第19話 正義の味方



 ここに来るまで、私もジュゲンズも簡単な変装をしていた。

 しかし、クォルティーガ教国では、身を偽る事に殊の外敏感なのだとか。

 皇子は皇子のまま、お姫様はお姫様のままで。

 しかし、その上でお忍びであると伏せるのが、正道とされている。

 いわゆる融通の利かない堅物が多いと言う事だろうか。


「聞く処に依りますと、今回の件、裏で魔女が暗躍しているとのこと。 アリスト・ラテラス教によりますれば、魔女とは災悪の象徴、女神アリストの御名において、けっして相容れない存在とされております…… 」


「ラッセルはそれが良き道だと? 」


「はっ、愚考ながら宜しいかと…… 」


「姫君も、賛成してくれるかな? 」


 だから、君は段々と変な方向に染まりつつあるんだからね。


「お任せしますわ…… 」


「そうかい、 なら話を進めてくれるかい? 」


「御意に…… 」


 私とジュゲンズは、豪華な王族の服に着替えて部屋で待つ。

 ヴェラディは側使いの着る上等なメイドを身に着けている。

 孫にも衣装とは言わないまでも、結構、似合ってて、楽しい。


 昼前に入った宿屋の部屋に、赤と白に塗り分けられた鎧姿の集団がやって来たのは夕方のことだった。

 兜の上の羽の飾りがたなびく。

 白いマントがカッコイイ。

 見るからに正義の味方感がヒシヒシと伝ってくる。

 兜を脱いだらなんと、それは女性だった。

 そういえば、胸の処に妙な出っ張りがあると思った。


「白薔薇騎士団、団長ロメール・シニョン以下20名、ル・アドゥフーリカ皇国御息女カトリーヌ・ルスゼント姫、並びにカラフセィカ軍国皇子ジュゲンズ・オフィリード殿、お迎えに上がりました 」


 ベルサ◯ユのバラにでも出てきそうな絵面。

 画面に薔薇の花びらが舞うシーン。

 宝◯歌劇団の花形男役スターかと思えてしまう。

 芸能人オーラを感じてしまった。

 私達は丁重に馬車に乗せられ、丁重に屋敷に迎えられた。

 大きな教会の裏に建つ屋敷。

 そこは、この町の代表の務める言わば領主のような地位の人が住まう所だった。


「ようこそ、いらっしゃいました…… 」


 国境の町ハズオットと、周辺の町を預かるボルフィと名乗る男が恭しく挨拶をする。

 運良く白薔薇騎士団が国境の町の警備に居合わせて良かったと、これも女神アリスト様のお導きであるとか。

 さすが宗教国家だと認識を新たにした。

 "お忍び" であるからとラッセルに何度となく言われ、幾つかのセレモニーはキャンセルしたそうだ。

 白薔薇騎士団がこの町に居たのは、やはり、カラフセィカ軍国との国境の封鎖騒ぎの為らしかった。

 隣国からは、犯罪者逃亡の恐れ有りとのことで、一時国境封鎖の協力を要請されたそうだ。

 3日ほどで、解除になったのは、クォルティーガ教国から、これ以上の協力を求めるなら詳細を明かすよう要求した為だと教えてくれた。


「いくら犯罪者と言えども、我が国の精鋭白薔薇騎士団の前では、命乞い位しか出来ぬでしょうがね…… 」


 彼女らが精鋭部隊とは知らなかった。

 規律は徹底されているような印象はあったが、本当かどうかは、分からない。

 お世辞を真に受けると笑われてしまう事もあるし。

 クォルティーガ教国の庇護に入り、ラッセル達から、今後の道筋を固める会議がはじめられた。

 先触れと言葉を濁していた連中も顔を揃えた。

 4人もいるとは知らなかった。

 合わせて6人の護衛が皇子につけられていたのが分かった。

 意見は求められなかったものの、話を聞く分には止められなかった。

 

「殿下と姫様は、ル・アドゥフーリカ皇国にて、婚礼の挨拶をする為にお忍びで向っている途中でございます…… 」


 大筋では、それで間違ってない。

 細かな事情まで正直に話す必要はない。


「しかし、この婚礼に異を唱える魔女が現れました。妨害工作をし、婚礼が叶わぬよう、両国同士を、仲違いさせようとしている 」


 気に入らないのは婚礼より存在そのもののようだけど。


「魔女の脅威を退け、無事にル・アドゥフーリカ皇国への道中の安全に、協力して欲しい 」


 "全てはお忍びで行われるよう要請します" とラッセルは付け足した。

 悪くない筋書きだと思う。

 本当に全て秘密裏に行われるとするなら。

 問題はル・アドゥフーリカ皇国内に入ってからになると思う。

 これは、クォルティーガ教国には関係のない事になるから、ここで言ってもはじまらない。


 それらしい文面の文が用意され、私とジュゲンズの直筆のサインと蠟印が添えられた。

 私も一応、王族の身代わりとして、王族の紋章の刻まれた指輪を貸与されている。

 偽物かもしれないけど。

 何通か文は用意され、その全てに同じようにした。

 この手の工作が功を奏すことを祈るしかない。

 私の命も、彼等の活躍にかかっている。



「婚前交渉は、禁じられてはいないって、それ本当なの? 」


 私はメイド姿のヴェラディの顔を2度見した。

 そんなことを勧めるメイドがどの世界にいるのか。

 だって、お前は身代わりだろうと言われてる気がしないでもない。


「だ、だって、ここは、クォルティーガ教国なのよ? 」


「あ、そうでした…… 姦通罪は罪が重かったかも知れません…… 」


 "残念、残念" とか軽く悔しがるメイドが怖いです。

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