新たなる日常③

 -社員食堂



 ー…さて、どこかな?

 俺と新人二人は食堂の入り口でイオリ達を探した。…ちなみにこの二人は、午前の休憩時にトイレに連れ出し『リモート化』を済ませている。

 …ふむ、とりあえずツールでー。

「ーあ、こんにちは」

 …っ!

 俺の身長を持ってしても見つかりそうになかったので、ツールを取り出そうとした。すると背後から、最も聞きたかった声が聞こえた。

「…こんにちは、長瀬さん」

「「こんにちは」」

「あ、こんにちは」

 振り返ると心の底から笑う二人の女性がいた。……最高だ。


「こんにちは。…えっと、貴方が江口先輩ですか?」

 泣きそうになるのを堪えていると、もう一人の新人女子が質問してくる。……?……っ!?

 快活そうなその娘を見て一瞬何で居るのか分からなかったが、直後通信ツールが震えた。

「…そういう君は、『新たなコ』で良いのかな?」

「はい、鈴村と言います。宜しくお願いします」

 俺の『確認』に彼女はにっこりと頷いた。

「ああ、宜しく。さ、それじゃあ行きましょうか」

『はい』

 そして俺達六人は複数の長い列が出来た注文カウンターの右端に向かった。

 …まさか、-三人だけのステキなランチが-が-色とりどりのランチ-になるとは。しかし、こうなってくる少し不変だな。…よし、ならー

「ーあ、注文どうぞ」

 ある事を決めながらそこに着くと、食堂のスタッフが端末片手に聞いてきた。

「じゃあ、女子は代表して私が。

 ーBランチ三つを『上の展望個室③』にお願いします」

 彼女は淀みなくそして独特の注文をした。…ここれはこの会社独特のシステムだ。

「…はい、承りました~。では、代金をお願いします」

 注文を端末に入力したスタッフはICカードの読み取り機械を丁寧に差した。


 彼女達は、手早くICカードで支払いを済ませて素早く食堂を出ていった。

「次の方、注文どうぞ~」

「はい。Aランチ三つを上の展望個室②にお願いします」

「…はい、承りました~ー」

 そして、支払いを済ませた俺達は早速上の階にある食事用の個室に向かった。…いや、最初聞いた時は驚いたな。でも、直ぐに受け入れらたんたんだ。まあ、なにぶんいろんな人…例えば『大勢の人がいる所だと落ち着いて食べれない人』も居るわけで。

 そんな人の為に作られたのが、食事用の個室だ。…けど、いつの間にか仲の良い人同士で人に聞かれたくないおしゃべりをする場所になった訳だ。

 お陰で今は、事前申請しておかないといけなくなってしまった。その事前申請も普段は抽選なのだが、俺は抽選無しでしかも一番人気の展望個室を確保出来た。

 理由は簡単。俺が教育係だからだ。まあ、つまり新人に会社の良い所を知って貰う為に教育係にはそういう施設を『最優先』で使える権限が与えられるのだ。


 …いやホント、教育係の任を受けておいて良かった~。じゃなきゃ今日は非常に悶々とした1日になっていた事だろう。ナイスだぞ、一週間前の俺っ!

 過去の自分に深い称賛と感謝を送っていると、目的の部屋に着いた。そして、ドアを開けると青空と都会の街並みが視界に飛び込んできた。…いや、この部屋にくるのも二年振りだな。

 しみじみと当時の事を思い出していると、部屋に置かれた内線が鳴った。

「はい。展望②です」

『こんにちは。今料理が出来たので-送り-ますね』

「はーい」

 直後内線を切り、部屋の左にある『配膳用のエレベーター』の前に立つ。すると、ちょうど下の社員食堂から料理が送られて来た。…いやー、流石一番人気の部屋は違うな~。

 改めて感動しつつ、到着した料理を一個一個テーブルの上に置いた。

「…じゃあ頼む」

「畏まりました。廊下に『人避け』を展開します」

 片方に頼むと、彼は素早く廊下に出た。


 …さて、行くか。

 その数秒後、俺は自分の料理を持って廊下に出た。すると、隣の『楽園』のドアが開いたので遠慮なく足を踏み入れた。

「…ありがとう、イオリ」

「恐縮です」

 ドアを開閉してくれたイオリに礼を言い、俺はまず自分の料理をテーブルに置いた。

「…さて、ようやくちゃんとお話が出来るな」

「「はい。初めまして、マスターダイスケ」」

 二人は席を立ち深いお辞儀をした。

「ああ。宜しく、『ミヒト』に『ミラ』」

「…?」

「…っ」

 俺の言葉に快活系の彼女…『ミラ』は首を傾げた。一方、クールビューティーの彼女『ミヒト』はハッとした。

「…もしや、今呼んだ名は彼女達の?」

 同じく察したイオリが、少しばかり興奮した様子で聞いてきた。


「ああ。…『これから』の事を考えると、『生まれ変わる』までに名前がないのも不便だし…なにより、『生まれ変わる日』までの時間をより『ステキ』な思い出にするにはやっぱり『名前』があった方が良いからな。

