第33話 登城
そしてとうとう、首都アドゥーラに足を踏み入れる日が来た。
ここまで魔女の妨害らしきものは全くなかった。
全ては王城で決着をつける気でいるのだろうか。
私も魔女が何を欲しているのかと考えて、その為に何をしてくるだろうかと思案したりした。
個人的に王に恨みがあるなら、すでに殺してしまっているはずだ。
魔女は王城に入り込んでいる。
送られてきた手紙の内容からして、魔女の影響下にあると想っている。
軍国と揉め事を作ったのは、戦わせ兵を疲弊させるのが目的だと、踏んでいる。
その隙をついて、王城に潜り込もうとしていたのではないだろうか。
王を殺すだけなら、王城に潜り込むなんてしなくても出来る。
ではなぜ、そんな面倒な事をするのだろうか。
それはきっと、ル・アドゥフーリカ皇国王族を滅ぼすつもりなのかも知れない。
自ら王位について、国を好き勝手したいのかもと思った。
それには、自由に操れる王が要る。
なにも現国王でなくても、新たに迎えた皇子なら、何かと都合が良い。
全ての責任をなすりつけるには、おあつらえ向きだ。
では皇子をどう操るか、一番在りそうなのは、人形の姫を元に戻してやると、脅すのが手っ取り早い。
そう、私は肉体を活かす為に、捕らえて監禁するのではと、思っている。
私を捕らえてしまえば、教国の騎士団も迂闊には手を出せなくなる。
下手をすると、この前の仕返しでも、しかねない。
教国の人達には、王城に居る者達は、魔女に操られている可能性があると、繰り返し伝えてある。
私とジュゲンズが離れる事はないだろうけど、騎士達と引き離すのは容易だ。
その手の話には乗らないようにと、お願いしてある。
話をするにも、私達が揃った状態でするべきだ。
「貴国、ル・アドゥフーリカ皇国御息女、カトリーヌ・ルスゼント様並びにル・アドゥフーリカ皇国、第二皇子ジュゲンズ・オフィリード様をお連れした!開門を! 」
城門の前で声を上げるのはクォルティーガ教国白薔薇騎士団長ロメール・シニョン。
返事もないまま、門が開きはじめた。
ここへ来るまで町も平和そのもの。
兵が多数配置されてもでもなく、特別変わった様子は見受けられなかった。
「ふむ…… やはりな…… 」
開け放たれた城門をくぐると、城内には所狭しと兵が、ひしめいていた。
鎧で身を固めた騎士が盾を構えている。
窓やベランダには、弓矢を構えた兵がいない場所がないほど。
城の入り口まで道を空けて、兵達は動かない。
どう考えても袋の鼠なのに、ただそこに、立っている。
「逃げ道はないと言う事だ…… 」
ロメール団長は覚悟を決めた様子だ。
私とジュゲンズの乗る馬車に進むと、伝令を寄越して、ゆっくり列は動きだした。
城の入り口で、馬車を降りる。
通路沿いには兵が並んでいた。
臣下がそこで待っていた。
定かではないが、確かオーレスタではないだろうか。
「良くいらっしゃいました、 ご案内致します…… 」
「城内に魔女は? 」
「さあ、分かりません…… 」
どうやら、いるらしい。
顔にそう書いてある。
やはり、面倒な事になるのは避けられない。
私とジュゲンズが並ぶ。
シスターエレノーラと、ロメール団長がその前後を歩く。軍国の護衛とその他の騎士が前後を守る。
「王様が、謁見の間でお待ちです…… 」
そこが、決戦の舞台になるらしい。
こんな建物の中では大きな魔物は呼び出せないのではと、いらぬ心配をしながら、通路を進んだ。
"ギィ" と、軋む音をさせて、背の高い扉が開いた。
ーーー!
謁見の間の奥、対の椅子が設えてある。
王と、お后の為の椅子だ。
そこには、王、お后、そして、人形の姫の3人がいた。
黙って歩みを進める私たち。
「良く来た 」
王が口を開いた。
「遥々、遠い道のりをよくぞこ無事で…… 」
お后様が優しそうな声音で労う。
「私の体! 早く返しなさい! 」
人形がツカツカと出てきた。
私に向かい、そう告げる。
「これ、挨拶も済んでおらんではないか、 カトリーヌ…… 」
「だって、お父様…… 」
人形が渋々引き返した。
あの人形は私だ。
受肉する前の人形だった頃の私だ。
おかしい。
受肉したはずなのに。
なぜ姫と呼ばれる人形が私に肉体を返せと言うのだろう。
各々が名乗りを上げ、挨拶を交わす。
私の番になると、王が手を掲げ、止めた。
「良い、分かっておる。今まで姫の身代わりご苦労じゃった 褒美を後でとらせよう、 して、その体、提供して貰う訳にはいかんか? 」
「この体ですか? 」
「そうじゃ、魔女様に頼めば我が姫が人形から人に戻れるらしいのだが…… 」
「いえ、魔女は、いけません! 」
ジュゲンズが、口を挟んだ。
「それは、分かっておる、 その上で申しておるのだ、 人形の体のまま輿入れさせるには忍びのうてな…… さすがに子も成せまい? 」
教国の人達は、黙って聞いている。
狂っている筈の王の言動が至極まともでとまどっている。
ジュゲンズの目配せに護衛が首を振る。
「その手配は、我が国にて行いましょう 魔女の手を借りるのだけは、おやめ下さい 」
「ほう、人形のままの姫との婚姻でも構わぬと言うのか? 」
「いえ、こちらの方と…… 」
「その者は身代わりじゃ、国の民を騙す事になる、そのような婚姻は認められん…… 」
王様の言い分は真っ当でしかなかった。
教国の人達を刺激するような言葉を重ねる。
身代わりを軍国に遣わしたのは、本当の姫は人形になっていまったと、密かに伝えに行かせただけだと、言い張る。
私が姫の座を狙って、本物に成りすまそうとしているような言い回しだ。
ここで私を排除するのが目的なのだと分かった時には既に時遅しだった。
教国のシスターが、ジュゲンズに、"王様の仰せの、通りでは?" と言いだした。
「姫様を人形に変えたのは誰の仕業でしょうか?」
「いや、かねてより我が王族に掛けられた呪いらしいのだがな…… 」
魔女を非難するような言葉は一切で来ず、私達の旗色は悪い。
教国の人達が王様の言い分を、既に信じはじめている。
まさかの正攻法で、言いくるめられるとは予想してなかった。
下手な言い訳は墓穴を掘る。
私はジュゲンズと顔を見合わせた。
護衛が、懐に手を入れ、ジュゲンズに許可を求めるように顔色をうかがっている。
最終的には現国王を殺してでも王位継承をと、口にしていた。
それをしたら、間違いなく教国の騎士は敵に回るだろう。
魔女と三つ巴の戦いなんて目も当てられない。
人形の刺すような視線の前で、私は考えが纏まらず、嫌な汗が背中を伝うのを感じていた。
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