邂逅④
ーああ。本当に、最高の体験だったな…。
『…思い出されたようですね』
「ああ。…そうか、あれから7年も経ったのか。
-随分と時間が掛かったようだか、途中で『迷ったり』でもしたのか?」
俺はふと、『確認』の意味を込めて聞いてみる。
『…やはり、貴方には敵いませんね。まさか、我々が-異邦人-である事に気付くなんて』
「まあ、過去の経験と今日起きた事を併せるとそれぐらいしか答えはないだろう。
しかし、やっぱりあの時はマジの『遭難』だったんだな?…無事に故郷に帰れたようでなによりだ」
『っ!ありがとうございます。…貴方のおかげで私は命を繋ぐ事ができ、そして母星への安全に帰還する事が出来ました』
「それはなにより。…しかし、ちゃんと帰れたのになんで来るのに迷ったんだ?」
『……』
その時、彼女は非常に気まずそうな顔をした。あ、これはひょっとして-。
『…座標を確認してなかったな?』
『っ!?なんで分かるんですかっ!?』
「…いや、この星より遥かに文明進んでそうな所の最新鋭システム使って迷うとしたらそれ以外の答えはないだろ?」
『…うっ。…ええ、私はどうせポンコツ船長ですよ……』
ツッコミを入れると、彼女はいじけ出した。なんか、会った時とは随分と印象が違うな。
俺はそんな彼女を更に愛おしく思い、話しを先に進める意味も込めてフォローを入れる。
「ポンコツだなんて思ってないよ。…第一、そんなヒトだったら『彼女達』は今も宇宙をさ迷っていただろう。
けれども、今君達はここにいる。それは間違いなく君という優秀な頭脳と的確な指示、そしてカリスマ的なリーダーシップに絶大な信頼を持つスーパーキャプテンが居たからだ」
『…っ!…エヘヘ、それほどでも~』
俺のホメ殺しに、彼女は瞬時にニヤニヤし可愛らしく照れた。…はあ、今この場に彼女が居なくて良かった。間違いなく、居たら『復帰戦』を仕掛けていただろう。
『っ…。…さて、それではまずは自己紹介をしましょう』
僅かに昂るのを感じていると、彼女はハッとし咳払いをした。…そういえば、名前もしらなかったな。
『私は、ア・スンイア・カスリです』
「…なるほど、こっちの言語に直すと凄い独特な名前になるのか。
じゃあ、これからはアンリって呼ぼう。良いよな?」
なんか覚えにくかったので、愛称を考えてみた。すると彼女はー。
『…アンリ、…アンリ…はい。素敵な愛称を下さりありがとうございます』
二度ゆっくりと呟いた彼女は、華のような笑みを浮かべた。
「気に入ってくれてなによりだ。
あ、ちなみに俺の名前は江口大助だ」
『…大助様ですね。……-』
今度はこちらが名乗ると、アンリはなにか言いたげな顔をした。
「…もしかして、なにか特別な敬称で呼びたいのか?」
『…はい。ダメ…ですか?』
…っ!?『こっち』の事、研究して来たのか…?
子犬のような目をしたその問いに、脳とハートは凄まじい衝撃受けた。
「…良いよ」
『っ!じゃあ、マスターダイスケって呼ばせて下さい』
かろうじて許可すると、彼女は既に決めていた呼び方を提示した。
「…理由を聞いても良いか?」
『…これより私達は、貴方に永久の忠誠と服従を誓います。だから、貴方は私達のロード…つまり、-ご主人様-になって欲しいのです』
「……。…ハ、ハハハ…。
-ハッハッハッハッハッ!良い心掛けだっ!」
その言葉を聞いた直後、俺は高笑いをしていた。…ああ、本当に『良い出逢い』をしたな。
もはや、俺の心は『性欲』という名の欲望に支配された。…それが、何をもたらすのかを理解した上で。
「…なら早速、最初の命令を出す」
『何なりと』
「君達が『生まれ変わる』瞬間を、できる限り見届けさせてくれ」
『…っ!イエス、マスターダイスケ。では早速、見届けて頂けますか?』
彼女はとても嬉しそうにしながら頭を下げ、とても嬉しい事を言った。
「…驚いたな。てっきりあの二人を始めとするここの住人は既に『スタート』しているとばかり思っていたんだが…」
『フフ、マスターがそう仰れる予感がしていたので、オートリモートとマニュアルリモートのみ留めていましたから』
「良い勘している上にナイスな判断だ。…そして分ける基準は男女別…いや『攻略不可能と対象外』か『俺が気に入りそうなヒト』だな?」
『…流石のご慧眼です』
すると、アンリは熱く尊敬の念の籠った眼差しを向けた。…いやはや、パーフェクトメイドだな。
『…では、ナベアとラゴリは速やかに入りなさい』
俺が感心していると、彼女は宝石に向かって指示を出した。すると、部屋の住人である新入社員の娘とその姉が入って来た。…その格好に思わず唾を飲んだ。 二人は、白無地のボディラインがはっきりと分かるワンピースを着ていたのだ。
『二人共、マスターに-生まれ変わる-瞬間を見届けて貰いなさい。…その手法は、この間説明しましたね?』
「「はい…」」
二人は、やや困惑しながら頷きどこからともなくカプセル剤を取り出した。そして二人は互いの顔を見て頷き、カプセルをパクンと口に入れた。
「「っんく…。……っ!……ああっ!」」
直後、二人はその場にしゃがみ込んだ。…かと思えばバッと天井を見上げ大きな声を出した。…っ!
