第20話 全身揉みほぐし


 その屋敷には2日滞在した。

 3日目の朝、豪華な馬車に乗って、お偉いさんが迎えに来た。


「アリスト・ラテラス教会中央区、第三位、エレノーラ・ブレイアと申します…… 」


 教会中央区と言う謎のフレーズ。

 第三位と言うのだから、上から数えた方が早いと意味の無い直感でこの人は強いと感じた。

 白薔薇騎士団に前後を囲まれ、私達は連れて行かれた。

 既に巨大な組織の手中にあるのだと思うと、足元がふらつく気がする。

 座席に腰掛けながら、正面に座る表情を一切崩さないこのシスターが笑う顔を想像してみたけれど、それは無理だった。


「魔女がでたと聞きました…… 」


 ポツリと第三位のシスターが口にする。


「ル・アドゥフーリカ皇国と、カラフセィカ軍国の両国は、何故我々を無視するのでしょう? 魔女は我々クォルティーガ教国の敵だとお話してあるはずですが…… 困りましたね 」


 冷たい視線をなげかける第三位。

 私とジュゲンズを交互に見比べる。


「御二方にそれを聞くのも酷と言うものですね…… 」


 お忍びで婚礼の挨拶に行く2人に文句を言うのは、お門違いも甚だしいと気付いたらしい。

 国内はもちろんのこと、貴国に於いてもこの使命は全うされなければならないと、語気を強めた。

 

「この国には、魔女に対抗する強力な何かがあるのですか? 」


「そうですね、女神様より授かった数々の教えがあります…… 」


「教え、ですか?」


「詳しくは申せませんが、 魔女に対抗しうる力でもあります…… 」


 教えが力になる。

 一見、何のことか分からないが、呪文を教えれば、魔法がつかえるとか、そんなところだと思った。

 魔女の使う力とは魔法に他ならない。

 その力に対抗するのもまた魔法の力でなくて、他に何があるだろう。

 ひょっとして魔法において、この国は先んじているのかもしれない。

 本当にそうだとしたら、これより力強い護衛はいないだろう。


 第三位さんに連れられて何日も移動して、着いた先は、ル・アドゥフーリカ皇国の国境ではなくて、クォルティーガ教国の首都ベソネッタだった。

 国賓として、国の長に挨拶をと、言われると返す言葉もなかった。

 融通の利かない国だと忘れていた。


「正式な訪問でないのが心苦しいのですが…… 」


 ジュゲンズは頑張って、スピーチを捻り出してくれた。 私なんかより、ちゃんと皇子教育を受けた者は、さすが肝が据わっている。

 私は魔女の陰謀により、彼の国との関係が、ギクシャクしていると被害を訴えるしかできなかった。

 ずらりと並んだ教皇と枢機卿達の顔色が変わる。

 やはり魔女は、トリガーワードだったらしい。

 被害に遭ってる当事者からの訴えは反応がすこぶるいい。

 教皇から、国を挙げて歓迎する旨、お言葉をいただいた。最後に内密にと、付け加えられて。

 要請があれば、国外であっても魔女の被害から御守りすると申し出があった。

 私が率先して、提示された書類にサインした。

 遠慮なんかしていたら、命が幾つあっても足りなくなる。

 これで強力な援軍を得たことになる。

 魔女に怯える日もいつまでも続くことはない。


 非公式ながら、国の上層部の人たちと、会食の場が用意され、私とジュゲンズはル・アドゥフーリカ皇国の次期国王、お后として歓待された。

 表向きは国の親睦を深め和平をより強固なものにすると言うが、大きな貸しを作るのが目的なのは誰の目にも明らかだ。

 しかし、相手が魔女なのに貸しだ借りだと気にしても仕方ない。殺されてしまえば、それまでなのだから。

 

 3日ほど会食や貢ぎ物を携えた枢機卿の子の誰それ、孫のだれそれと何人もの面会をこなして過ごした。

 王族の務めだとジュゲンズは言うが、正直言って私は身が保たない。

 作り笑顔のし過ぎで頬が痙攣しそう。

 もちろん相当なストレスに違いない。

 夕方、用意された部屋に戻る。

 所謂悶々とした状態で。

 

「ずいぶんと、お疲れのご様子…… 」


 肩凝りを訴えるとヴェラディがマッサージをしてくれる。

 肩はもちろんのこと、首筋から背中にかけてコリコリ状態だとか。

 腰も重く感じるし、運動不足で足の調子も良くない。

 湯浴みの後、本格的なマッサージをするからと、教国側の世話係の人と相談しに行った。

 

 そして、私は湯浴みのあと、寝巻き姿で寝室の隣に用意された固めの施術用ベッドに横になった。


「体の歪みは全ての結果に、影響しますゆえ…… 」


「えっ! 」


 私は息を呑んだ。

 部屋に入ってきたのは白薔薇騎士団長のロメール・シニョンその人だ。

 鎧姿も素敵だったが、ラフな服装も素敵だ。

 スラリと伸びた手足、抑揚のあるボディラインは女性の鑑のよう。

 なぜ彼女が出てきたのか訳が分からない。


「あの…… 」


 半身を起こして振り返る私の肩を優しく抱え、ロメール様は、私をベッドに横になるよう促した。


「騎士団は体が資本、不具合があれば、いざと言う時には力を発揮できません。我々は普段から体のケアを欠かしません、言うなれば、その道の玄人プロと言えるでしょう…… 」


 既にマッサージは、はじまっていた。


「ああ…… 」


 凝ってる所を揉まれると自然と声が出てしまう。

 肩、首、背中、腰、股関節周りにしこりがあると、入念に揉みほぐされた。

 寝巻きがはだけ、下着も露わになる。

 別に同性同士だから、気にしなかった。


「あん…… 」


 ちょっと、変な処を指が撫でた。

 気持ち良くて睡魔に襲われはじめていたのに、一気に覚醒する。

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