第32話 昼ドラ



 2枚目は臣下オーレスタからのものだ。

 "姫様、国をお救い下さい" と書き出してある。

 王は気が触れてしまった。

 お后様と人形を殺して火をつけ亡き者にしてしまった。

 逆らう者は容赦なく罰し、何も無い空を見ては、急に恐れ隠れだす。

 夜な夜な魔女が、殺しに来たと、叫んで騒ぐ日が続いている。

 これでは臣下一同参ってしまう。

 姫様に戻って貰い、国を継いで欲しいと結んであった。

 その具体的な内容までは、あかされてない。

 まずは、イエスかノーか意向を聞きたいらしい。

 目の色を変えたのは軍国の護衛達だ。

 これ以上ないシナリオが、目の前に転がってきたのだ。

 これなら教国の騎士達にも言い訳が立つ。

 挨拶しようも、国王は危うい状態だ。

 国を救う為、臣下の言う事に従い国を継ぐ事にしたとすれば全てが、丸くおさまる。


「これ、都合良すぎないか? 」


「あー…… 」


 意外とジュゲンズは冷静だった。

 狂った王が本当に文をしたためるだろうか。

 既に王は魔女の配下にあって、姫をおびき寄せる為に、こんな都合の良いことを並べた文を送らせたとしたら、王城では私達を捕らえるべく、兵が集められ、幾つもの罠が用意されているのでは? と、仮説をといた。


 何が真実で何が嘘か見極める必要がある。

 けれど、それには材料が少なすぎる。

 危険とも安全とも言える。


「シスターエレノーラの意見を聞いてみようか? 」


 教国から見て、冷静な判断を仰ぐのは悪くないと思われた。


「ほう…… これは…… すぐに向かうべきでしょう? 王が御乱心なさっているのですよ? 」


「いえ、その信憑性が疑わしくて…… 」


「え? これ、嘘ですか? 一国の王が嘘をつくのですか? 」


 融通の利かないお国柄なのを忘れていた。

 彼女らの中に "嘘" は存在しない。

 

「ですから、既に魔女が潜り込んで、王に命じてわざと書かせた可能性があると思いませんか? 」


「魔女ですか…… なるほど、確かに怪しい。

 あの性悪魔女が思いつきそうな稚拙な作戦ですね! こんなのに、引っ掛かるたわけがいたら、顔を見てやりたいくらいですわ! オホホホホ……」


 さっきまで、信じていたような発言を聞いたかばかりなのだけど。

 

「はあ…… 」

 

 教国の人は、このような謀には絶望的に向かないのが分かった。

 いい大人が無垢で純粋でいられるとは思わないが、彼女らは努めてそうありたいと願っている節がある。

 きっと教義に似たような事が謳われているのだろう。


 あと、この手紙にも出てきた "人形" の記述。

 人形は私だけだと思ったが、もう一体、存在するのは間違いなさそうだ。

 しかも王城に。

 魔女を捕まえられたら、受肉の儀式やり方を教われば、その人形も救ってあげられるのに。

 魔女を捕まえられたらの話だから、望み薄なのが残念。

 きっと殺るか殺られるかの壮絶な展開になるとしか思えない。

 "命だいじ" で行こうと思う。


 皇国の遣いに渡す文面は、軍国の護衛たちが考えた。

 "急いで駆けつけたい気持ちでいっぱいだが、護衛してくれている教国のシスターの消耗が激しくて回復まで時間がかかる見込み" と、返事をした。

 いたずらに騒ぎを広げるのは、要らぬ憶測を呼ぶので新たな護衛など、無用だとも添えて。

 

 魔女にとってシスターの魔法は、一番目障りなはず。

 そのシスターが消耗してると聞けば、油断が生まれるのではと、考えたそうだ。

 魔女にとっても都合いい情報をくれてやろうと言う配慮だ。

 気遣いの悪人ぶりには恐れ入る。


 以後、私達の存在は公然の秘密となった。

 特に私は顔を晒すのは厳禁。

 軍国の第二皇子さえ、姿見たさに注目を集めていた。

 ただでさえ目立つ白薔薇騎士団の鎧が、さあ、来ましたよと、観衆に告げているのと変わりない。

 行く先々の町で、静かな歓迎を受ける。

 先発隊による補給や宿の確保は、この上ないほどスムーズに済むらしい。

 噂では、皇国の姫が約束通り軍国の皇子のもとに輿入れに訪れてみれば、2人いる皇子の間で、姫の取り合いとなり、遂には第二皇子が姫を連れて駆け落ちし、教国に逃げ延びて皇国の王を頼りに里帰りの途中となっている事らしい。

 その間には皇子同士の決闘や2人いるお后同士の軋轢など、ドラマチックな内容で話が膨らんでいるとか。

 なので、お忍びで里帰りに来た若き2人の王族を民衆は好意的に思っていた。

 唯一、それだけが、助けになった。

 誰が考えた脚本だろうか。

 昼ドラの脚本でも手掛てた人に、違いない。

 まさか軍国の護衛の仕業だとしたら、素晴らしい活躍だ。

 実際は違ったらしいけど……。


 こちらの動きは敵には筒抜け。

 そんな状態でも行くしかない。 

 首都へ繋がる道を急ぐ。

 相変わらず、シスターの具合いは悪い事にしたままで。

 黒い馬車を、囲む白と赤に塗り分けられた鎧の集団。

 目立たぬように、なんてするだけ無駄だ。

 庶民にとってこの集団は、良くない噂が絶えない王城から国民を救う救世主のように、見えたことだろう。

 実際のところ、全くその通りなのだが、軍国の護衛は多少手荒な真似をしてでも皇子に王位を継がせるつもりだ。 

 それが教国の騎士達の目になるべく触れずに済ませるられるかによって、今後の対応も違ってくる。

 魔女退治は教国側にを任せて、自分達は王位継承に注力する。

 そんな虫のいい話が実現するかどうかは、姫様の身の振り方一つで変わるかも知れないのだ。

 この頃は、軍国の護衛と姫の打ち合わせが頻繁に行われていた。

 あらゆるパターンを想定して、王位を継がせるつもりらしい。

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