 ちなみに由来は、『M』…すなわち『マニュアルリモーター』と『君達の役職を略語』だ」

「「「……」」」

 その瞬間、イオリは涙を流し二人は震えた。…感動してくれたようでなりよりだ。

「…マスターダイスケ。誠にありがとうございます」

「そこまで、私達の事を思って下さるなんてと……」

「貴方に出逢て、本当に良かった…」

「何、俺も君達に出逢えて嬉しいさ。だからこれは、俺なりの皆への『ご褒美』さ。

 …さて、それじゃ昼食を食べよう。あ、ついでにいろいろ聞かせて貰おう」


「「「畏まりましたっ!」」」

 三人はとても嬉しそうに返事をし、俺達は前もって決めていた事…スーツの上着を脱いだ。…ほわ~。

 ブラウス姿になった三人を見て、俺は感嘆する。

 まず、ミヒトだが今ではスーツ越しでしかも盗み見るしか出来なかったその豊満な胸がはっきりと把握できて、感無量だった。

 次に『ミラ』だが、ブラウス姿になった途端可愛さが顔を出しそのギャップにクラクラしそうになった。

 そして最後にイオリだが、小動物を思わせる可愛らしい童顔と小柄な身体がブラウスを来ている姿に非常に昂った。

「(…ああ。いい気分だ。)いただきます」

「「「いただきます」」」

 三者三様の艶姿に夢見心地になりがら、俺は食前の挨拶をする。それに続いて彼女達は綺麗はハーモニーで挨拶をした。



「ー…しかしイオリ。良く『問題なく』遂行出来たな?」

 それから数分が経ちしばらく食べ進んだ頃、俺は気になっていた事を聞いた。

「…ええ、正直言って自分でも驚いています」

 当の本人は、少し困惑しながら『M:I.F.T.』を見た。

「…まあ、もし私が何の権限も持っていなかったらこの『ステキ』なランチタイムは実現しなかったでしょうね」

 …あ、そうか。彼女係長だから、何食わぬ顔で部長を『リモート化』させられるのか。

 彼女に言われてようやく謎がとけた。

「…けれど、イオリに頼まれなければそもそも申請しなかったから、やっぱり一番凄いのはマスターの真意を的確に読み取った貴女だよ」

「…ああ。それは間違いないな」

「…恐縮です」

 ミヒトと俺の称賛に、イオリは頬を赤く染めた。

「…いいなー。マスターや彼女に誉められるなんて」

 それを『ミラ』が羨ましそうに見ていた。


「…おや、もしかしてまだ気付いていないのかな?」

「…え、何がですか?」

「君がこの場に居る理由だよ。…まさか、偶然呼ばれたと思っている訳ないよね?」

 やや呆れた様子で『ミヒト』は問う。……あ、まさかー。

「…気付かれましたか。

 そうです。あの日私達が個別で送迎して貰うための工作として、彼女は『体調不良』を引き起こすガスを何人かに吸引させる任務に就いていました」

「…はい。……っ!まさか、私に声を掛けたのは『面会』の……?」

 そこでようやく、ミラは自分が此処に居る意味を察した。…つまり、『ご褒美』の為である。

「ふう、『察する能力』はまだまだ未熟ですね。…という訳ですので、『出逢うきっかけ』を作った彼女にどうか後程褒美をお与え下さい」

「私からも、お願いいたします」

 ミヒトとイオリは深いお辞儀をして頼んで来た。

「勿論だ。…あ、もう一つ聞ききたい事がある」

「何でしょうか?」

「実はなー」

 俺は『夕方の仕込み』の準備に関する質問をした。


「ー…マスターダイスケ。どうして貴方はそこまでの事を考えつくのですか?」

「「……」」

 すると、ミヒトは驚愕の表情で聞いて来た。…残りの二人に至っはボカンとしていた。

「…そんなに驚く事かな?…で、どうなんだ?」

「…は、はい、可能です。

 ただ、その為には『サポーター』のとある機能を知って貰わなければなりません」

「分かった。後で教えてくれ」

「畏まりました」

「…じゃあ、ランチを再開しよう」

「「「畏まりました。マスターダイスケ」」」

 そして、再び俺達は食べる事に集中したー。



 -それから更に数十分後。ランチを終えた俺達は後片付けと部屋に設置された洗面所で四人仲良く歯磨きをして、いよいよ『ご褒美タイム』を始める事した。

「…んじゃ、まずは君からだ。さあ、俺の上に」

「っ!…はい。では、失礼いたしますです」

 彼女は一礼し、そっと俺に跨がった。

「…っ!」

「…おお」

 その瞬間、彼女は僅かに震え俺は余りの心地よさに感嘆の声を出した。…スラックス越しに伝わる柔らかい感覚に僅かに漂う甘い匂い……。パーフェクトだっ!

「…っ……。…あ、あの……重くない……ですか?」

 彼女は吐息混じりに聞いてくる。勿論、俺は首を振った。

「…そんな事、あるわけないだろ?それよりも、ほらー」

 俺は言葉を切り、彼女を密着させた。

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