第44話 門の皿
テレノアを前に、後で適当に結えていた髪を一本の三つ編みにして前に垂らす。絵姿や銅像でついているイメージが髪型一つで変わる、手軽でいい。
「あー、テレノアには銅像があるんだったか」
タインが言う。
困ったことに勇者一行の銅像の類は大抵の町にある。だが、
おそらくこの町にいるだろう魔物を見つけるまで、目立たないようにする方向なのじゃが、さて?
到着したテレノアの町は、門に手続き待ちの荷車が何台か止まっており、商人たちが立ち話をしている。ただの旅人の儂らは、魔馬から降りて門番に金を払うだけなので簡単に町に入れる。
人の姿をした魔物に苦しめられた過去の教訓からか、人の出入りを管理する門には、神官らが施した軽い結界のようなものがある。行くてを阻むようなものではなく、魔物やそれに類するものが門をくぐると、町のシンボル代わりに門の上部につけられている皿が、勢いよく落ちてきて割れるだけだが。
なんで皿なのかは知らん。そして皿が落ちた。
「あー、すまん。もしかして狩りたての魔物の素材でも引っかかるか?」
全員が落ちてきた皿を避けたため、石畳の上に割れて細かく飛び散っている皿の破片を見ながら言う。
「それなりに強い魔物であれば、ひっかかることもありましょうな」
詰所から責任者らしい男が出てきた。
門の後と前には槍を交差させた兵がそれぞれ二人いて、儂たちを挟んでいる。その後には面白い見世物が始まったという反応の野次馬と、遠巻きにいつでも逃げられる格好の慎重な人たち。
門の上の方、皿があった場所には何やら魔法陣のごときものが刻み付けられている。どうやら皿が結界の本体ではなく、あの魔法陣がそうらしい。
「ごめんなさい、おじい様。記念に牙を持っておりました。お皿が落ちてしまったのは私のせいでしょうか?」
アリナが不安げに儂を見てくる。
つい最近、アリナとイオが倒した足の速い魔物のものじゃろう。
「私も」
そっと牙を差し出してくるイオ。
「いや、儂も皿が割れるまで、牙まで思い至らなかった」
アリナの頭を撫でる。
「よく割れると聞きますし、そう心配することはないと思いますよ」
「魔核とかじゃなければ落ちないって話なのに、皮やら爪やらの持ち込みで落ちてる話はよくグチってるのを聞く」
マリウスが微笑み、タインが補足する。
一応、牙の他にも危なそうなものがないか点検。いい加減、町の出入りを止めていることが申し訳ない。
「預かります」
そう言って男が儂らの荷物を受け取り、従者に回す。従者は一礼して門についている詰所の中に戻った。
割れた皿を片付ける者、長い棒のような補助具を使って、新しい皿を門に掛けている者。マリウスの言うように、割れるのは珍しくないのか、やたらと手際がいい。
「門を出て、もう一つの皿が割れなければ無罪放免です。右側の窓口で、預かった荷物を受け取って、皿代を払ってください」
そう言われて兵の注視の中、門を出る。町側の上の方に飾られていた皿は落ちいてくることなく、無事無罪放免。詰所の窓から荷物を受け取って金を払い、魔馬を引きながら広場へ。
「ホッとしました」
アリナが胸をなでおろす。
「あの皿、払わされる金よりはるかに安い。兵の前なんで言わなかったが、最近じゃ金のありそうな旅人が通ると、わざと落としてるんじゃねぇかって噂だ」
タイルが言う。
「む、そのような理由でアリナを驚かせるとは、万死に値するな」
おのれ、儂の可愛い孫を。
「なんでお皿なんでしょうか?」
イオが不思議そうに首を傾げる。
「知らん」
「安いからか?」
儂とタイン。
「最初は鈴を振るわし、鳴らそうとしたらしいですね。ただ術式がうまくいかず、皿が落ちることになったようです」
「……」
マリウスが説明してくれたが、何故皿かはわからんままだ。とりあえず術式失敗なのは理解した。
というか、ぴゃーは背中にはりついてるくせに、何も役にたたんな? ここは聖獣がいるから結界には引っかからないとか、そんな場面ではないのか? 聖獣的にどうなんじゃ?
広場には人が多く、露店が並び、さまざまな雑貨の他、花が売られている。活気あふれる町だ。
この町は魔王の時代、魔物の派手な破壊は少なかったため、復興も早く、その後の発展も著しい。破壊はなかったが、人的被害は多く、増えた分の人口もあるが、今の住人の半分は他所から流れてきた者たちだ。
「そっと人が消える陰鬱な町でしたが、変われば変わるものですね」
マリウスが呟く。
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