第23話 モヤモヤ



「ヴェラディ、何処行くの? 」


「ちょっと呼ばれましたので…… 」


「あ、ああ…… そうなの? 」


 移動1日めの宿泊先。

 ヴェラディは隠すでもなくそう言った。

 ジュゲンズに呼ばれたと。

 別に嫉妬したりはないけど、なんか心がモヤモヤするのはきっと気の所為。

 不貞行為は禁じられているし、そう言えば、ジュゲンズのしてる事って、不貞行為に当たらないのだろうか。

 ここはまだクォルティーガ教国なわけだし。


 部屋には私ひとり。

 食事も湯浴みも終えて、あとは寝るだけ。

 そんな状況で、ちょっと悶々としている。

 大人しく寝ると言う選択肢はない訳で。

 ガウンを着て、部屋を出た。

 ここは、宿屋の類ではなくて、誰か個人のお屋敷と聞いている。

 もちろん、部外者は誰も入れない。

 持ち主の人さえ、居ないとか。

 国賓を迎えるのだから、その位徹底していてもやり過ぎにはならないらしい。

 廊下に向こうに歩く人影が見えた。


「か、か、カトリーヌ様? 」


 向こうは私を知っているらしいが、私は知らない。


「食堂はどちらか、知ってらっしゃいますか? 」


「ご、ごあんないします! 」


 妙に力の入った返事は、きっと騎士団とかの娘なのでしょう。

 昼間は兜が邪魔で顔が良く見えないので。


 ガヤガヤと喧騒が近付いてくる。

 食堂にはまだ沢山の人がいるらしい。

 案内され、テーブルが幾つか並んだ食堂の端の方の席に私は座った。

 なんと、20〜30人いる殆どが女性だ。

 酒を飲んでいる者も、沢山いる。

 と言うか、宴会のさなかに迷い込んでしまったかのよう。


「お酒って何処で貰えるのかしら? 」


「自分が取って参ります、しばしお待ちを……」


 軍隊形式の返事をして、踵を返す案内してくれた娘。

 まだ若そうだし、新しく入った娘とかなのでしょうか。


「ん? 見ない顔だな? 新入りか? 」


 いきなり声をかけられる。

 ドカッと隣りの席に座る。

 見れば、簡素な寝巻きを着た女性だ。

 

「そ、そう見えます? 」


「高級そうなおべべ着てんな…… ジュゲンズ様のアレか? 今日は呼ばれんのか? 」


 なんか変な勘違いをされたらしく。

 酒を持って戻って来た娘が立ち尽くしている。


「せせせ、先輩! その方は…… 」


「あら、ありがとう…… 」


 手を伸ばして、持ってるトレイから酒の入ったコップを貰う。

 ゴクッとひと口、酒を飲む。


「あなた、何て名前だっけ? 」


「シスシルです! こっちが先輩のレンチェルです! 」


「なんだ、シスシル、知り合いなのか? 」


「いえ、こちらのお方は…… 」


「シスシル、そんな事、どうでもいいじゃない? アタシはロフ、 そう呼んで…… 」


「は、はい! 承知いたしました! 」


「なんだ、気合い入ってんな? で、なにか言われてきたのか? 」


「あっ! まだ、行ってませんでした! 」


「ばか、すぐ行って来いよ! 」


 "失礼します!" とシスシルは行ってしまった。

 慌てた様子で、何処へ行くのだろう。


「で、ロフは何処所属なんだ? アタイら補給組とは違うんだろ? それとも金持ち相手のアレとか? 」


「そうね、そう見える? 」


「なんだよ、面倒くせぇなぁ…… 今頃、シスシルはロメール様に手籠めにされてるってぇのに…… 」


「え? そうなの? 」


「新人がロメール様に夜、呼ばれるってぇのは、他に何かあると思うか? 」


「そうよね、他に何もあるわけないわね…… 」


「お宅は、ジュゲンズ様に可愛がって貰えんだろ? 」


「いえ、まだよ…… ねぇ、お酒もっとくれる? 」


「お〜い、お前、酒持って来てくれ…… 」


 "了解っす" と近くのテーブルにいた娘が行ってくれた。


「なんだよ、まだかよ、 今度呼ばれたら、教えてくれよ、 王様になる男のナニがどうとかさ、教えてくれよ…… 」


「たぶん、男なんて、みんな似たようなものじゃないの?  」


「ばか、それ言ったら終わりだろ〜よ、 あの、お姫さんも、いいケツしてたからさ、男好きなんじゃねぇかって、話だしよ 」


「あー、いいケツなのかなぁ…… 」


「なんだ、お前、自信ありげだな? まあ、しょうがねぇか、プロなんだしな…… 」


「あら、ありがとう…… 」


 持ってきたコップを受け取る。

 

「ロメール様に比べたら、あんなのちんちくりんじゃない? 」


「ぶっ! 見たことあんのかよ? 」


「そうねぇ、 そういう事にしときましょうか…… 」


 「あー、アレだろ、しゅひぎむってんだろ? 客の秘密は明かさないっての 」


「ンフフフ、 知ってるじゃないの…… 」


 クォルティーガ教国と言えども、庶民に近い者は変わりないのが分かった。

 先輩は、かなり砕けた人だ。

 歯に衣着せぬ言いっぷりが、気持ちいい。


「あ〜あ、 アタイらにも男補給して、くんねぇかなぁ…… 」


「そんなにご無沙汰なの? 」


「自慢じゃねぇが、アタイは純潔守りたくて守ってる訳じゃねぇんだよぉ…… 」


「ああ…… 」


 そんなに不美人と言うほどではないのに不思議だ。

 私から言えるのは、このオヤジみたいな独特な雰囲気が、男を遠ざけてる気がする。

 私も人の事、言えた義理ではないけど。

 元男なんだし。

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