第3話 妄執の行きつく先

 朝宮町あさみやちょうは、西側を海に面している。

 しかし、海岸線かいがんせんは、高い護岸ごがんで固められ、人々を遠ざけるためか、人気はない、その海岸には、一か所砂浜とも呼べないような小さな浜が存在している。

 2月下旬底冷えの中、その浜には制服姿の2人の少女がたたずんでいる。

 男が一人、少女たちに近づいて行く、彼女たちは男に気づくと微笑みを浮かべて男に言う

   「私たちで遊びたいの?」

   「遊ぶならあそこへ行こ。」

沖にある小島を指さす。

 男は

   「いや、やめておこう。」

   「君たちはまるでローレライだな。」

と言うと、少女たちから微笑みは消え、代わりに冷たい目で男を見つめる。

 男は寒さの中にあって黒いジャケット姿であった。

   「私は逢儀京司おうぎきょうじ舟戸沙姫ふなどさき舟戸沙夜ふぁなどさやでよかったかな?」

沙姫と沙夜は、答えず、警戒の色を濃くする。

   「構えなくともよい、話をしたいだけだ。」

逢儀は、返事を待たず続ける

   「あの倉庫で見ていた。」

彼女たちの表情が険しくなるが彼は構わず続ける

   「君たちの魔法は素晴らしい。」

   「私の行き道を示して欲しい。」

沙姫は

   「私たちは超能力者、魔法使いはあなたでしょ。」

と言い返し、沙夜は黙ったまま手のひらの上に海水から球体を作り出す

   「いや、私は魔術師でしかない。」

   「君たちのように誰にもまねできない力こそ魔法と呼ぶにふさわしい。」

逢儀が言うと

   「封筒の中の紙や火を噴く紙はあなたの仕業でいいのね。」

沙姫は追及する

   「私は手を少し貸したに過ぎない。」

逢儀が答えると沙姫も手のひらの上に海水の球体を作り出す。

 沙姫と沙夜はここで逢儀を殺す気でいる。

 逢儀は表情一つ変えずに

   「これでは、話し合いは無理そうだな。」

と言い、彼女らに背を向けると立ち去って行く。

 沙夜は球体を大剣たいけんに変え、重さを感じさせない動作で逢儀の背中に投げつける。

 しかし、背中に目でもあるようにそれを避けると大剣は浜に深々と突き刺さる。

 結局、二人は逢儀が立ち去るのを見送るしかなかった。

 沙姫と沙夜は逢儀と戦えば苦戦を免れないことを感じたのである。

 沙姫は東海警察署とうかいけいさつしょの青木刑事に逢儀京司のことを伝えたが、逢儀を捕らえることが難航なんこうすることは目に見えていた。


 3月上旬、沙姫は東海北高校とうかいきたこうこうの校舎裏にいる。

 一人ではない、彼女の前には2年6組合力司ごうりきつかさが立つている。

 彼は、2年生の中でも体格が良く、背も高かった、そして今、沙姫にアプローチしている。

 沙姫は冷ややかに言い放つ

   「これで3回目ね、いい加減にしてほしいわ。」

   「それにどうして私の携帯番号知っているの。」

   「不愉快ふゆかいだわ、かけてこないで。」

合力はあきらめず、沙姫に近づきながら

   「携帯のことは謝る。俺は君のことが・・・」

と言いつつ、両手で沙姫の肩を掴もうとする。

 沙姫は両手で彼の右手をつかみ手首を固め、さらに右ひじを押さえ引き倒す。

 合力は、自分より体の小さな沙姫に易々と倒され地面にうつぶせになる。

 沙姫は、彼の右腕を両手で固めたまま

   このまま折ってやろうかしら

と思いながら

   「受け付けてないの、もうお仕舞しまいよ。」

と言い放ち、合力を開放すると、そのまま立ち去った。

 しかし、彼は諦めていなかった。

 沙姫に対し呼び出しや電話をするが全て無視される。

 1週間後の昼休時間、沙姫のクラス、2年4組に合力が入ってくるなり

   「どうして来てくれないんだ!」

と叫び、沙姫を見つけると近づいて行く。

 沙姫は体の前に腕を組み

   「近づかないで」

と大声で言う。

 それに反応したクラスの男子生徒が彼を取り囲み、もみ合いになる。

 彼はとうとう男子生徒の1人を殴り倒してしまう。

 この件で合力は自宅謹慎じたくきんしんとなる。


 浪江市なみえし東海市とうかいしの南に位置し、両市は南北に通る鉄道が通っており

浪江市には浜田駅はまだえき、東海市には朝宮駅あさみやえきがある。

 合力は浪江市に住み、鉄道を使って高校へ通学していた。

 春休みが迫った3月中旬、浪江市では、炭化した焼死体が路上で発見され、さらに翌日、四肢をあり得ない方向へ折り曲げられ、首は骨ごとねじ折られた惨殺死体ざんさつしたいが発見される。


