第16話 女と剣
翌日は、皇子達との正式な顔合わせとなった。
各お后様が間に入ってくれたので、昨日より緊張しないで済んだ。
第一婦人は、食べ物と美容の話にとても熱心だった。
自分の息子そっちのけで話に夢中だ。
予めシレイユから情報を入れて貰っていたので、それが功を奏した。
第二婦人は、変わった人だった。
騎士団出身と聞いていたが、剣の話は殆どしなかった。
第二皇子の剣についてのみ話してくれた。
「女だてらに剣を振るのは慎むべきではないですか? 」
「この国では、そう教えられているのですか?」
話が違う。
文武両道とは言わず、武道に秀でた者が持て囃されるお国柄と聞いていたが。
「いえ、武芸に秀でた者には相応の地位が約束されると、説いてます…… けれど、それは男に限ったこと。 女が剣を振って得られる物はそう多くありません 」
「得る為に振る剣と、守る為に振る剣は、果たして同じでしょうか? 」
「カトリーヌ殿の剣は守る為だと? 」
「はい、護衛の者から教わった守る為の剣です…… 」
攻撃は最大の防御と言う言葉もありますから。
「なるほど、 しかし、剣を交える以上、得る為に振られた剣を跳ね返す力がなければ、守るものを失ってしまいます 」
「はい、だから剣を振る者は鍛錬を積むのを止めないのだと、思います 」
"フフ" と第二婦人の鼻で笑う仕草で話は終わった。
嫌われたと思った。
出来ればゼルマークよりジュゲンズの方が良かったのに。
決めるのは国王だから、気にしても仕方ないのだけど。
しかし、翌日、稽古の相手をしてくれる女性の、都合がついたと、シレイユと共に稽古場へ行くと、待っていたのは第二婦人その人だった。
訓練用なのか木の防具を身に着けている。
「守りの剣とやら、受けてあげましょう…… 」
「あ、分かりました…… 」
私は、いつもの服のまま。
防具自体、持ってないから。
儀礼用のカッコいい鎧とかあると良かったけど、そんな、育て方はされてなかったらしい。
大事に大事に、蝶よ花よと甘やかされて育てられたらしい。
木刀を片手に稽古場の中央へと進む。
「防具は? 」
「持ってません 」
「怪我は覚悟の上だと?」
「優秀な治癒士がいる国と聞いてますので 」
憎たらしい口を叩く娘に思われただろう。
「では、はじめる 」
剣を両手で持ち、胸の前に掲げて挨拶とする。
剣を下ろしたらはじまりだ。
「うわっ! 」
いきなり、凄いスピードで踏み込んで来た。
獣人族特有の身体能力の高さ故の踏み込みの早さだ。
横薙ぎに払ってきたのを、後ろへジャンプして退く。
深追いして来ず、構え直す婦人。
「今のを躱すか…… 」
「では、行きます…… 」
私は、振りかぶった。
その姿勢のまま距離を詰める。
懐へ飛び込んだ。
婦人は横へ逸れる。
打ち込んで来ると予想したが、様子見のままだった。
私は、行き過ぎた所で止まる。
振り返り剣を構え直した。
「悪くない…… 」
と言った瞬間、婦人が飛び込んで来た。
左肩から袈裟斬りに振り下ろす。
私はそれを剣で受ける。
と見せかけ、腰を落として足を伸ばして足払い。
大きく上体を崩した婦人は堅手をつき、横へ転がって避ける。
「なんと、見くびっていたのは私の方か…… うりゃああああっ!! 」
先ほどより更に早い打ち込みが来た。
もう身体強化の魔法抜きでは追いつけない。
迷わず魔法を使う。
何をしてくるか分からない相手に、真正面から打ち合う気概は持ち合わせてない。
それをするのは "死にたい病にかかった馬鹿" だと呼ぶとヒュリカから教わった。
剣を逆手に持ち替え、腰を落とす。
斜めに走り出す。
そこには壁がある。
追うように迫る婦人。
壁を蹴り、上に跳んだ。
婦人の頭上を超え、背後に回ると、見せかけて、肩へ剣を射し込む。
ガン!と防具と木刀の当たる鈍い音がする。
婦人は、転がってその場を離れる。
スピードを落とすと、立ち上がった。
片手がダラリと下がっている。
腕が上がらず剣は持てないのか。
「参った…… 」
「ありがとうございました 」
婦人はその場に腰を下ろした。
私はそこへみ寄る。
「さすが暗殺者だ…… それだけの腕前なら息子2人ぐらいさっさと殺せたろう? なぜ、殺らない? 」
「え〜と、何のことでしょう? 」
私は、人生はじまって以来の、最高の作り笑いを披露した。
「魔女がそう、告げに来た。ル・アドゥフーリカ皇国はカラフセィカ軍国をコケにして笑い者にしようとしてるとな…… 」
「魔女、ですか? 」
「本物の姫は人形に変えられてるのだろう? お前は身代わりで連れて来られた町娘。しかも、暗殺者として育てられてると…… 」
「身代わりですか…… 」
ダメだ。
私、詰んでる。
おかしな真似をしなくて良かった。
どちらにしても全てバレてた。
魔女は、はじめから私を捨て駒にしていたのだ。
次の指令など、ある筈がない。
ここで私は、捕まって死ぬのだから。
けれど、当のお姫様が人形に変えられてるのなんて知らない。
本当にそうなのだろうか。
私が受肉する時に、確かに一緒にいたのは覚えているけれど。
「よく、分かりません 」
「まあ、そう言うな、お前には監視がつけられてる。今はそのシレイユだけだがな…… 」
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