その一連の動作をじっと見ていた俺は、直感的に姉が『生まれ変わった』事を察した。
すると二人は、がっくりと項垂れそしてこちらを向いた。
『-生まれ変わった気分はどうですか?』
「…どうしてでしょうか?この感情を言葉にする事が出来ないんです」
「私もです…」
微笑みを浮かべたアンリの問いに、二人は両の瞳から涙を流しながら困惑していた。
「…うらやましいな」
ふと俺は、姉を見てそう呟いた。
「…うらやましい?私達が…?」
「どうしてですか?」
姉と妹は、その真意を問い掛ける。
「…だって、俺はまだ経験した事がないからな。
-嬉し泣きするような感動的な体験は」
「…嬉し泣き。私は…今、喜んでいるのですか?…長い旅を終えた時でさえ、こんな風にならなかったのに…どうして?」
『-二人共、まずはマスターダイスケにご挨拶しなさい』
戸惑う二人に、アンリは優しくしかし有無を言わさない様子で指示を出した。
「…っ!失礼しました。私はイ・アダイリ・ナベアと申します。初めまして、マスターダイスケ」
「わ、私はイ・リワマオ・ラゴリです。初めまして、マスターダイスケ」
姉はスッと立ち上がって名乗り、それに続いて妹も名乗った。
「ああ、宜しくな。…『イリア』に『イオリ』」
「「…っ。…はい」」
早速愛称で呼ぶと、二人は少し戸惑いながら頷いた。…ふむ、まだちょっと距離を感じるが直ぐになくなるだろう。
『…マスター、二人の生まれ変わりを見届けて頂きありがとうございます。
では、今日のところはこれでお開きとしたいのですが宜しいですか?』
「そうだな(…うわ、もうこんな時間か)」
ふと、腕時計を見ると時刻は9時を回っていたので顔をしかめてしまう。
「…あの、マスター。ご自宅までお送りしましょうか?」
すると、イリアがそう申し出た。…これは、ひょっとしてー。
『-そうですね。…せっかくですし、マスターには我々の移動方法に慣れて頂きましょう』
「…やっぱりか。一応確認しておくが、周辺やマンションの住人には気付かれないんだよな?」
『勿論ですとも。マスターのご自宅周辺には既に-送迎時-にオートで起動する人避けのバリアフィールドを設置しております』
「言い手回しだ。…じゃあ、お願いしよう」
「畏まりました。…それではお手数ですが私の部屋に来て頂けますか?」
「分かった。…じゃあ、アンリはまたいつかに。イオリは明日また」
『はい。いつか直に会える日を心待ちにしております』
「は、はい…」
アンリはにこやかに、イオリは未だに緊張しながら応えた。
「(-っ!そうだ…。)そういえば、イオリ。君の教育係は誰だか分かるか?」
ふと、『最高のプラン』を思い付いたので彼女に『おそらくまだ決まっていない』事を尋ねた。
「…い、いえ。まだ決まっていません…」
「じゃあ、決まり次第…そうだな-」
俺はポケットからスマートフォンを取り出し、ノートパソコンの前に置く。
「-これと同じ形の『ツール』と別タイプの二つを用意出来るか?」
『はい。直ぐに用意させます』
「…てな訳で、決まり次第それに送ってくれ。んで、もし『下準備』が出来るようなら同時に送ってくれ」
「は、はい。分かりました」
「頼んだぞ。…では、行こう」
「畏まりました-」
俺は彼女の後に続き隣の部屋に入った。そして、数分後には住んでいるマンションの前に到着するのだった。
-こうして、俺にとって『最高な新たな人生』の初日は終わった。…そして、明日からは『欲望に染まった日々』が始まる。
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