第25話 再びの仲間
宿屋に預けていた魔馬を連れ出し、村を発つ。
「旦那、どうせ町には寄るんだろ? 雄鹿亭って宿屋が飯も旨いし、安いぜ」
宿屋は普通、泊まり客の馬しか預からないが、今回は村のための滞在ということで、村長が話を通してくれた。傭兵は、儂が確かに村長の頼みで動いていた証明を兼ねて見送りがてら一緒に。
「ああ、空いていたら利用しよう」
これから村長のところに行くらしい傭兵に答えて、馬上の人となる。
飯の旨い宿屋か。嬉しいが、微妙に食いしん坊だと思われとらんか? いや、旨いものを食うのも旅の楽しみに据えてはいるが、こう……。
次の町までは2日。大体この国では大きな町や村の間の移動は2、3日以上はかかる。あまり近すぎると、人も家畜も養うだけの土地が足りなくなるのだ。物の集まる王都や、人が暮らすには厳しい辺境などはまた事情が別だが。
魔馬に揺られてのんびり街道を進む。魔物が現れて騒ぎが起きようと、空は青い。魔王がおった時は、天気も悪かったからの。
◇ ◆ ◇
「ぴゃー」
「なんじゃ」
道中何事もなく来たが、町が見えてくるかというタイミングでぴゃーがもぞもぞと落ち着かない。
「まさか腹が減ったのか? もう少しがまんせい」
町がすぐそこ――
「おじい様!」
街に向かう街道の真ん中でアリナが手を振っている。隣にはマリウスとイオ。距離を詰め、魔馬を降りる。
「アリナ」
出たり入ったり忙しいが、アリナなら大歓迎じゃ。抱きついてくるアリナを抱きあげ、頬を合わせる。
「修行か?」
確か、週に一度の割合で儂のところにくるような話をしておった。マリウス付きでくるとは思っておらんかったが。
「違います。家出です!」
「なんじゃ、穏やかではないな?」
少し怒ったような様子も可愛らしいが。引き結んだ口が頬をほんの少し膨らませているように見せる。
「陛下たちが、おじい様に対して不誠実だったからです」
アリナが父ではなく、陛下と呼ぶ。だいぶ怒っているらしい。
さて、隠し子呼びやらのことかの? 国外でスイルーンを名乗るなと頼まれれば聞いてやったものを。だが、その程度で?
「王は魔女イレーヌと何か取引したようですよ。はっきりしたことは流石に調べきれませんでしたが、貴方にふらふらされては困るらしいですね。それでいて、お告げに従って旅に出ると言う
マリウスがいつもと変わらん顔で告げる。
隠し子騒動は関係なかったらしい。
どんな取引をしたのか知らんが、女神のお告げは邪魔できんか。お告げを受けたというのは出まかせじゃが、女神に導かれて旅した勇者が言うなら信じるじゃろな。
それにしてもイレーヌか。
「イレーヌとの間に割って入ったのはそのせいか?」
魔馬に強化魔法をかけたあの時、マリウスは儂とイレーヌの間に馬体を割り込ませた。
「シンジュ様のお陰で貴方の気配を追えないようで、新しく印をつけようと躍起になっていましたね」
おい、まさかぴゃーを見るためにローブをバサバサやっとったのは、その攻防だったのか?
何故儂に言わん! いや、こいつは確証がないと黙っとるやつだった! というか、ぴゃーが役に立っていただと!?
「ぴゃー」
くっ! ぴゃーから得意げな雰囲気が……っ!
「何だか知らんが、命が欲しいとかではなさそうじゃな」
でなければとっくに何か仕掛けられている。
儂に命の危険はないが、何か事情があってはっきり言えんこと、もしくは儂が嫌がりそうなこと、か? どっちにしろ内緒事は好かんし、こうなっては聞いてやるつもりはない。
「何を考えていらっしゃるか、女性は謎ですね」
肩をすくめるマリウス。
そのマリウスからイオに視線を移す。
「ご心配なさらずに。おじ様の味方というわけではございませんが、居場所を漏らすようなことは致しませんわ。陛下たちのように、アリナに嫌われてしまいますもの」
儂の腕の中のアリナを見る。
「お姉さま、付き合わせてごめんなさい」
「私たちは自身の武器を探しに。それが少し早まっただけですわ」
少し眉のよってしまったアリナを見て、微笑むイオ。
「旅に耐えられなくなったら、戻るのじゃぞ」
二人とも幼いながらも強い。だが、野宿の続くような旅に耐えられるかは別問題。
アリナとイオを乗せた魔馬を引き、町に向かう。
「そういえば、どうやって儂を見つけたんじゃ?」
ぴゃーのせいで、イレーヌさえ儂の居場所が分からんような話だが。
「転移の魔法を使ったのはイオですが、飛ぶ場所を指定したのは私です。イレーヌやイオに、そういった魔法の腕は及びませんが、あの山を魔物の作った道を使って越えるだろうことは予測がつきましたしね」
マリウスが言う。
「面と向かってイレーヌに理由を聞いてもいいですが、暇ですしねぇ……。シンジュ様のおかげで、イレーヌは後を追うのに苦労するでしょう。あ、私たちも身体強化の応用で眩ませて来ましたよ。今はシンジュ様の影響下ですし、安心ですね」
にっこり胡散臭く笑うマリウス。
「ぴゃー」
胸をそらしている気配がするぴゃー。
儂は転移など使えんし、気軽に問い質しに行くことはできない。イオの力では、自分とアリナが限界だろうしの。マリウスが一緒に飛べたのは、マリウスが魔力を繋げるだかなんだか……同じ血族で協力できるあれじゃろ。あれ。
――なんか聞いた気がするが、小難しくて忘れた。
それにしても、ぴゃー。わかっていて気配を変えてくれていたのか、単なる偶然かどっちだ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます