第26話 旅の途中


 総勢30人弱が一度に泊まれる建物など、おいそれとお目にかかれる訳もなく。

 ル・アドゥフーリカ皇国の1日めは、民家を2つ借り上げて、そこに泊まることとなった。

 国境の町なら多少大きな建物も見受けられたが、少し離れるとその賑いは嘘のように消えてなくなる。

 穀倉地帯らしく、広大な畑の真ん中に寄り添うように建つ家々に、大人数で押しかけるのは最早迷惑でしかない。

 嫌な顔一つせず、迎えてくれる村人に感銘を受けていたのはなんと、クォルティーガ教国出身者だった。

 犠牲となり不便を強いられても笑顔と感謝を忘れぬ姿こそ、アリスト・ラテラス教の信望するあるべき姿なのだとか。

 

「やはり、聖地を抱える土地は、住むだけでもご利益がいただけるのでしょうか? 」


 キラキラした目をして言う中央区第三位シスターさん。

 領民を褒められるも、私の胸には何も響くものはない。

 所詮は身代わりだから、領民より自身の身の振り方にしか興味がない、と言ってしまえば、身も蓋もないが、そうなのだから仕方がない。

 今は姫殿下と無条件に称えてくれるが、偽物だと分かれば、騙した、大罪人だと追い立てられても不思議ではない。

 更に、どこに魔女の、魔の手があ伸びているか分かったものではない。

 これからが勝負だと、気を引き締める私。

 そんな私に、ヴェラディは、食事の都合上、ジュゲンズ様と共にしていただきますと、伝えに来るのだった。

 別に部屋数も少ないだろうし、ただの都合でそうなったのだと、私は何も疑問を、感じてなかった。


「やあ、久し振りだね、一緒に食べるのは…… 」


 先に席についていたジュゲンズが迎えてくれる。


「はい、そうですね…… 」


 ちょっと雰囲気が変だ。

 ジュゲンズの後ろにはヴェラディ、ラッセルをはじめとして、カラフセィカ軍国の護衛達が勢揃いしていた。

 たかが食事で、これはない。


 私は固唾をのんでジュゲンズの言葉を待った。


「カトリーヌ・ルスゼント様、殿下をはじめ私共カラフセィカ軍国の者は、あなたに重大な疑義がございます…… 」


 口火を切ったのはヴェラディだった。

 ジュゲンズが後に続く。


「君の立場が微妙なのは、僕も理解しているつもりさ、 別に正体を暴こうとか、そんな不毛な話をしたいとは思ってない。

 これから、貴国の王城に向かう道程で魔女が仕掛けてくる可能性は高い。お互いに背中を預けて戦う場面だって出てくるかもしれない、そんな時に、敵が増えるなんて、考えただけでゾッとしないだろ? 」


「お前の目的はなに? 返答如何によっては、ここで斬り捨てることも辞さない覚悟で聞いてます…… 」


 ヴェラディは普段見せた事のない鋭い視線を私に向けて来た。

 敵を警戒するいち、護衛としての姿を露わにした。


「目的ですか…… 」


 私は、正直、どうこたえるべきが計りかねていた。

 開き直って、魔女からもお宅のお母さんかりも命を狙われていると、言うべきか。

 魔女と繋がりがあると言うのは悪手だから、魔女に脅されてるとでも言えばいいだろうか。

 そもそも、暗殺者とバレでいるのだから、カラフセィカ軍国にとっては敵である事に変わりはない。

 しかし、第二婦人リャクニーヤ様に寝返ったから今は敵ではないと知っているはずだ。

 ここ、ル・アドゥフーリカ皇国内においては、私が居ると、居ないとでは、彼等も立場が危うい。

 だから、信頼とは言えないまでも協定のようなものを結ぼうとしているのかもしれない。

 融通の利かないクォルティーガ教国の援軍達からも話が違うと離反されたら、絶対絶命なのだ。

 立場が危ういのは彼等の方だ。

 それに気付いた護衛達が、この場を設けさせたのだと話が見えてきた。

 意外と私、ここでは有利な立場に立っていたりするのかも。


「イヤですわ、ヴェラディさん、そんな怖い顔なさって、私を殺す気ならいつでもお好きな時にどうぞ…… ジュゲンズ様が守ってくれると思いますけど。 私の望みはただひとつ、ジュゲンズ様にこの国の王位に就いていただくことです…… その為なら、喜んで他国とも手を組みましょう…… 怖い魔女が、邪魔をしてくるでしょうから 」


 その場にいる者全てが、私の言葉の意味を噛みしめるように静かに佇む。


「ほら、やっぱり、彼女は敵じゃないだろ? 」


 面相を崩して、そう言ったのは第二皇子ジュゲンズ。


「………。」


 ヴェラディは言葉の裏の裏まで、考えてるようで難しい顔を崩さない。

 

「リャクニーヤ様を負かす実力者だと聞いています…… 」


 苦し紛れの反論だ。

 ヴェラディは護衛なだけあって疑り深い。


「魔女に殺されくないと思って鍛えてきただけですわ 」


 "皇子を暗殺する為では?" と睨む視線が言っているような。


「ヴェラディ、もう疑うのはよそう、僕が王位に就くまで彼女は協力してくれると言っているんだ 」


「はい、 その為にここまで参ったのです 」


「………。」


 ヴェラディは、それ以上反論しなかった。

 ラッセル達も何も言葉を発しない。

 場の雰囲気が、張り詰めたものが、溶けるようになりつつあると感じられた時だった。


「御二方、何か訳ありですの? 」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る