第21話 移動した魔物の行方
一応、ゆで卵だけ売ってくれんか聞いたが、ちゃんと料理を頼めとのこと。いや、さすがに儂も2皿と半分食った後は、無理じゃぞ?
「ぴゃー」
「わがまま言うでない」
そんなに美味かったのか、ゆで卵。ぴゃーに食わせたので、儂は食っとらん、気になるではないか!
何某かの心付けを渡して頼もうにも、戦場のような忙しさで気が引ける。
「町を出る前に、もう一度来るから我慢せい」
どちらにしても今日はこの村で泊まりだ。夜は店を変えるつもりでいたが、まあいいじゃろ。
店を出て、村を見て回る。賑わいは小さな町より上だ。壁というのは、非常時に役に立つし、安全じゃが、発展や人の行き来を妨げる。国境に近い村ではないし、魔物はほとんど姿を見せない。
壁は邪魔なだけじゃな。
そう思いつつも、昔を知っている儂としては、魔物が来るのならあちらの山からだろうとか、そういったことを考えてしまい、落ち着かない。
パン屋で旅人用のパンを注文する。2度焼きされて硬く、日持ちして軽いものだ。
「評判のいい名物か、干し果物の店はあるかの?」
「干し果物なら、西の農地に行った方がいいのがあるよ」
ちょっと多めに支払いをして、話を聞く。
「最近変わったことはあるか?」
「さあ? この辺は普通だよ。二つ隣の村は、道に魔物が出て大変だって話だったが、領主が兵を出してついた頃にはいなくなってたって話だけど。俺の小さいころよりゃ、魔物もぐっと減ったのに珍しいねぇ」
料理屋で耳に入って来た魔物の話か。話してた客より、パン屋の方が情報が早いな。
一応、周囲を確認しとくかの。
村の周りをぐるりと一周、南と北は広めの道で人の往来が多く、問題ない。それなりに強い魔物ならばともかく、普通は大勢の人の気配は避ける。東は牧草地が続き、見晴らしがいい。
魔物が出るとしたら、西の山からじゃの。残った魔物は野生動物のように人を避け、身を隠しつつ、それでも我慢できない衝動があるのか、人を襲う。
村の西側には、農地と畑に囲まれた家がいくつか。農家では大抵家畜を飼っているので、他の村の建物とは少し距離がある。
「すまんが、干し果物を分けてくれる家があると聞いてきたんじゃが、教えてくれんか?」
最初に目についた、畑で作業している男と女に声を掛ける。
この辺りで作っているのは、小麦を中心に蕪と豆。保存の難しい、葉物は少し。
「ああ、うちでも作ってるよ。こっち側の家はみんな山になるもんで作ってる。売れるのはツルコケモモと山リンゴだよ」
男が顔を上げていう。
「ではそれを頼む」
「おう、家までついてきてくれ」
奥さんらしい女に合図を送り、畑から出て小道を先に立って歩き出す。
「最近、山の様子はどうじゃ?」
「あんた、変な喋り方するなあ。山は別に変わらないよ、でも実を食う動物が少ないみたいで、ツルコケモモがたくさん採れたよ。大抵、鳥やらネズミやらに先に荒らされてるんだが。あいつら早起きでねぇ」
変な?
ああ、この見た目で「儂」とか「じゃ」とかは可笑しいか。最初の孫が生まれて、孫相手に話してるうちにこうなったような覚えがある。領内のたくさんの孫持ちの爺様の喋り方がうつった。
「あんまり気にしないでくれ、近所の爺様の口癖が移ったんだ。――山の動物が減ったのかの?」
「そんなこたあないんじゃないかな? 一週間前くらい前から、畑に出てきて困ったよ」
男があまり困っている風に聞こえない声で返事をする。
「畑に? 春先だからか?」
「去年とは違う感じかなぁ。イノシシは猟師に頼んで何頭か仕留めたんだけど、ネズミやらリスやら小さいのが困ってね。さっきも罠をかけてたんだよ」
肉は助かるが、猟師を雇った金と、荒らされた畑の被害で赤字かなぁと、のんびり続ける。
「脅かすようで悪いが、それは魔物が移って来て、山から動物どもが逃げ出したんじゃないのか?」
「それは困るなぁ」
立ち止まって、振り返り眉毛をしょぼしょぼさせて言う男。表情が大袈裟だが、口調はのんびりなままだ。
「まあ、後で山を捜索してもらえ。二つ隣の村でどこかに移動した魔物とやらのことを、領主もまだ気にしとるじゃろしな」
逃げた、と言うことはそう強い魔物ではなかろうし、村人が大勢で山狩りをすればまた移動する確率が高いしの。
「魔物が出たのかい?」
儂が歩き出すと、男も歩き出す。
「ああ、パン屋でそんな話だったな。山つたいに移動したなら、ありえるじゃろ」
「おう、じゃあ早速頼んでみるよ。お前さんに干し果物を分けてからな」
「ま、領主の兵が来なくても、大勢で山に入れば逃げ出すかもしれんしな」
そんなことを話しながら歩き、到着。
家の前には立派なイノシシが血抜きのためかぶら下がっていた。
おい。魔物が寄ってくる環境じゃろが!!!! エサをぶら下げてどうする!!!
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