第31話 逃げきり



 騎士の剣は、光を纏う。

 闇の者には、ひどく効きそうな刃が滑る。


ーーーガキッ! バンッ!!


 骸骨の脛の骨が一刀両断の憂き目にあう。

 これは、相手が悪すぎだ。

 派手に登場したぶん、肩透かし感が拭えない。

 足をやられ、手をつく骸骨。

 盾と剣を杖代わり立ち上がろうもするも、飛び掛かる騎士により、その腕も粉砕された。

 盾が倒れ、剣を手放す。

 あれよ、あれよと言う間に骸骨は倒されてしまう。

 見かけ倒しとは思わないが、相手が悪すぎた。

 それに尽きる。


「きゃっ 」


「大丈夫かい? 」


 不意にジュゲンズに手を引かれる。

 護衛達が周りを囲む。


 「糞生意気な娘だよ! 後でみな! 」


 「うわっ! 」


  死んだ筈のエリートの亡骸が動き出した。

  魔女の元へ駆けだす。

  騎士も誰もその光景に呆気にとられる。

  "逃げる気だ" 私はピンと来た。

 エリートの足に向けて魔法の槍を放つ。

 後ろからだから、避けようがない。

 見事、エリートの死骸の尻を突き抜ける。

 ガクンとエリートは前のめりに倒れた。

 それでも諦めない。

 四つん這いでも軽快な、動きを見せる。


 皆の見ている前で魔女は四つ足のエリートに乗ってその場から逃走した。

 騎士達が追いかけるも、 巧みな逃げ足で後続を振り切って逃げおおせたらしい。


「どうぞ…… 」


 ヴェラディがガウンを肩にかけてくれる。

 はじめて私は自分の格好に気がついた。

 寝巻きは千切れ、後ろが、丸出しだった。

 背中から尻から大開放状態。

 ガウンでそれを隠した。


「良く気がついたね、 ヴェラディが言ってたよ 」


「姫様、大活躍でしたわ、 魔法も筋が宜しいようで…… 」


 団長ロメールさんがそう評してくれた。


「あの手練れを相手に時間稼ぎするとは、なかなかで来てる事ではない…… 」


 ラッセルからも褒められた。

 

「あ、いえ、あの、 ありがとう…… 」


 剣を鞘に戻した。


 片付けがはじまる。

 みな総出だ。

 町の端の方の民家を借りたので、他の建物の被害は、少ない。

 少ないと言うだけで、無い訳ではない。

 夜中の大騒ぎで他の住民も起き出していた。

 巨大な骸骨を見て逃げ出す者もいたとか。

 まあ、無理もない。

 それを退治して見せた白薔薇の騎士達は一躍有名になった。

 隠密行軍もこれまでだ。

 これだけ目立ってしまえば、噂が出ない筈もない。

 人の口に戸は建てられぬ。

 私が話題にのぼらなかったのは唯一の幸い。

 姫様が寝巻き姿で剣を振り回していたなんて言われたら目も当てられない。

 

 どうにか魔女は退けられた。


シスターと騎士の強さばかり目立つ戦いとなった。

 魔女バスターは教国にあり、だ。

 軍国の護衛も地味だが、役目は果たした。

 そんな中、ジュゲンズの私への評価が赤丸急上昇中。ストップ高を突き抜ける勢いだ。

 暗殺者確定とかで引かれるのかと、思ったら、逆だった。

 なんでも、母親の影響らしい。

 強い女が好きらしい。

 それなら、団長を紹介してあげればいいのに。

 ヴェラディだって相応に強い筈なのだけど。

 彼女は、既に "済み" なのを忘れていた。

 

 皇子と姫が仲良しなのは、善き哉と、周りも誰も止めないし、見て見ぬふりをする。

 体を触ってくるようになって、私は毎日が地獄だ。

 男にベタベタされるのは、やはり駄目だった。

 触られて感じてしまう時もあるのだけれど、どうしても嫌悪感が涌いてしまう。

 男嫌い、絶賛発症中だ。

 はじめは、手を握るとか、肩にちょっと触れる程度。

 全然気にならないし、別にどうと言うことでもない。

 それが徐々にエスカレートしてくる。

 肩に触れるではなく、肩をがっつり掴まれた。

 そして引き寄せられる。

 顔がすぐ近くまて迫ってくる。

 何かされるのではと、気が気でない。

 腰に手を廻され引き寄せられると、逃げようがなかった。

 前かがみになると、腕をまわして肩を抱かれる、余計触られるからと、背は丸めないようにしてる。

 これを、食事のたび、移動するたびに警戒しないといけなくなった。

 されても、迎合しない、あからさまに拒否もしない。

 のらりくらり、のらりくらり、躱すしかない。


「ふう〜っ…… もう、いや…… 」


 ベッドに身を放り投げた。

 

 進路は首都に向いている。

 日々、着実に前進していた。

 噂が噂を呼び、私達の行軍は、有名になってしまった。

 あれから魔女も影を潜めている。

 そんな中、皇国側からの遣いの者が現れた。


「国王様より、姫様にお届け物をお持ちしました 」


「まあ、お父様から? 何かしら…… 」


 数回しか会ってない初老の男性をそう呼ぶのだから、滑稽な話だ。

 自分でもそう思う。


 受け取りこそ、教国、軍国の人達の前でしたが、その場で開くようなことはしない。

 軍国関係者と、私だけの部屋で、文の蝋印を外す。


「ええと、これは…… 」


 国王からの文ではなく、臣下からものだった。

 冒頭に代筆と断り書きがあるから、そうなのだと思うしかない。

 内容は、ちぐはぐで支離滅裂だ。

 軍国では達者にしているか?と、気遣う反面、なぜ、帰ってくる? と非難してきた。

 子はまだかと書かれた後に、ザドグリフ(軍国国王)の首を取ってこいと命じている。

 リーリャ(お后様)が、心配してると書かれた次の行にはリーリャは死んだと記されていた。

 そして、魔女への恨みつらみが、数行に渡って書き連ねてあった。

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