第40話 女神の導き
「魔王が復活するというわけじゃねぇんだな?」
タインからの二つ目の質問、というか確認。
「魔王を倒す旅ではない」
今回はそれが目的の旅ではない。
「何で若返ってるんだ? 二代目ってんじゃないよな?」
「さての。女神の導きじゃ」
肩をすくめて見せる。
面倒なことは、女神の名を出しておけば大抵なんとかなる。
「こっちの二人――口が悪いのは勘弁してくれ――は、聞いた通り己の武器の探求として、こっちの総神官長殿は?」
アリナとイオからマリウスに視線を動かすタイン。
人の脇腹と肩を通る運動会を無視しておったら、顔面を通路にし始めたぴゃーをつまみ上げる儂。大人しくせい!
「いつまでも古い者がおっては、下がつかえるでしょう? 神官長の座はすでに退きました。そのまま王都にいても落ち着きませんからね、これ幸いとついて参った次第です」
外面のいいマリウスが微笑んで言う。
追っ手がかからないように、面倒な問題を早々に処理せねばならん状態で発覚させるという置き土産をしてきた男が何を言っているのか。聞いた内容では、おそらく王都は貴族も神殿も含めて右往左往しているはずじゃ。
「もう世間一般とずれるのはしょうがないんじゃねぇのか?」
少し引いている気配がするタイン。
「始める前に投げ出さんでくれんか? 自分がずれておることを理解した上でそのような行動を取るならともかく、知らずにやらかしとるのは避けたいでな」
ぴゃーがぶら下げられとるのに飽きたのか、先ほどから後ろ足で空を蹴っている。
「旦那たちの功績を考慮せず、一般の冒険者からずれているところをあげるんでいいのか?」
「うむ」
頷く儂。
「まず言葉遣い」
「丁寧すぎるか?」
アリナもイオもマリウスも。
アリナとイオが戸惑った顔をしておる。はすっぱな言葉遣いは二人には似合わんし、マリウスを含めこの3人が荒い言葉を使うイメージがわかん。
「それもあるが、旦那はせめて一人称をなんとかしたほうがいい」
「ジジイが
「ぐぬ……」
一言多いんじゃ、マリウス!
「俺に戻せばいいでしょう」
「すでにこれで癖がついとるんじゃ!」
魔王討伐から帰還し、辺境伯を拝命した。王族やら貴族やら――王族の方々はおおらかであったが、他は面倒じゃった。元々の話し方と公の場での話し方をすり合わせていくうち、最終的にこうなった。
「他は?」
「旦那の今の格好」
……。
ぴゃーか! ぴゃーが見えないのが原因か!
「この男はしばらく一緒に行動するのじゃ、一度姿を見せんか?」
「ぴゃー」
なんと言ってるのかわからんが、何を要求しているのかはその視線でわかる。
「ほれ、くれてやるから大人しく姿を見せろ」
ぴゃーの視線の先にあったトラツグミを口元に持っていくと、両手でつかんで儂にぶら下げられたまま食い始めた。
「……なんだこれ?」
「シンジュ様、聖獣ですよ」
片眉を跳ね上げたタインにマリウスが告げる。
「名前はぴゃーで十分じゃろ」
この格好で食い物に夢中になっとる生き物に、シンジュなどという名前は似合わん。ついでに聖獣なのかも疑わしい。
「これが儂より食うくらいでな。しかも姿を消しとる時は、はたから見るとどうやら儂が食っているように見えるらしい」
「それはまた……。ゆで卵の丸呑みやら、おかしな食い方をするとは思っていたが」
……丸呑み?
「ぴゃー! 貴様、聖獣ならば、せめて
「ぴゃー」
トラウズラを食い終え、ぶら下がっているぴゃー。制限したせいか、まだナスのようにはなっていないが、腹は重そうじゃ。
次はマリウスが食っとるように細工しろ。
「今のところ、私たち3人は上品すぎるくらいで、おかしなことをしているのはこの男だけということですね」
「大半はぴゃーのせいじゃろが!」
ぶらさげられたまま毛繕いを始めるな! しかも毛に舌が届いておらんじゃろが!
「さすが勇者と共に在った方々だ。聖獣も側にいたがるとは」
「無理に崇高そうな話にせんでいい。これを甘やかすと、皿の料理を狙われるぞ」
もうすでにタインのトラウズラは狙われた後じゃが。
「
「不審に思われ尋ねられたら、女神の導きとか女神の気まぐれと答えたらどうだ? 実際聖獣が起こすことならば、不敬にはならねえだろう」
聞いてこない大勢の者たちには誤解を与えたままじゃし、女神の導きで何をどう納得させるつもりじゃ! ゆで卵を丸呑みする女神の導きになるじゃろが!!!!
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