第25話 検問所



 クォルティーガ教国に入って、首都に着くとジュゲンズはカトリーヌに、疑惑を投げかけてみた。

 "たとえ偽物であっても" と。

 反応は微妙なものだった。

 少なくとも驚いて固まってしまうようなことはなかった。

 ヴェラディが言うには、第二婦人を負かしてしまうほどの実力を持った暗殺者なのだと。

 カラフセィカ軍国の皇子2人を暗殺者する目的で、送り込まれたとか。

 何度もそのチャンスはあっただろうに、一向に尻尾を出さない。


 今はリャクニーヤ様に寝返り、一生、偽の姫を続けるよう命じられていると、ヴェラディは皇子に伝えなかった。

 いつまた反旗を翻すか分からない相手だ。

 純な皇子は警戒したままの方が安全だ。

 これは、護衛としての判断だった。

 ラッセル以下護衛全員で認識を共にしている。

 全ては皇子様の為。

 全ては護国の為である。



◇◇◇◇◇



「ル・アドゥフーリカ皇国にはよ、娼館があんだろ? 」


 先輩のレンチェルはやや鼻息が荒い。


「確かあったと思うけど? 」


「先輩、娼婦買うんですか? 」

 

 後輩のシスシルもちょっと意外そうな顔をする。


「男の方な、アタイも晴れて女になりてぇからさぁ……」


「ああ…… 」


 私と二人はその後も一緒に食事をしたりして、仲良くしている。

 この前は二人を部屋に招いてお酒を飲んだ。

 ちょっと私のストレス発散に、お付き合いいただいただけ。

 女の子は私の大好物だと、確信した。

 こんな道も有りだと思う。

 先輩のレンチェルは話し方もアレだけど、体の方もアレだった。

 だらしのないお腹はポクッと出てて、胸もタレ気味で、若い筈なのに、中年のような締りのない体つきをしていた。

 聞くと二十代中盤だとか。

 後輩のシスシルは、ギリギリ十代で、体もその通り。

 どちらも私より年上だけど、一緒に楽しくベッドの上で過ごせた。

 私のお尻を触ってくる先輩の手つきがいやらしい。

 尻フェチなのだろうか。

 シスシルとは触って触られて、相性は良いように思う。

 二人で、先輩を責めたら "らめぇ、お"か"じぐな"る"!" と、女言葉を言わせて勝利した気分になった。

 ヴェラディが留守の間の、つかの間の息抜きだ。


 あと数日で、ル・アドゥフーリカ皇国に入る。

 クォルティーガ教国内では魔女の影は嘘のように全くない。

 しかし、それもあと数日の事だと思う。

 魔女もクォルティーガ教国は苦手なのだろうか。

 この国を経由したのは好判断だった。

 白薔薇騎士団など彼女らを味方につけたのも。

 国を出て活動するにあたり、白薔薇騎士団はその数を半数に絞った。

 補給の関係もあるのだとは思う。

 ル・アドゥフーリカ皇国から補給が受けられる訳ではない。

 かと言ってクォルティーガ教国から遥々、物資を届けてくれるはずもなく。

 現地調達、自給自足で賄うしか道はない。

 人数を減らし負担を軽減するのは避けられないことだ。

 あわよくば、戦力の半減とならないことを祈るばかりだ。


 入国の際、一悶着あった。

 カラフセィカ軍国にいる筈の姫殿下がクォルティーガ教国より舞い戻ってきた。

 "聞いてない" 検問所の兵はその一点張りだ。

 偽物とかではなく、先触れもなく来られても歓待のしようがない。

 王宮に問い合わせるまで待って欲しいと言う。


「魔女が狙っているのです! 秘密裏に王城へ戻る必要が理解できませんか? 国王の娘である私に、従えないと? 」


 ラッセル達の用意した文言を、私はそのまま言うだけ。

 どこまで協力的か見られているのも分かっている。

 脇に立つジュゲンズも満足そう。

 彼は私に対して半信半疑なように感じる。

 クォルティーガ教国に入った辺りから必要以上に近付いて来なくなった。

 警戒はしているのは分かる。

 けれどそこまで疑っているようにも思えない。

 相変わらずナルシスト気味な言動が気になる。

 

 王城へ使いも寄越さず、検問所を抜けれたのは上出来と言える。

 半日もかかってしまったのは仕方ないか。

 何しろ護衛がクォルティーガ教国の白薔薇騎士団だ。中央区第三位のシスターの存在はこの際、知らせる必要はないだろう。

 カラフセィカ軍国第二皇子もいるし、国境検問所で判断出来る範囲は越えている。

 姫様に忠誠を誓うポーズをし、検問所の兵達は一行の通過を見守った。

 王城に知らせを出さなかった事が、後でどう作用するかは、誰にも分からない。


「それにしても目立ち過ぎでは? 」


 白薔薇騎士団の格好はいわゆる舞台衣装のような一種独特な華やかさを含んでいた。

 これが、目立った。

 補給部隊は先を行く。

 今日、泊まる施設を、明日食べる食糧を、必要になる雑用品の手配をするためだ。

 仮にそれが上手く行かなかった場合、ルートの変更も辞さないらしい。

 補給が途絶えての行軍は、我慢比べの長距離走より悲惨だと教えられているからだ。

 最悪、野営も出来るよう用意はしてあるとか。

 どこまでも用意がいいのは感心に値する。

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