 沙姫は一人で歩いて下校している、家は高校から歩いて15分と近い。

 彼女が裏路地へと入るとそこには合力がいる。

 いや待ち伏せていた。

 沙姫は不機嫌ふきげんになり

   「あんた、謹慎中じゃないの。」

と言うと彼は

   「一緒に来てほしい。」

全然諦めていなかった。

 沙姫はさらに

   「目障り、消えてちょうだい。」

と続けるが、突然、合力は彼女の腹に目掛けて右こぶしを振るう。

 沙夜は後ろに飛び避けようとするが、彼の踏み込みは深く、こぶしは軽く当たったように見える。

 しかし、合力の力は常人離れしていた。

 沙姫は軽くこぶしが触れたはずなのに強い衝撃を受け意識を失う。

 合力は、彼女を持っている大きなキャリーケースに詰め込み、自宅に向かって立ち去る。


 沙姫は合力の部屋で気が付く、ベットの上に仰向けに寝かされ、四肢ししはベッドに縛り付けられている。

 合力は、上半身裸でベットの上の彼女を見下ろしている、彼女が意識を取り戻したことに気づくと

   「よかった、心配したよ。」

と声をかける

   「殺してやる。」

沙姫は殺意を持って返す。

 合力は、彼女の上にまたがると黙ったまま、両手を彼女の腹の上に置き、ゆっくりとでまわしながら上部へ移動させていく

腹から胸へ、、胸から首へ、最後に顔を両手で包み込む。

 その時、沙姫は、彼の左手の親指に噛みつく、沙姫の口の中に血の味が広がる。

 合力は、彼女の口を右手で開け、親指を引き抜くが傷は深く出血は止まらない。

 彼は、沙姫の口をガムテープで塞ぎ、応急処置をすると服を着る。

 沙姫は合力の背中に円の中に模様のある図柄を見つける

   逢儀!あの模様、刺青いれずみになっているの?

と思うと

   「大人しくしていてね。」

と合力は病院へと出て行く。

 沙姫は、集中して水の在りかを探り、キッチンの蛇口にあたりをつける。

 そして、蛇口の水の圧力を上げていく、水圧に耐えられなくなった蛇口は内蔵するバルブカートリッジを破壊され、水が漏れだす。

 漏れ出した水はドアの隙間を通り抜け、合力の部屋で縛り付けられている沙姫の前に徐々に集まり球体を作り出す。

 そして、彼女に操られた球体は、刃に形を変え、ロープを断ち切り、彼女の拘束を解く。


 その夜、沙姫は沙夜の部屋を訪れる

   「合力司を覚えているわね、帰宅中、彼に拉致されたわ、沙夜。」

沙姫の言葉に沙夜は

   「殺したの?沙姫。」

と聞く

   「いいえ、逢儀が関わっているわ、背中に例の模様があって、人間離れした力

    を振るうわ。」

沙姫が答えると沙夜は

   「彼と戦うのね、なら、あの浜がいいわ。」

と言う。

 二人は話し合い、放課後、合力を朝宮町の浜に呼び出し、彼を骨も残らず消し去ることにした。

 沙夜が頭蓋骨とうがいこつを残すことを主張したが、沙姫が骨一片も見たくないと意見を通した。

 翌日の放課後、沙姫はスマホで合力を呼び出すが浜がどこにあるか分からないということで、沙夜が朝宮駅まで迎えに行くことになった。

 彼女は駅で彼と合流すると歩いて浜へと向かう。

行く道筋みちすじ、合力は沙夜に

   「今日は二人がかりなんだ、俺は君たちを傷つけたくない、戦いたくないん

    だ。」

   「話し合おう。」

と話しかけるが、沙夜は終始無言だつた。


 朝宮町の浜に着くと沙姫が待っており、沙夜は彼女の横に立つ

合力は言う

   「こんなところに小さいけど砂浜があったんだ。」

   「話し合いはできないのかな?」

沙姫と沙夜は黙っており、何も感じさせないような表情をしていた。

 しかし、冷ややかな目の底に殺意を宿している。

 突然、波間から数十本の水の矢が出現し、合力の左側に突進する。

 彼は筋肉を硬直させ矢を受ける、矢は彼の服を貫くが、一本も刺さらなかった。

 二人は驚きの表情をすると合力は

   「俺には、水の魔法は効かないんだ、話し合おう。」

と言い放つ。

 沙姫と沙夜は海水から水の刀を作り出す。

 沙姫と合力が対峙する中、沙夜は彼の右側に回り込み切りつけるが右腕で弾き飛ばされる。

 その瞬間、沙姫は間合いに入って合力の左肩から心臓を狙って切りつけるが彼はそれを左腕で受け止める。

 そして、右手で沙姫に掴みかかるが、彼女は刀を受けられると同時に左後ろにバックステップしていた。

 沙姫は、十二分に彼と距離を取る。

 沙姫は、隣で尻餅しりもちをつく沙夜に声をかける

   「大丈夫?」

   「ええ、平気、狙うのは目と筋肉を硬直させていないところ。」

沙夜は合力に聞こえないように小声で言う。

 合力は

   「もう、分かっただろ。」

とゆっくり近づいて来る。

 沙夜は、海水から矢を作り出し、彼の顔目掛けて矢を射掛続いかけつづける。

 しかし、彼は両腕で顔をガードして、沙姫に近づく、彼女は逃げるように後ろに下がる。

 合力は、沙姫を追って歩くスピードを上げるが、彼は彼女の誘いに乗ってしまっている。

 沙姫は大きく足を広げ姿勢を低くし、刀の刀身を伸ばすと合力の両足を薙ぎ払う。

 合力は歩くスピードを上げたため、筋肉の硬直を解いていた。

   「がーぁつ、足がーーー」

彼は痛みに叫び、見下ろす沙夜は

   「殺すって言ったでしょ、終わりよ。」

冷ややかに告げる。

 沙姫と沙夜は、海水から人一人が入る位の大きさの球体を作り出す。

 球体は、合力が倒れている場所まで移動すると彼と切り離された両足を飲み込む

   「ごぼっ、がばっ。」

合力は水の球体の中で溺れる、さらに球体の中に無数の水の刃が出現し回転し始める。

 刃は、服を裂き、肉を裂き、球体を赤く染めていく。

 刃は、彼の全てを粉砕していく、彼の骨やスマホも例外ではなかった。

 球体は、血の色に染まり、血生臭ちなまぐさい匂いを発し、合力がペースト状にすりつぶされたことを知らせる。

 沙姫と沙夜は、球体を海に沈める

   「予想外に苦戦したわね、沙夜。」

沙姫が言うと

   「刀や矢が防がれるのは予想外ね、沙姫。」

沙夜が応じる。

二人は逢儀が自分たちの能力に対抗してきていることを感じる。


 3月中旬、浪江市内、逢儀京司おうぎきょうじは少年と人通りのない夜道にいる。

 彼らの前を仕事帰りか中年男性が歩いて行く、逢儀は

   「あれで良いだろう。」

男性を指して言う。

 すると少年は右手を男性に向けて手のひらを開く、手の甲には丸に模様が描かれている。

 手のひらからは、炎が激流げきりゅうとなって飛び出し男性を飲み込む。

 男性は悲鳴を上げることもできず、焼かれ炭のようになる。

 翌日の夜、逢儀に酔った男が裏路地でからんでくる。

 逢儀は、男を突き飛ばすと転んだ男を見ながら一緒にいる少年に

   「これで良いだろう。」

と言うと、少年は左手のひらを男に向ける、手の甲には、右手とは異なる模様が描かれている。

男の右足が折れ曲がる、痛みに男は

   「痛っーーー」

叫び苦しむ、少年は折り曲げていく足を腕を一本一本楽しむように、男は痛みに耐えられず失神する。

 少年は男が反応しなくなると首を折り曲げとどめをさす。

 逢儀は

   「いいぞ、上出来だ。」

と少年を称賛しょうさんする。









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