第22話 池



 クォルティーガ教国とル・アドゥフーリカ皇国の間には、協定が結ばれている。 

 クォルティーガ教国側が聖地と勝手に言い出して武装した者が、勝手に池の周りの警備しはじめていた。

 自国内で他国が勝手な事をして問題にらない訳が無い。

 小さな町ではあるが、気味が悪いと苦情が多数になると、町を取りまとめる者と警備する者との間で話し合いが持たれた。

 ここでクォルティーガ教国の融通の利かなさが露呈する。

 何よりクォルティーガ教国の国民の総意がこの地に注がれていると、ル・アドゥフーリカ皇国側の言い分を全く聞き入れなかった。

 曲がりなりにも他国の領土である。

 自国の法力が及ぶ筈がないのに、頑ななクォルティーガ教国。

 話は拗れ、大きくなる一方でついには国と国との協定にまでなってしまった。

 その時の取り決めに今でも不満を抱いているクォルティーガ教国の願いはひとつ。


「池の周囲だけでも自治権を認めて貰えないでしょうか? せめて御力添えだけでもいただければ…… 」


 聖地が欲しい。

 嘘、偽りもなく、クォルティーガ教国は欲しいものを欲しいと訴える。

 そこに駆け引きも何もない。

 あるのは純然たる願い。

 逆にそれを餌にすれば、何でもやるのではないか。

 そんな危うさを孕んだ教国は、やはり、そう言ってきた。


「彼が決めること、私ができる範囲はそれほど多くありません。それで宜しければ…… 」


「そのお言葉だけでも救われた思いです。

 聖地奪還は我らが悲願、たとえ半歩ずつでも近づけるのなら、それで、満足です…… 」


 まあ、魔女が聖地を荒らさないとも、限らないし、 彼女らが魔女を敵視してくれるのは共通の利益に叶うのは、間違いない。

 ホクホク顔で下がる第三位シスター。

 そのあと、ジュゲンズが顔を出す間の悪さに、私は運命のようなものを感じた。


「ラッセルの提案で、君の国には、挨拶に行くと言ってしまったけど、場合によっては、強引に王位を奪う事になるかもしれない……  騎士団のロメールさんやシスターエレノーラの前で適当な事を言ってしまったのは、悪手だったように思う…… カトリーヌはどう思う?」


 メイドが部屋の隅で控えているのに、そんな重要な事をあからさまにしていいのだろうか。


「私は…… 」


 あなたのお母さんに生きたくば国に戻って結婚しろと、命じられた。

 とは、言えない。


「それで国が救えるなら…… 」


 お姫様として真っ当な事を言うしかなかった。

 身代わりの癖に良く言うと、ヴェラディの目が冷ややかで、そう言ってるように感じられた。


「僕は母に…… 例え君が、偽物でも結婚して王位に就けと、言われたんだ…… 」


 あ、それ言っちゃダメなやつでは?

 ここで、それを言うのかと、彼の目を見た。

 "カラフセィカでは、第二でしかないからね" と寂しげに付け加える。

 それには邪魔なのが魔女だ。

 その魔女を始末してくれるなら、クォルティーガに、借りを作るのも目を瞑ると。

 要するに、彼とは利害が一致するわけだ。

 魔女と第二婦人リャクニーヤから、身を守りたい私と、リャクニーヤの言いつけを守りたいジュゲンズ。

 王位を勝ち取った後はカラフセィカよりクォルティーガと仲良くしたいと思っているのだろうか。

 そこまでは読めないが、王位を目指すまでは、協力出来る。

 そのまま、お后として生きていくのは、気がすすまないが、その後のことは、その後に考えるしかない。


「エレノーラさんから、聖地の自治権を欲しいとお願いされたわ、 クォルティーガの悲願だとか 」


「聖地? そんなものがあるの? 」


 彼は聖地の話を知らなかった。

 他国には広まって無いか、彼が勉強不足なだけかもしれない。

 説明すると、その程度で協力が得られるなら別に認めるのは、構わないらしい。

 ただ、そんなに欲しがるのなら、今後も支えそうとは、口にしていたが。

 彼も王族の一員と言うことが分かった。



 教皇、枢機卿達に礼と別れを告げ、私達はやっと隣国ル・アドゥフーリカ皇国へ向けて出発した。

 相変わらず白薔薇騎士団が護衛についた。

 馬車には、ジュゲンズ、私、シスターエレノーラ、そしてメイドのヴェラディの4人の顔があった。

 見ようによっては、ジュゲンズのハーレムのようなものだ。

 しかし、まだ15歳の青年とも少年とも言える年なので、ちょっと迫力が足りない。

 白薔薇騎士団のロメールさんと目があったときは、ニコッとされて、ちょっと恥ずかしくなった。

 道中、誘われたらどうしようかと思った。


 ジュゲンズは粗相もせずに、紳士的だとヴェラディに言ったことがある。

 すると、"良くお相手して差し上げてますから" と、にべもなく言われてしまった。

 彼女はそんな役も担っているとは知らなかった。

 確かに夜、いなくなる時がちょくちょくあった。

 きっとその時に、違いない。

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