新たなる日常②
ーはあ、なんか世界が変わって見えるな~。
俺は最寄り駅のホームで、今朝起きた『タノシイコト』を思い出していた。あの体験は、いつも見ているこの変わらない光景を違うモノにしてくれた。故に俺は、顔が緩むのをなんとか堪えながら電車を待っていた。…そんな中、ふとスマホ型の通信ツールが震える。
『ーNAME:-イ-所属の者』
…ん?なんだこれ?……ああ。
一瞬誰からの通信か分からなかったが、直ぐに『リモートメンバー』からの通信だと理解した。…なんか知らないが、彼女達は『生まれ変わる』まで決して名乗らないんだよな。まあ、特に気にならないし…いやむしろ『特別感』があって凄く良いから快く許可したのだか、こういう時ちょっと不便だな…ー。
そんな事を考えながら本文を読み始め…俺は思わず歓喜の雄叫びを上げそうになった。
『本文:おはようございます、マスターダイスケ。私は-イ(警護チーム)-所属の者です。
ちなみに、-担当-は営業部の長瀬という方です』
…アッブネー、一瞬我を忘れ掛けたぜ。しかし、何で彼女から通信が…?
『ー間もなく、二番線に電車が参ります。黄色い点字ブロックの内側にお下がり下さい』
…っと。仕方ない、後にしよう。
疑問を抱くが、アナウンスが流れた為ツールを胸ポケットにしまった。…そして数分後、電車が到着したので乗り込む。
「-あ。おはようございます、江口先輩」
直後、目の前の座席から物凄く聞き覚えのある声が聞こえた。…そういえば、彼女の通勤ルートと重なっていたんだったな。
目線を下に向けると、小動物の雰囲気を放つイオリがニコニコしながら座っていた。
「ああ、おはよう。『…なんか、良い事でもあったか?』」
その笑顔が社交的なモノでは無い事に気付いたので、サッとツールを出しトークアプリにメッセージを書き込んだ。
すると、彼女は僅かにコクリと頷いた。…っ。まさかー。
直感的にさっきの通信と関わりがある事を察していると、車内アナウンスが流れた。すると、彼女の右隣に座っていたサラリーマンが降りる為に立ち上がった。
「…隣失礼~。『ひょっとして、さっき来た-同僚-からの挨拶に関わる内容か?』」
俺は一応断りを入れて隣に座り確かめる。
「…先輩はいつもこの時間に?『流石です。
…実は、昨日マスターがお帰りになった後彼女に申請したんです』」
イオリは世間話を始めつつ、『スバラシイ』答えを返した。
「そうだな。…まあ、やっぱり早く行くとゆっくり準備出来るからな。『…何故、彼女に頼んだんだ?』」
真面目に返しながら、何故か『サイコー』の答えが返って来る事を期待して質問する。
「…そうですよね。『…単純に、気を張らずに済むからという理由です。それと、彼女を-リモート化-したらマスターがお喜びになると考えたからです』」
…一体、どういう教育を受けたらこんなパーフェクトな対応が出来るのだろうか?
俺は、彼女の自発的な神対応に驚愕と歓喜と感謝を抱いた。
「あ。そういえば、君はお昼どうするつもり?『…ああ、とても嬉しいよ。
そんなイオリには、何かご褒美をあげなくてはいけないな。…何か希望はあるか?』」
その問いに、彼女は少し考えた。…そして、返事を打ち込む。
「…まだ、自炊に慣れていないのでしばらくは食堂で済ませます。『…なら、昨日リーダー・イリアが体験した事を私にも体験させて頂けないでしょうか?』」
…なん…だと……?
