「ぎりぎりだったわ、あなたの負けね、言うことあれば聞いてあげる。」
「俺の負けだ、言うことはない。」
伸が言う、竜弥が近づいてきて
「勝負は着いたんだ、もういいだろ。」
と言うと、沙姫が
「うるさい、あんた殺すわよ。」
沙夜も続いて
「竜弥は黙っていて。」
と竜弥の言葉を否定する。
伸も
「君は観客だ最後まで黙ってみていればいい。」
竜弥は引き下がるしかなかった。
そして、伸は沙姫と沙夜がコントロールする水の球体に包まれる、中では水の刃が高速で回転し、服を肉を切り裂き、球体は赤く染まっていく、さらに刃は骨もすりつぶしていく。
竜弥はこれでは死体は見つからない、二人はこうやって殺してきたんだと思いながら赤い球体を見つめる。
最後に沙夜が球体から白い
沙夜は竜弥の前に来る悲しそうな表情で、
「これが竜弥の知らなかった私、さようなする?」
目を潤ませながら言う。
竜弥は、人殺しを許すことはできない、しかし沙夜のいない生活は考えられなかった。
友人の
毒されているんじゃないよな?
沙夜は猛毒だったようだ、彼女から離れられない、竜弥は言う
「さよならはしない、これからもずっと、これからもよろしく。」
沙夜は、泣きそうな顔で笑顔を作る。
今の竜弥には、これだけで十分だった。
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