第18話 逃避行
翌朝は、馬車の中で迎えた。
ジュゲンズと私で、向かい合う座席をそれぞれ独り占めして、横に丸くなって寝た。
意外と良く寝れた。
夜中に馬を飛ばした疲れもあったのだろう。
「おはようございます 」
「んん…… あ、おはよう…… 」
ジュゲンズは気怠そうに目を覚ました。
"レディと夜を明かしてしまった" と冗談を言う元気はあるらしい。
昼近くになって、馬の交換と遅い朝食を摂る。
敢えて最短距離を行くのではなく、一度、クォルティーガ教国を経由してル・アドゥフーリカ皇国へ入るルートをとると護衛から説明を受けた。
ジュゲンズは頷く。
私は地理に疎いので、ちんぷんかんぷんだ。
クォルティーガ教国に魔女の息のかかった者が居ない事を祈るばかりだ。
護衛の一人は女性だった。
昼間は私の側使いとして傍にいるとか。
名前はヴェラディと言う。
彼女は父方が魔族の血筋で、魔法が使えると教えてくれた。
騎士団にも魔法を使う者は多いのかと、聞いたら騎士団には、属してないらしい。
別の精鋭部隊の出身だと言う。
軍国というくらいだから、色んな部隊があるのだろう程度にしか分からなかった。
「カトリーヌ様は、どの部隊で訓練を? 」
ええと、私はお姫様だから訓練なんて受ける筈がないのだけど。
暗殺者なのだろうと暗に言われてしまった。
そうですよ、私は魔女一味に身を置いてましたよ。
「さあ? 」
なので、そうこたえておきましたとさ。
国内では、目立った事は何も起きなかった。
正直怖い。
こんな時こそ、絶対絶命の波乱の幕開けとなる予感が。
気の所為であって欲しい。
国境の町に着いたその日。
突然、検問所が閉じてしまったと言う。
「間に合わなかったようです…… 」
ヴェラディはにべもなくそう告げた。
それだけではなかった。
王宮が、謎の集団の襲撃にあったらしい。
第二婦人が重傷を負ったものの、不埒な輩は撃退されたと言う。
国境警備の詰め所でヴェラディが、仕入れてきた情報だ。
きっと魔女だ、そうピンときた。
ル・アドゥフーリカ皇国の関係者の証拠を残して去る為に仕掛けたてきたとか、有りそう。
私が失敗したか何か察知して、次の手を打ってきたのだと思う。
「はぁ〜…… 」
溜め息をつく私に、 ジュゲンズは微笑む。
いちいち、やる事が様になってて、鼻につくようになっきた。
ゼルマークの後ろに控えていた頃の君はどこへ行ったの?
ナルシストにならないよう気をつけて欲しいところだけど。
「その噂はきっと、僕をおびき寄せるのが、狙いじゃないかな? 」
「それも、大いに有り得ます、 ジュゲンズ様の動向を探る目的かと 」
「やはり、ここで下手に動くのは愚策です 」
護衛のリーダーは男の方。
ラッセルと言う名の通り、いかつい体格で突進したら誰も停められなさそう。
私達は商人の風を装っている。
出来ればル・アドゥフーリカ皇国に入るまで、それは続けたい。
騒いで目立てば、魔女が嗅ぎつけてやって来るに違いない。
カラフセィカ軍国に来てからと言うもの、気の休まる日が少なくて困る。
3日経つと、国境は開いた。
厳重な監視の元、長い行列がユルユルと進む。
入るも出るも完全に、止めるのは限度があったのだろう。
食材なら腐りはじめてしまう物もあるだろうし、人によっては、待てない事情を抱えた者もいる。
地方の有力者が陳情を入れたら、一発で解けるなんて事も珍しくないだろう。
所詮、そんなものだ。
少し厳しい検問所を、私達は楽々通過した。
案ずるより産むが易し、そう思った。
クォルティーガ教国に入ると景色は一変する。
雑多な印象が欠片も見当たらなかった。
全てが整理整頓されている印象だ。
道端に生える背の高くない植え込みはキレイに刈り込まれ、玉子の形になっていた。
黒のワンピースに黒の被り物の女性が見える。
教会関係者である事は疑いようがない。
男性でさえ、無精髭を伸ばした顔すら見ない。
厳格な規律に沿って生活している。
そんなピリついた雰囲気の町に見えた。
「ご提案が御座います…… 」
宿屋の部屋をおさえ、その個室に入るなり、護衛のラッセルがそう切り出した。
ジュゲンズと私の前に跪く。
ヴェラディもだ。
要はクォルティーガ教国に助けを求める。
内容は簡単だ。
しかし、それは、危険過ぎる賭けではないだろうか。
既に先触れの班御当たりをつけており、交渉に入るか否か、こちらの判断待ちなのだとか。
そんな段階に達しているとは知らなかった。
彼らはカラフセィカ軍国の者。
ジュゲンズ皇子を全力をもって御守りする使命を背負っている。
私はそのオマケ程度なのだろうけど。
まあ、私が死んだらル・アドゥフーリカ皇国に辿り着いても路頭に迷う事になるのは、目に見えているが。
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