衝撃の希望を出したイオリに、俺は凄まじく奮えた。だから俺は、高速で返信する。
「…そうか。じゃあ、後で『取って置きの席』を教えてあげよう。『良いよ。…じゃあ、昼前になったらその場所を送るから、彼女と一緒に来てくれ』」
「…『取って置きの席』ですか。なんだか、『ワクワク』する響きですね。『畏まりました』」
彼女は言葉通り『ワクワク』した様子で、すてな笑みを浮かべるのだったー。
◯
ー広報部フロア
ーフロアに着くと、まだ30分前にも関わらずほとんどの人が出社していた。…お、新人もだいたい揃っているな。感心感心。
そんな時、ふとフロアの休憩スペースから男性社員が近づいてきた。
「…あ、江口。おはよう」
「おはよう、山口。…体調は大丈夫みたいだな?」
その人物こそ、昨日の『作戦』の影響で謎の体調不良に見舞われた健康マニアの山口だった。
彼は、途端に申し訳なさそうな顔になった。
「…昨日は、本当に済まない。しかも、聞いた話じゃ江口は俺の代理までやってくれたんだろ?」
「気にすんなって。…お前には悪いが、そのお陰で『7年振りの再会』が出来たからな」
しかし、俺は最高の笑顔で返した。それを見た彼はホッとした。
「そうか。…だか、それとこれとは話が別だ。何か埋め合わせしないと、俺の気がすまない」
「ホント義理堅いな…。……なら、今日の終業までに考えておくよ」
真剣な表情で言う彼に、俺は瞬時に『思いつき』そう返した。…ああ、楽しみが増えたな。
「分かった。
-…ところで、どんな人と再会したんだ?」
そのまま話ながら二人揃って休憩スペースに向かい、長椅子に対面で腰を降ろした。
「…『高校時代凄く仲の良かった年上の友人』だよ。昨日、送迎の時にバッタリ再会してな」
「…まさか、新人の家族か?」
「正解。営業部の新人…確か槙村さんだったかな?…彼女のお姉さんには、高校時代に仲良くしてもらっていてな」
「ほー、世間は狭いな…。あれ?そん時に妹の方には会わなかったのか?」
「…家庭の事情で別々に暮らしていたらしい」
「…っ。そうか…」
俺の常套句に、彼はそれ以上聞いてこなかった。
-その後、他愛ない世間話をしている内に朝礼の時間が来た。
「ーはい。皆さんおはようございます」
『おはようございます!』
柳原部長が最初に挨拶し、彼の前に並んだ部署の全員で返礼する。
「…では、まずは本日よりこの部署に配属された新人を紹介しよう。
皆、前に来てくれ」
『は、はいっ!』
部長に呼ばれた新人達は、緊張しながら部署の人達の前に並んだ。…おお。
俺は右半分に固まった新人女子達を見て内心唸る。彼女達は皆、『ストライク』だったからだ。
「じゃあ、左端から自己紹介してくれ」
「は、はいっ!おはようございますー」
まず左端の新人男子が緊張しながらもしっかりと自己紹介し、その次の男子も堂々と自己紹介した。…まあ、緊張よりも嬉しさが勝っているからだろう。
ーそして、最後の女子が自己紹介を終えると部長の指示で新人達はこっちに戻った。
「…さて、新たに20人の仲間が増えた広報部だが早速大きな仕事が控えている。
…江口、なんだっけ?」
「二週間後に控えた、『花見会』の資料作りです」
俺は、部長のキラーパスを難なく返した。すると部長は大きく頷いた。…ふう、俺も大分慣れたな。
「…そう。二週間後に開催される、我が社の伝統行事『花見会』。その資料…会場への地図や必要な物等をこの広報部で作成する。
そして、新人諸君はその仕事を通してスキルを磨いて貰いたい」
『はいっ!』
「…では、以上で朝礼を終わりにする」
『はいっ!』
全員で返事をしそれぞれ自分のデスクに向かう…のだか、俺は部長のデスクの前に残った。
「…さて、昨日伝えた通り君たち10人には二人づつ教育をして貰う」
『はい』
「…では、担当する新人達を通達するー」
-そして組分けは終わり、俺の前には二人の新人男子が立っていた。
「…さて、朝礼の時に名前を聞いただろうが改めて名乗らせてもらう。
二課所属の江口だ。宜しく」
「「宜しくお願いします」」
笑顔で名乗り、向こうも笑顔でお辞儀をした。
「んじゃ、まずは自分のデスクの確認からだ。
基本的に、今日やる分は事前に係長さんがそれぞれのデスクに置いてくれている。…まあ、他の部署同様直接上司から頼まれたり自分で準備したりもするが、現時点では無いから安心してくれ」
二人のデスクに向かいつつ、軽く説明を挟む。そして、二人のデスクに着くと説明通りファイルが既に置かれていた。
二人は直ぐに座り、ファイルから紙を出して確認した。
「…さて、内容を確認したらいよいよ仕事開始だ」
二人が目を通す最中、俺は内ポケットから細長い紙を取り出した。
「…はい。これに書かれているパスワードを入力して、パソコンを起動しよう。ちなみに、キーワードの紙はパソコンに貼らずに自分で保管しような」
「「はい。…ありがとうございます」」
二人はそれを受け取り、パソコンを立ち上げた。
「じゃあ、今日は『その課題』をやって貰う。報告は、一枚ずつ直接俺にしてくれ」
「「分かりました」」
「んじゃ、頑張ってな」
「「はい。ありがとうございます」」
俺は二人にエールを送り、自分のデスクに向かったー。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます