第51話 コアをめぐる旅の始まり

 魔王から力を分けられた配下はコア持ちと呼ばれる。魔王討伐の旅で、被害の多い地域にいた強い個体。


 魔王討伐の旅は、それらを倒しながら魔王の元に向かい、町を魔物の脅威から解放しつつ、自分たちの力をつけていく旅順だった。


 魔王と同じく、魔物に与えられた魔王の力がこごったコアは、持つモノを倒しても壊れることなく――壊してもくっついたんじゃ!――、女神の浄化待ちとなった。


 テレノアの町での出来事で、魔王を倒し切れていないせいか、浄化途中のコアに魔物が憑くことがわかり、儂らの旅はコアをめぐる旅となった。


 最初から魔王討伐の旅程を辿る旅の予定だったので、何が変わるわけでもないんじゃが、覚悟は変わるかの?


 孫娘のアリナと、マリウスの姪のイオ、雇った傭兵のタイル。この3人はなかなかキリリとした表情を浮かべ、気合が入っている。いっそ悲壮な面持ちもする。


 一方、儂とマリウスはそんな3人を横目で見つつ、旅を楽しんでいる。青い草原も、緑の木々もそれだけで心浮き立つ。以前の旅では常に暗雲が広がり、体を包む空気は重く、草は干からび、木々は立ち枯れておったからの。


 記憶をこの綺麗な景色に上書きしてゆくのは、心楽しく嬉しいものじゃ。一人旅の予定だったが、誰かと一緒なのもいいもんじゃ。


 次代を担うことになるアリナとイオ、今をつなぐ者タイル、そして同じ感覚を共有できるマリウス。うむ、なかなかいい。


「コアのある場所はわかっておるのじゃ、気を抜くところは抜かんと余計に疲れてしまうぞ?」

何度目かの忠告。


「ただの魔物ではなく、おじい様が倒したような魔物がゆく手にいるかと思うと、緊張してしまいます」

「つい色々考えてしまいますわ。テレノアの魔物に手も足も出なかった身としては己の不甲斐なさに情けなくなります」

一頭の魔馬に乗るアリナとイオ。


 街道に他の旅人の姿がないのをいいことに、儂、マリウス、アリナたちの魔馬が並ぶ。タイルは遠慮してか、少し後ろ。


「今は修行になるほど強い魔物がおらんからの」

実戦を積んで強くなるという環境にない。


 なにせ周囲に魔物が少なく、いても弱い。純粋な魔物は弱いモノしか残っておらず、動物のナリカケがほとんど。魔王のいない今、入れ物からだがないと、魔力が抜けてゆくようだ。


 消えゆく魔物、かつて己の強さを求めた者たちは老いた。剣を置く者たちも増え、政治や商売の巧さを求める。


 時代の移り変わりに少々寂しくはあるが、魔王の存在する時代は最悪じゃ。ずっとこの平和な時を求めておった。


「あの魔物から守りたい、あの魔物を倒したい。強さの基準が魔物でしたからね」

マリウスが言う。


「……俺たちが着く前に、コア持ちが復活しちまうってことはないのか?」

タインが不安を乗せて聞いてくる。


「倒した順に復活しますから大丈夫ですよ。一定時間で復活するのなら、そのままの順番ですし、魔力を集める時間と言うなら後になる方が強かった分、量が必要になりますから」

マリウスが答える。


「やっぱ、テレノアのあれは一番弱いのか……。旦那たち、余裕だったもんな」

げんなりした顔をするタイン。


「ぴゃ〜」

ぴゃーが背中をにじり登ってきて耳元で鳴く。


「腹が減ったのだろうが、我慢せい! もう町が見えておるわ」

儂らのいる小高い丘、木々の間から町が見えている。


 距離的に昼前後につけるはずじゃ。街道が整備されたおかげで、見た距離で時間が測れるようになった。


 昔は途中に魔物が出たり、道が途切れて通れず、回り込むしかなかったりと、見えていてもすぐに辿り着けんことも多々あった。


「ぴゃ〜」

「おやつもなしじゃ!」


「ぴゃ〜」

うるさい!!!! 耳元で鳴くでない!


「シンジュ様、あの町の名物は葡萄の葉に炒めた飯や肉などを包んだ料理です。ゆで卵に野菜、甘く煮た果物――種類がありますから、腹に余裕があったほうがよろしいかと」

マリウスがぴゃーに笑顔で語る。


「ぴゃー」

それを聞いて、もぞもぞと背中の定位置に戻るぴゃー。


「待て。それは儂が『食べている』ことになるのか?」

マリウスの方にいけ、マリウスの方に! わかり合ってるじゃろうが!!


「旦那、言葉遣い」

「ぐ……。ぴゃーのやつが食べる分は、周囲から俺が食っているように見える。たまにはそっちで面倒をみろ」

タイルからのダメ出しに言い直す。


 若返った姿で儂というのも語尾にじゃをつけるのも可笑しいと指導が入っておる。アリナは王女であるし、イオは公爵家の令嬢、マリウスはつい最近まで神官長という地位になった。


 この中では元辺境伯の儂が一番町の暮らしに近かったのじゃが、それでもやはり認識にズレがある。特に魔物の扱いについて、魔王討伐時代とはずいぶん感覚が違っている。


 タインには儂ら一行の、一般とのズレを指摘しつつ馴染ませてもらえるよう依頼した。ついでに若返ったせいで、ジジイ言葉はおかしいと指摘されてる現在じゃ。


「若干片言になっていますねぇ」

儂の主張には反応せず、マリウスの顔が笑っている。


 おのれ……っ!



◇−−−−−−−−−−−−−−−◇

5/17に書籍が発売します。

toi8様のイラストで、見違えるほど雰囲気がいい物語に! 中身はそのまんまなんですが、一見まともな旅に見えるぞ?

https://www.kadokawa.co.jp/product/322401000946/


よろしくお願いいたします

◇−−−−−−−−−−−−−−−◇

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